調教部屋に、肌同士がぶつかりあう音と、嬌声まじりの荒く不規則な息遣いが響いている。
 あの虜囚はひたすら、肛門のみを犯されていた。
 絶倫である肉人形たちのペニスに衰えは微塵も見られない。臍につくほど反り勃ち、力強く脈打ち、ねっとりとした先走りをたらしている。
 そして、自身の順番になれば、そのグロテスクな“凶器”で、若い娘の肛門を責め立てるのだ。
 性玩具のように乱暴に扱われても、虜囚の肉体は肛虐を悦んでいた。白い肌には珠のような汗が浮かんでは流れ、張りのある美乳の頂は、黒の革服を力強く押し上げている。
 肉人形の精液は媚薬である。陶酔と多幸感を与えるが、許容量を超えれば中毒を起こす。慢性的な発情状態に陥ってしまう。有効な治療法は現在のところ存在しない。中毒者は、定期的に他者の精液を、口腔・膣・肛門のいずれかで摂取して発情状態を解消しなければ、発狂し、死に至る。
 もちろん、この娼館で働く性奴隷たちは、全員、中毒者だ。
 虜囚を犯す肉人形の射精は、必ず直腸の奥深くで行われた。人ならざる彼らは、精液の量も人間の比ではない。獲物の尻穴に根もとまでねじ込みしっかりと栓をしてから、肉のホースから噴き出す熱い粘汁を、直腸へあますことなく注ぎ込む。
 虜囚の腹は、連続射精のせいで、少し膨らんでいた。中で吐き出された媚薬汁が、内側から腹を押し上げているのだ。
「――はっ……はっ……」
 長い長い腸内射精の後、ずるずるとペニスが引き抜かれ、新しいペニスが入ってくるまでの、このわずか数秒の空白が、彼女に与えられている唯一の休憩時間だ。
「……っふ、……う、ンン……ッ!」
 次に控えていた男のペニスが肛門を貫いた瞬間、ビュッビュッと、陰唇から潮が噴き出した。
 すでに、挿入されただけでアクメしてしまうほど、感度は極大値に達している。男が射精するまでに虜囚が絶頂する回数は、肛門姦を重ねる毎に増えていった。
 丹念に仕込まれている熟穴は、長大な勃起肉たちに、貫かれ、抉られ、内臓をみっちり埋めつくされても、嬉しそうにしゃぶりついていた。従順で、健気で、淫乱で、貪欲な尻壺だ。もはや、誰が見ても、排泄するための穴ではなく、性処理穴の有様である。
「ンぅっ……んぁっ……うっ……あぅ……!」
 娘は、喘ぎこそすれ、泣き叫ぶことはなかった。無意味な罵声を飛ばすことも、あからさまな強がりを言うことも、許しを乞うこともしない。
 無抵抗でありながら、心は折れていない。
 それに、直腸から肉人形の媚薬精液をあれほど飲まされ続けていれば、普通の人間なら、間違いなく、心身ともに崩壊している。人間よりも強靭な種族でも、もっとよがり狂っていておかしくないはずだ。
 ――並の精神力ではない。
 その器たる肉体が壊れないのは、この人間の強靭さに、調教師の腕が加わったからだろう。
 最上級のアナル奴隷をつくり出した、その調教師は、腕を組み、目の前で繰り広げられる輪姦を静観していた。


 また、しばらくして……。
 調教部屋は、いっそう濃厚な性のにおいに包まれていた。
 床には淫汁が飛び散り、ところどころで濁った汁溜まりができている。
 小刻みにふるえる美躯は、なおも肉人形に揺さぶられ続けている。
 調教師が動いた。
 犯される虜囚へと歩み寄る。
 虜囚の肛門を犯していた肉人形が、ピストンを止めた。
 調教師が、自身のペニスをあらわにさせるのを見て、女主人はひそやかに、上唇を舌で濡らす。腹の奥が、切なく疼く。
 この場にいる誰よりも逞しい男性器。あの雄々しい肉の槍で突かれて啼かなかった女を見たことがない。陶酔と破滅をもたらす肉凶器。
 それが、今までほったらかしにされていた、小ぶりな陰唇の入り口をくすぐっている。
 美貌の虜囚は、粘膜を撫でられる感触に喘ぎながら、首を横にふって拒む。
