時間が過ぎるのは早い。こういう日は特に早く感じる。 約束の昼休み、仕方なく屋上へ向かおうとしたら千石清純がいた。
「迎えに来ちゃった。」
不覚にも、照れて笑う彼に胸が高鳴る。 いや、ない。あり得ない。違う。 だってほら、顔は良いし。イケメンに微笑みかけられたらそりゃドキッとかキュンッくらいする。いたって普通の反応をしたまでだ。
そろって階段を上り屋上の扉を開く。 この時期、寒いせいかあまり屋上で食べる人は多くない。いないわけじゃないけれど。例えば、わたしたちとかね。
「いただきます。」
日当たりは良い。でも寒い。 風が吹いてないだけマシだけれど、やっぱり寒い。 特に話題もなく黙々と食べる2人は端から見たら罰ゲームなんだろうな。
「ねぇゆかりちゃん。」
『何?』
「俺のこと、好き?」
『..まだ、好きじゃないかなぁ。』
そうやってまた黙々と食べる。 沈黙が好きな訳じゃないけど、話す内容がないんだもん。
「ねぇ、ゆかりちゃん。」
『今度は何?』
「ゆかりちゃんの卵焼き、食べたいなぁ。」
『え、やだ。』
卵焼きは朝ごはんやお弁当の定番でありわたしの好物。香川家の卵焼きは砂糖で甘く味付けられていてすごくおいしい。だしのやつもおいしいけどね。あと、弁当の大半を冷凍食品が占めている中、卵焼きの存在は大きい。まぁそんな訳なので渡すわけにはいかないんだ。
「じゃあ、じゃんけんして俺が買ったらちょうだい!」
『わたしの利益は?』
「俺の卵焼きあげるよ。」
じゃあ最初から交換にすればいいんじゃないのか。でも前回じゃんけんを負けてる身、勝てば卵焼きは2個だけど負けたら0個の賭けは危ない。どうしよう。
いや。女、香川ゆかり。
じゃんけんに負けたままというのはプライドが許さぬ。
『受けてたとう!』
最初はぐー、じゃんけんぽい。
『やった!』
わたしはチョキで千石はパー。この間の借りは返したぜ..。
自分の卵焼きを守り、更に千石の卵焼きを手に入れることに成功。ふっふーん。 ありがたく卵焼きを頂戴して口に放り込む。千石家の卵焼きはだし巻き玉子でした。
その後は部活のことやクラスのことなど他愛のない話をして、昼休みを終えた。
..別れ話なんてすっかり忘れてたよ!
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