「あ、ゆかりさんおはようございます!」
いつもより遅めの出勤。普段が早くてよかったと自分の日頃の行いに感謝する。 美南ちゃんはわたしが普段より遅いことに気付いていたみたいですぐに駆け寄ってきてくれる。
「…大丈夫でした?」
『ちょっと長くなっちゃうから、その話は昼休みにするね。』
平気な素振りを見せて自分のデスクへと向かう。そんな顔をしていても、内心は不安でいっぱいだ。 新しい命を宿している体。果たしてわたしはこの子を育てることができるのか。中絶も一瞬は考えたけれどすぐに否定した。わたしは一人でもこの子を育てる。
それよりも、リョーガに何て言えばいいのか。何て言われるのか。 そもそも産まれる前に帰ってくるかが問題なのだけれど。産んだ後に帰ってきたら何を言われても気にすることはない。その前に帰ってきて、堕ろせなんて言われたらどうしよう。
…深く考えると余計に暗くなってしまうから、今は目の前の書類のことだけを考えよう。
そう、いつも通りに。
***
「ゆかりさん、午前終わりましたよ?」
自分の集中力に感動する。数時間まったく休憩することなく余計なことを考えることもなく午前を終わらせることができた。 その証拠に、今日の分の仕事が半分以上片付いている。
『ありがとう、じゃあ食べに行こうか。』
社内の人にはあまり聞かれなくない、そんなわたしの気持ちを悟ったのか美南ちゃんは近くのカフェへ誘ってくれた。 本当によくできた後輩だと思う。
やっぱり妊娠していたこと。とりあえず彼の実家に連絡してもリョーガの行方が分からなくて、代わりにリョーマくんがきてくれたこと、今日また来てくれて話し合うということを手短に話した。 不安もあるけれど、自分はこの子を育てるつもりだということも告げた。
すぐに返事はこなかった。沈黙が続く。 わたしだって、急にこんな話をされたら何て声をかけていいのか分からなくなる。 本当に申し訳ないけれど、わたしはこうして話せる相手がいるだけでありがたい。
「わたしは、ゆかりさんが幸せになれるためなら何でもしますから!…いつでも頼ってくださいね。」
『…ありがとう。』
わたしはとても良い後輩を持ったと改めて思った。
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