(犬と飼い主)




采配をふるう指先に注がれる目、視線の先に対し女の如く嫉妬をし蹂躙する敵の駒までもを羨望の眼差しで視る事の出来る異常者、否 狂犬は今主の後方で静かにお預けを解かれる合図を待っている。
常軌を逸したそれを理解しようともしないし出来る筈もなし。そんなものに同族扱いされた事は酷く屈辱的で腹立たしい事ではあるがそれは所詮、気違いの譫言に過ぎない。
しかしその言動や行動全てがいとおしく感じる自己もまた、あれとは違った狂気なのであろうか。

不毛な思考を巡らせているといつの間にやら並ぶ異質な気配、見やると血色の悪い唇は三日月、赤い舌が覗いた。

「戦かわたし以外の事は、無しですよ?」

何が可笑しいのかくく、と喉を鳴らした理由はおそらく眼下の、充満する殺意 焼け焦げ落とされ、狂犬の欲を満たすに充分な血飛沫の香。
嗚呼全く以て
(悪趣味、愚劣、外道――あとは、)


風を斬る音、
目の前には、刃。

「他のこと、考えないでと言ったでしょう?」

獲物を前に喰らい付く事を許されないが故の狂気の眼が、鈍く光る。
向けられるは実に愉しげな、児戯的な殺意。


「貴様の事を、考えていた」

これでは不服か、と珍しく正直に白状するとそれはそれは満足そうに笑み、

「では もういいですか」

仕方なしと遂に出してやった合図と共に血生臭さに飛び込んでいく背中は、数刻経てば朱に染まり幾つもの首を持ち帰って来る事だろう。
自分を裏切る事など出来はしないと言い切れるその所以は、やはり理解したいとは思わない。






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