1 転校生Aの場合
「この学園で、一番強い奴は誰だ?」
と、聞きまわっている大男がいる。
年齢だけなら、間違いなく“少年”に分類される彼だが、その熊のような巨躯と、岩のような厳つい顔だけ見たら、とても10代には見えない。
彼は、そのいかにも強そうな外見にふさわしい熱く激しい気性の持ち主で、喧嘩を生きがいとしている。すでに何十人もの不良少年やギャングなどを病院送りにしてきた歴戦の猛者だ。
そんな彼が、転校早々、一番の強者を探し求め、学園中を尋ね歩いていた。
――ヒソカ。
ワルはもちろん、普通の生徒や優等生からも、最も多く挙げられた名前。
期待に胸を膨らませつつ、ヒソカなる強者がいるというクラスへと乗り込み……。
「ヒソカって奴は誰だ!!」
と、咆えた。
周囲がどよめき、ざわつく。
教室にいる生徒達の視線が、自分から、次第にある方向へと移っていく。
転校生は、彼等の視線をたどった。
視線の終着点は、窓際の、一番後ろと、その前の席。
そこでは、ふたりの美人な女子生徒が、トランプで遊んでいた。
金髪の女と、長い黒髪の女だ。
先ほどの大声など、まるで聞こえなかったという感じで、ふたりババ抜きを楽しんでいる。
「……おい、俺は、ヒソカって奴に用があるんだが」
転校生の質問に、近くにいた生徒が、小言で答えた。
「だから、あの金髪の方が、ヒソカだってば」
「は……? ……はァ!?」
その回答に、大男は目を剥いた。
「ボクに何の用なの?」
金髪の女子生徒が、ババ抜きする手はそのままに、声をかけてきた。
どうやら、本当に“あれ”が、ヒソカらしい。そう理解した転校生は、
「〜〜ダメだ! 女は殴らん!」
と、嘆いた。
「殴る? え? キミ、ボクと遊びたいの?」
ここでヒソカがようやく大男へと向き直ったのだが、彼はすでに落胆した背中を彼女達へ向けていた。
そして、
「いくら強かろうが、女を殴る趣味はない。おい……この学園で、一番強い“男”は誰だ?」
と、先ほど質問に答えてくれた生徒に新たに尋ねていた。
お騒がせな転校生が去り、ヒソカ達はふたりババ抜きを再開した。
「男か女かで、やるかやらないか決める男って、結局、女のことを見下してるよね」
と、イルミ。
「んー、残念。彼、ちょっと強そうだったのに。ああいう硬派な子が相手のときは、女の子って不便だなーって思うよ」
「でも、ヒソカが男だったら、変質的な犯罪者になってそう。絶対、キルに近づけさせたくないタイプの」
「イルミひどい」