今日も、雨、明日も、きっとそうなのだ。

寒い日だ。これなら死神が訪れるに相応だとくだらない期待を天に託す。
随分と長い間一人で居ると、昔の平凡な喧騒と非凡な日常とを当時それが当たり前と思い、当たり前ということにも気づかずにただ日々を繰り返していたように思う。
今ではそれらがまるで夢であったかのように、たった一人で思い出を拠り所にしてただ、日々をひとり繰り返し繰り返す。

あの舞い踊る美しき白、それが織り成す赤、それに寄り添う白い少女の甘い記憶。まるで頭に貼り付いたかのように自然と思い描かれる遠い愛おしき光景に、私は初めて胸を締め付ける程の寂しさと云うものを知ったのだった。

私は今日もまた、この雨の中で穴の空いた襤褸の傘を差してあの人を待つ。偶に声を掛けてゆく道行く人々は顔を隠していちゃあ待ち人も気付かんと笑うが、覆った顔の方があの人は喜んでくれる。
いつかあの人と交わした約束は皮肉にも今となってやっと私に効力を示したのだ。
そんなものを付けていちゃあ湿気てお化粧が台無しだ、そう云った人も居たが、白粉で着飾るものにあの人は興味を示さない。
私を、ただありのままの私を愛してくれた人は。

今日も、雨、明日も、きっとそうだと思っていた。


「そんな傘では折角の貴女がずぶ濡れですよ」


声が、した。
美しい、ただ待ち焦がれた、あの人の声が。


「…貴方こそ、御顔を隠していては勿体無いですわ」


今日も、雨、明日も雨。
それでも綺麗な傘ひとつで寄り添えば、寒くはない。

本当に死神が訪れたなあと笑うと、僧は何も変わらない声色でひどいですねえと優しい笑みを零した。




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