 しかし、当然、調教師が聞き入れるわけがない。
 ――何故か、そのとき。
 虜囚と目があった。
「見るな……っ」
 その黒い眸に、束の間、違和感をおぼえた。
「……ああぁぁぁっ!」
 甲高い悲鳴が上がる。
 ふやけた陰唇を一気に貫かれ、虜囚は叫ぶ。その全身がはげしい絶頂の痙攣を起こした。彼女が漏らした小水が、びちゃびちゃと床を叩く。
「んやぁっ……!」
 失禁などまるで意に介さず、前後の穴をふさぐ男たちは、ほぼ同時に動き出した。
 ……虜囚の反応は、調教師の挿入を機に、劇的に変化した。
「はっ! ひぁっ! ぃあぁっ……!」
 裏返る嬌声。それは、許容量を超えた快楽に焼かれる理性の断末魔だ。犯す者のみならず、傍観者にも、嗜虐の悦びをもたらす、ぶざまで、あわれで、心地よい淫叫だ。
 肛門を犯す肉人形が、くぐもった呻きをあげ、射精した。
 射精後、ペニスを勢いよく引き抜く。
 すると、調教師は、
「少し待っていろ」
 と、次の番である肉人形に命令する。彼は、虜囚の暴れる尻肉をがっしり掴んで、腰を叩きつけた。
 虜囚は、あの大きな肉槍の先端で、女にとって一番大切な小さな小さな子供部屋を、ゴツゴツ容赦なく突かれているのだ。
「はひィッ! はぁっ、でっ、出るっ……出ちゃうっ……はぁっ、あぉっ、おっ! おっ! おぉぉ……ッ!」
 ――ブリュッ! ブリュウゥッ! ブピィッ!
 栓をとられた虜囚の肛門から、白濁の粘汁が下品な音をたっぷり立てながら噴出する。
 牝器官での性交と、肛門での大量排泄……原始の快感を、虜囚は同時に味わわされている。
 強烈で濃厚な原始の快感は、強固な理性さえ削りとり、本能を剥き出しにさせる。品のない喘ぎになるのは必然だ。平常が理知的であればあるほど、快感に喘ぐ姿のあさましさ、みじめさと言ったらない。
「おひぃ……い、い、いぃっ……、きもひいいぃ……ッ」
 こうなった状態で出てくる言葉に偽りはない。奥底に隠していた、あるいは眠っていた感情が、引きずり出されている状態なのだから。
 腸内の精液が尽きると、再び肉人形の勃起肉が肛門へねじ込まれた。
 もはや、数秒の休憩時間さえない。
 調教師が子宮を直に押し上げ、腰を引いた直後に、肉人形がすかさず腸壁越しに子宮目がけてピストンを打ち込んでくるのだ。
 普通の女なら、苦しいだけの苛烈な肉責め。
 性奴隷は違う。苦痛を快楽に変換する術を仕込まれている。
「ううぁあっ、んあっ、あ、あっ、あっ、あンッ」
 実際、虜囚の声は苦痛の悲鳴ばかりではない。
 浮かべる表情は苦悶のそればかりではない。
 しかし、この虜囚の魂は、折れていない。
 以前の肉体にはもはや戻れず、かと言って、性奴隷にも堕ちきっていない状態だ。
 だからこそ……。
 彼女にとってこの瞬間は、圧倒的かつ絶望的な快楽によって、心を破壊される、地獄のときだ。








 それから2日後の高級娼館では……。
 女主人が、囚われの身になっていた。
 例の細い鎖を巻かれた状態で椅子に座らされている彼女の足もとには、絶命した下僕たちが、無念の形相で倒れている。
 襲撃者は8人。女が2人。
 全員、人間だ。それも若い奴らばかり。
 その内のひとりである、長身の女が、女主人の背後にまわり、両肩に手を置いている。
 正面に立つ金髪の優男が、上着のポケットから、古い写真をとり出した。
 瓦礫の山をバックに、数人の子どもが写っている。
「知らない?」
 優男が指し示したのは、黒髪の子ども。シャツとズボン姿の、男か女かわからない、痩せた子どもだ。
 地味な恰好だが、顔立ちは、はっとするほど美しい。吸い込まれそうな黒い眸には、見おぼえがある。
 それに、写真に写っている子どもたちの何人かは、目の前の襲撃者たちと面影が重なる。
