「ゆかり遅かったやん。」

『なんか知らない後輩に絡まれた。』

んでこれもらった、と渡されたストラップを見せる。
どこかで見たことがあるような気がするんだけれど思い出せない。なんだったっけか。…あ。

あれだ。ジュースのマスコットキャラクターだ。


「あー!これ、今CMで流行ってるやつやん。ええなぁ。」

『欲しい?ならあげるよ。』

「ええの?おおきに!」

知らない子にもらったやつだし、特に欲しかった訳じゃないし付ける気もないし。それだったらぶら下げてくれる人のところにいった方がこのストラップも幸せなはず。
うん、そうだよ。


それっきりストラップのことは頭からすっかり抜けてしまった。

***


顧問の先生に頼まれ、部活のプリントを後輩のところへ届けに今2年生の階にいる。
職員室からすぐの階段に一番近い7組から配ろう。

そして7組の教室の扉に手をかける。すると中から見覚えのある男の子がやってきた。

このツンツン頭にごっついピアス。どこで会ったんだっけ。

「こんにちは、先輩。俺があげたストラップつけてますか?」

…あ。ストラップくれた子だ。

へえ、2年7組なのね。どうでもいいことなんだけど。
この子はクラスでそれなりの存在感があるのか、それとも3年生がめずらしいのかすごく視線を浴びる。多分前者だと思う。


『ごめん、友だちが欲しいって言うからあげちゃった。』

そしたらすぐに分かりやすく、ふてくされた顔になった。

今さらなんだけど、この子すっごい整った顔してるんだよね。ふてくされた顔なんて普通はブッサイクになるけれど可愛く見える。

これイケメンの力ってやつですか。


「なんで先輩が付けてくれへんの。」

その言葉にちょっとカチンとくる。
別にあんたはわたしの彼氏でもないし友だちでもない、それ以前に知り合いでもない。
もらい物を人にあげちゃう自分も悪かったけど、そんなことを言われるような関係ではない。


「俺、先輩のためにストラップ取ったんやけど!」

もしかして、この子はわたしに好意を持ってストラップをきっかけに近付いてきたってことなのか。
…なんか余計に悪いことをしたような気分になる。

それと同時に、この子を心のどこかでいとおしいと思っている自分に気がついた。





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