団長の裸体を見ても、ウボォーの気が変わることはなかった。世の大半の女が好みそうな、ほどよい厚みの、均整のとれた、引き締まった男の肉体を見てもだ。
 同じく裸になったウボォーは、立った姿勢のまま、団長のフェラチオを受けている。いつもよりも口内が熱いと感じるのは、気のせいではないのだろう。
「――クロロ」
 ウボォーは、彼の名前を呼んだ。
 すると、ペニスを咥えたまま、彼の動きが止まる。
「こっち見ながら、やってくれ」
 この要求に、クロロは、素直に応えた。大きな黒い双眸にウボォーの姿を映しながら、献身的なフェラチオを再開する。
 ペニスに吸いつく唇がいやらしい。唇の下でペニスをねぶる舌の動きは、もっといやらしい。
 ウボォーのペニスも、熱く潤んだ口の中で順調に育っていった。
 ペニスが完全に勃起すると、クロロは名残惜しそうに唇を離した。
 そして、彼はくるりとウボォーへ背中を向けると、潔く四つん這いになった。腕を折りたたみ、頭を低くし、腰だけを高く上げると、
「慣らさなくていい。もう準備はできてる」
 と、言った。
 ウボォーは両手で、彼の尻の肉を左右に広げてみた。
 ――アナル奴隷というものは知っている。抱いたこともある。
 目の前の肛門は、まさに、そのときの娼婦のような状態だった。
 ものほしげにひくつく肛門から、とろりとした透明な液体がこぼれた。粘液は、胸の奥をあぶるような、独特の甘い匂いを発している。
 ウボォーが嗅ぎとっていた匂いの正体はこれだ。
 高級なアナル奴隷ほど、主人――あるいは客、あるいは飼い主――と、商品である我が身をまもるために、肛門をつくりかえられていることが多いという。
 特殊な薬剤や植物を経口摂取する場合と、肛門から蟲を入れる場合がある。いずれにせよ、アナル奴隷の肛門は、もはや排泄用の穴ではない。ペニスを受け入れるためだけに存在する穴だ。
 排泄物は体内で浄化され、腸粘膜は清潔な粘液によってまもられる。この粘液は、性的興奮によって分泌されるのが一般的だ。精液中毒者の場合、禁断症状としての過剰分泌もある。どちらにせよ、肉体が、男の精液を欲しがっている証拠である。
 粘液の匂いは千差万別だが、いずれも、男の性神経を刺激する成分をたっぷりと含んでいる。五感の中で、人間の感情と本能にもっとも強く働きかけるのは、嗅覚だ。アナル奴隷の腸蜜の匂いは、オスの本質をあばき立てる。
 クロロの肛門の皺は放射線状に長く伸びているが、色は初々しい淡紅。おそらく、脱色されたのだろう。何度もアナルセックスをしていた者のそれではない。もっと黒ずんでいてしかるべきである。
 卑猥なほど拡がっている皺と、無垢な印象さえ抱かせる淡紅色という、実にアンバランスな組み合わせの“性器”が、官能的な匂いを発する粘液をたらして、独立した意志を持つ生き物のようにあやしく蠢いている。
 あまりのいやらしさに、ウボォーは、しばし目を奪われた。
「……ほらな。やっぱり無理だろ」
 沈黙をやぶったのは、クロロの小さな声だ。
「気持ち悪いものを見せてすまない。もうやめよう」
「いや、ちょっと驚いただけだ。前にヤった娼婦のケツ穴よりよっぽど品があるぜ。……あ!」
 慰めになってないし、なんでこんなことを口走ってしまったのか、ウボォー本人が一番わからない。
「あ゛〜〜! ほら! 挿れっぞ!」
 色気もロマンもへったくれもない。そういうのを望まれていないのは、わかっているが……。
 肛穴へ、亀頭を押しつけ、腰を進める。
 すると、肛輪はめくれて柔軟に拡がり、極太ペニスの一番太いところすら、ほとんど抵抗なくのみ込んでしまった。
 それでいて、ペニスを迎え入れた後は、もう離さないとばかりに、肛肉が砲身にぴたりと吸いつき、締めつけてくる。
 ほどよい熱と、たっぷりと粘液を帯びた中は、まさにとろけるような極上の具合である。
 件の娼婦を抱いたとき以上の気持ちのよさに純粋に驚いた。
(こりゃあ……マジでケツマンコじゃねェか!)