 女主人は、理解した。
「…………ここにいたのね」
 そのとき、背後の女が、静かな声で言った。
 おそろしいほど冷たく、苦しげな響き。腹の底からわき上がる怒りを必死に抑え込もうとしているようだ。
「彼女たちはどこにいるの? ……この銀髪の男は、何者なの?」
 調教師のことは、ひと言もしゃべっていない。
 導き出せる結論はひとつだ。
「記憶を読めるのね。……それなら、もうわかるでしょ? 私が彼について、何を知っているか」
 女主人が彼について知っているのは、名前、姿、声、……一流の調教師であること。
 それ以外は、何も知らないのだ。
 少なくとも、彼らが最も欲している情報は知らない。
 ――あの娘の居場所。
 女主人は、自身を待ち受けている未来に気づいている。
 襲撃者の何人かは、殺意を隠そうともしていない。自分たちが求める情報を、確実に入手できる手段を持っているのだから、尋問用に自身を偽る必要がないのだ。
 だが……。
 彼らの殺意を剥き出しにさせる根底にあるものは、そんな打算などではない。
「意外ね。極悪非道の連中と聞いてたけど……かわいいところもあるじゃない。仲間ひとりをたすけるために、ここを襲うなんて」
 彼らのしていることは、この楽園の均衡を崩す行為だ。彼らは潜入の際、客も数名、手にかけている。この娼館の客である。ただの客ではない。影響は、島の中だけでは済まされない。なにより、この“私”を、殺す気でいるのだから。
「そのリスクに、つりあうだけの子なんでしょうね。あなたたちにとっては。……私もあの子、大好きよ。だって、犯されて啼いてる姿、とってもかわいかったから。仕種も声も上等だった……あれは、高く売れるわ」
 空気が揺らぐ。
 巨躯の男と、着物姿の男がすさまじい形相をしてこちらへ向かって来る。優男が間に入って制止する。
 着物男が優男に食ってかかる。
「なんで止める!? こいつは団長の居場所を知らねぇんだろ!?」
(――団長!)
 女主人は、わずかに目を見開く。
(まさか、リーダーだったなんて)
 と、驚く一方で、妙に納得もしていた。
「お気の毒だけど、あなたたちの団長さんは、もう壊れてるかもしれないわよ」
 よりいっそう、空気に緊張が走る。
 女主人は言葉を選ばず、続ける。
 死はおそろしくない。
 命乞いはしない代わりに、意地悪な言葉を言いたかった。
 土足で縄張りに入ってきた無礼な人間へ、かわいいペットたちを壊した人間へ、勝手に記憶を読んだ小娘へ。
「たとえ壊れてないとしても、あれだけ肉人形のザーメンをお尻から飲んでたんだから、ザーメンなしじゃ生きていけなくなってるのは確実よ。そうなってまで、あの子は、あなたたちとの再会を望んでいるのかしら……?」
 調教のシーンを惜しみなく思い出してやる。
 襲撃者たちが、命をかけてたすけようとしている大切な存在が、前後の肉穴を責められていた姿を。小便を漏らした姿を。肛門から白濁汁を撒き散らす姿を。啼きながら悦んでいた姿を。無数のペニスによって壊されていく姿を。
(もしかしたら、とっくに心は壊れはじめてたのかもしれないわね。そうだとすれば、あの的外れな質問も…………)
 そのときだ。頭の片隅に引っかかていた違和感を思い出したのは。違和感の正体に気づいたのは。
 眠っていた時間、移動手段……知ったところで無意味な、妙な質問ばかりを重ねていた娘。
 “ズレた”質問などではなかった。あれこそが、“訊くべきこと”だったのだ。
 背後の女の気配が、その証明。
(どうやら、私は)
 メッセンジャーにされたらしい。







2014/11/17
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