3、2、1。 時計の針が24時を回り、12月31日がやってきた。 今年も忙しかったなぁと1年を振り返る。
..千歳にはあんまり会えなかった。
わたしは東京の高校に通っていて、千歳は大阪の高校に通っている。 中学は大阪の四天宝寺で一緒だったんだけれど、親の転勤と重なって大阪を出た。 千歳が同じクラスに転校してきて、隣の席で、授業にはぜんぜんでないけどいいやつで。彼に落ちるまでそんなに時間はかからなかった。 片思いで終わると思っていたら実は彼も同じで、晴れてお付き合いすることになった。
遠距離でたしかに不安はあるけれど、わたしは千歳を信じる。
右手でケータイを握り締め、た行から"千歳千里"を開く。 発信ボタンを押して1、2、3、4、5コール目で彼は電話に出た。
『もしもし?』
「ゆかり..。」
電話越しに聞く千歳の声、生で聞いたのはもう何ヶ月も前。 機械を通さない声を聞きたい、本物を見てしゃべりたい。左手には卒業の日に撮った彼との記念写真。 メールは毎日、電話は時々。 千歳の性格を考えると、メールが毎日続いてることにわたしはびっくりだ。 引っ越す前はまったくしなかったもん。
『ごめん、寝てた?』
「起きとった起きとった、マナーモードにしてたっちゃ。」
嘘でしょって笑う。彼の声はいかにもさっきまで寝てましたというものだ。 千歳のことだもん、メールも電話も無視して普通に寝るつもりだったんだろうな。
『千歳、誕生日お「まだ言っちゃいかんと!」
『え?あ、うん...。』
それなら電話の最後に言えばいいか。 千歳の考えることはよく分からない、そんなところが好きなんだけどね。(照れる!) 最近何があったとか、元四天宝寺テニス部のあいつに彼女ができたとか久しぶりの電話に花を咲かせ、長々と喋ってしまった。
『ねぇ。次、いつ会えるかな。』
「冬休みは大阪に帰ってこんと?」
冬休みは親が風邪をこじらせて実家に帰ることができなくなってしまった。
一人でおばあちゃん家に行っても良かったのだけれど、もしも二人そろって沈んでしまったら面倒を見る人がいない(兄貴に任せるのは危ない)。だからあきらめたのだ。
『だから春休みには、一度帰ろうと思ってる。』
「俺はもっとはやくゆかりに会いたか。」
『無理言わないでよ。』
会いたくなるから。 千歳に聞こえたか聞こえなかったか、それくらいの音量で呟いた。
「無理じゃなか。」
『は?』
「ゆかりは肉まんとあんまん、どっちを好いとう?」
『..はぁ?』
急にどうしたんだ。 しかも勝手に「たしかあんまん..」とか決めつけるし。そうなんだけど。 そういえば、中学の帰りに時々コンビニに寄って千歳は肉まん、わたしはあんまんを買って食べたよなぁ。懐かしい。 公園に寄ることもあったし、寒いときは互いの家でこたつに入った。
今はできないのかと思うと、悲しい。
そもそも千歳は覚えてるのかな。千歳のことだから、忘れてるかもしれないなぁ。
きっとそう言ったら、忘れてても「覚えてるっちゃ!」って拗ねるんだろうな。でかいくせに可愛いところがあった。
ピンポーン。家のチャイムが鳴る。
『あ、誰か来た。いったん切るよ。』
後でかけ直す、と電源ボタンを押す。 誰だろ、友だちん家行った兄貴が寒すぎて引き返してきたのかな。え、それとも不審者とか空き巣?いやいやいや、電気点いてるから人いることくらい分かるでしょ。
玄関にある覗き穴で確認する。インターフォンなんてハイテクな機器はない。
...背、でかくね?顔が視界の限界を越えて見えないんだけども。 黒いコートにコンビニの袋。 袋を持っていない手がケータイを取りだし耳に当てる。
そして鳴るわたしのケータイ。
『千歳、どうしたの。』
「なぁ。玄関、開けてくれんと?」
まさか。 チェーンを外して鍵をあけて勢いよくドアを開く。
『ち、千歳..。』
「さっきの続き、今言ってほしか。」
「...た、誕生日、おめでと..。」
あぁ本物だ。 ぽろぽろっ涙が溢れる。目の前にいる千歳は本物なんだ。
言葉が出るよりも先に体が動く。 ぎゅうっと千歳に抱きついて、抱き締めて『会いたかった。』と呟く。
「俺もたい。」
って抱き締め返してくれる。
あぁ、このまま時間が止まってずっと千歳と一緒にいれればいいのに。
柄にもなくそんなことを思った。
「これ、お土産たい!」 『ありがと。』 「昔に戻ったみたいやね。」 『じゃあこたつに入ろっか!』
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