 絶対、本人には言えない感想である。
「うっ、……っ」
 一方、当のクロロは、腹の中に入ってきた特大ペニスの質量に唸っていたが……。
「……ダメだ……」
「な、なんだ!? やっぱ痛いか……!?」
「違う……、……くそ……、ウボォー、動いてくれ……オレのことはいいから、好きに……」
「よ、よーしっ!」
「……! ……ンンッ」
「おっ!? ぉおおっ……!?」
 動いてみると、思わず感嘆をもらしてしまうほど、快感が増した。
 熱を孕んだ狭い腸壁、腰を引くたびに追いすがってくる肛門襞、ぬるぬる絡みついてくる腸蜜……。ペニスに与えられる触感は、どれも極上。
 まさに女の穴だ。
 いや、女の穴以上だ。
 カッと全身が熱くなる。
 ――いったい、クロロは、こんな男として最低の身体にされるまでに、どれだけの恥辱と屈辱を受けてきたのだろうか。
 調教師から逃れても、どんなに強力なオーラで、どんなに強靭な精神力で、抑制しようとしても、男とセックスしなくては、結局は生きていけない。壊れなかった心も、刻みこまれた“メス”の欲望によって、現在進行形で蝕まれ続けている。
 ウボォーは、クロロをこんな身体にした調教師を殺してやりたいと思う反面、彼を抱いて興奮している自分にも、いやな気持ちになる。
 しかし、それらの感情は、今は必要ない雑念だ。
 やるべきことをやる。
 負の感情を燃料に興奮は増したが、がっつきそうになるのを、こらえなくてはならなかった。本能は、暴れたいと叫んでいる。
 おそらく、がっついてしまってもクロロなら大丈夫なのではないかと、頭の隅で思う。本当によく仕込まれている肛穴は、ウボォーの特大ペニスを銜えこんでいる状態でなお、蠢き、揉み扱く余裕さえあるのだから。
 しかし、クロロを物のように扱うのはいやだった。それこそ、彼を弄んだ連中と同じになってしまう。
 彼が満たされるように、それでいて傷つけないように、ウボォーなりに精一杯つくした。こんなに相手の心身をいたわる紳士的なセックスなど経験がない。
「はぅ……んぅ、んっ…………ごめん」
「ん?」
 謝りだしたクロロに驚き、ピストンを緩める。
「なんで謝るんだ?」
「声が、出る……」
「声? 出したきゃ出せよ。何、今さら遠慮してやがんだ」
「だって、萎えるだろ。男の声なんて……」
「……あのなぁ……現に萎えてねェだろうが、ほら!」
 わからせるために、ある場所を、意識して強めに擦った。ウボォーが見つけ出した、クロロの中がひときわ敏感に反応してくる“弱点”のひとつだ。
「あっあンッ」
 不意打ちの一撃に、クロロは先ほどまでの慎ましい喘ぎではなく、鋭い艶声をあげた。
「おお……っ! と……!」
 ウボォーはウボォーで、腸壁の蠕動と収縮というカウンターを食らい、腹に力をこめて暴発をたえるハメになった。
「お前を満足させてやるって決めてんだから、オレが萎えるとか萎えないとか考えなくっていい。いや、むしろ、考えんな。そもそもこっちは、お前がそうやって無駄に遠慮したり我慢したりして、またバカみたいなことしでかさないようしてんだからよ」
「バカみたいなことって、あれは……」
「つーわけで、我慢しやがると抜いちまうぞ!」
「わ、わかった、もう我慢しない……だから抜かないでくれ」
 脅しは覿面だった。
 それ以降は、“もう我慢しない”という約束をクロロは従順にまもってみせた。
「ん、んぁっ……あっ、あっん」
 クロロの声は、女のように甲高くはなく、それでいて耳障りな野太さもない。
 不快どころか、もっと喘がせてやりたくなってくる、官能的な声だとさえ感じられる。
「気持ちいいか? クロロ」
「うっ、ん……っ、すごく、気持ちいい……」
 アナルセックスの快楽を認め、女のように喘ぐのは、男のプライドをとことん傷つける行為だ。
 しかし、肉体の狂熱を飛ばすには、この方法しかない。
 快楽を認め、受け入れる――。そのためには、我慢しない。我慢しようとするプライドや羞恥心……理性を、吹き飛ばす必要があった。
 お互いが、それを頭と身体で理解している。
 理解はしていても、実行するには――特に、クロロには――より多くの、より強い快感が必要だった。
「ウボォー、もっと、奥に来てくれ」
 ウボォーはペニスを根元までおさめていなかった。深すぎる抽送は、苦痛しか生まないからだ。
 しかし、それは、普通の人間の場合だ。クロロの身体は、“普通”ではない。
「……ああ、わかったよ」
 クロロが、狂わないために、男としてのプライドを捨て懇願してくれたことを、ウボォーはわかっていた。
 だから、彼は、目の前の尻へ乾いた音が鳴るほど腰を強く打ちつけてやった。
「アァッ!」
 と、クロロが鋭く叫んだ。
 汗を浮かべる白い背中が跳ねてふるえた。彼の一度も触れられていないペニスからは、ビュッビュルルッと精液がほとばしった。
「……っ! かはっ……はっ、ハァッ……!」
「ぐぅ……ッ!」
「ぅあっ、あっ、あっ、あっ」
 ウボォーは、パンッパンッと音がなるほど腰をしたたかに打ちつける。
 限界が近づくと、
「このまま、中に……!」
 またプライドを削って、クロロが中出しをねだった。
「わかってる、こぼすなよっ!」
 クロロの腰を両手でがっしり掴み、白い尻に下腹を押しつけて、射精した。
「――ッ! んんああぁっ……!」
 そのペニスの凶悪な大きさにふさわしい大量の熱液を腸粘膜に浴びせられ、クロロは淫叫をあげながら総身をふるわせた。
 押さえつけている彼の尻が、こちらの下腹をぐいぐい押しているのに、ウボォーは気づいた。
 互いに乱れた呼吸を整える。
 互いの身体は汗で濡れ光っていた。
「クロロ、もっかい、いいか?」
 クロロが断るわけがなかった。




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