その言葉を聞き届けて。
 心の折れたターゲットにトドメを刺してやるために、調教師は動こうとした。
 ところが……。
 クロロが、シルバにしがみついたまま離れようとしない。
 膂力はシルバの方が圧倒的に勝っている。引きはがすことは容易い。だが、“調教師”にとっての問題はそこではない。聡明なこの女なら、自分がこれからやろうとしていることを理解して、自ら離れる筈なのだ。
 それなのに。
 クロロは、彼に“逆らっている”。
「ありえないだろ……っ」
 抗議の声は切羽詰まっていた。淫らな身体にとって、絶頂間近の“おあずけ”ほど酷な仕打ちはないのだから。理不尽な要求をしているのはシルバの方だ。
「もうすぐ、イキそうなの、わかるだろう……!」
「お前は後だ。我慢しろ」
「我慢しろ? 我慢の仕方なんて、教えてくれなかったくせに」
「駄々を捏ねるな」
「この女、殺すぞ」
 クロロは、シルバにだけ聞こえるように小声で囁いた。先ほどまでの、泣き声混じりの上擦った声とは違う。息遣いは乱れているが、声音は低く、冷たい。
「……」
 シルバが舌打ちした。





 ――数時間後。
 金髪の美しい女が、床にふせっていた。汗と汁まみれのその寝顔は満ち足りた表情を浮かべている。ボディースーツの股間部分は無惨に破られて、秘所はまる見え。そのぽっかり開いた秘穴からは、白濁の粘汁がドロリと溢れ出ていた。
(幸せだろうな)
 クロロは、女を見て思う。
 女は、何度も絶頂に押し上げられて、絶叫し、イキ狂っていた。なまじ強靭なばかりに、普通の女なら死ぬか狂うかする場面でもそれがかなわず。
 調教師も容赦無く責めた。彼はターゲットを犯し抜き、その自尊心を砕き、牝の悦びを深々と刻み付けたのだ。
 牝として開花した女は、何度もアクメを極め、よがり抜いて、そして、とうとう気絶した。相当深い眠りだ。ちょっとやそっとのことでは起きないだろう。
 目覚めた時、女は数時間前の彼女とは別人になっているに違いない。淫らで従順な牝へと変わっている――。
「……いい加減、外してくれないの?」
 クロロは、女が拘束されていた鎖に繋がれていた。
 調教師が、女を解放した時に、今度はその拘束具でクロロの自由を奪ったのだ。
「……」
 調教師は無言のまま、気絶した女を抱き上げると、奥の部屋へ行ってしまった。
(きつい……)
 股下の床には、愛液や、調教師が彼女の中で吐き出した白濁汁がこぼれて、汁溜まりができている。
 あの後、望み通りに一度イかせてもらったものの、その後が拷問だった。


 解放された女は、すぐに調教師のペニスにしゃぶりつこうとした。
 調教師はそれを制すると、クロロを拘束した。
 邪魔者がいなくなり、女は今度こそ、ペニスにありつくことができた。
 ペニスに絡み付いているクロロの愛液を舐めて取り除くと、自ら床に顔を押し付け、腰を高く突き出し、牝の服従のポーズをとる。戦闘用スーツの股間部分を自ら強引に引き裂き、両手でむっちりした尻肉を左右に開いて、パクパク喘ぐ秘唇を見せ付けた。色狂いの娼婦のように、浅ましいまでに男に媚びた。
 新人娼婦は、調教師の逞しい肉槍で牝穴を深々と貫かれて、悦楽に悶えた。
 発情した牝の甘酸っぱい臭い。恥知らずな嬌声。荒々しい息遣い。肉のぶつかり合う音。粘膜を掻き回す粘着質な音。視覚・嗅覚・聴覚が、貪欲な牝の性を煽り立てた……。


 しばらくして、調教師が戻ってきた。
 クロロの股下の汁溜まりは先ほどよりも拡がっている。
 その様を見て、シルバが小さく笑った。
 彼は、その笑い顔をすぐに引っ込めてから、クロロの顎を掴むと、彼女をまっすぐに見据えながら言った。
「お前が我慢できるかどうかは問題じゃないんだ。これからは、オレが我慢しろと言ったら我慢しろ」
 牝奴隷には、淫蕩さと同時に、従順さも求められている。単なる色狂いならば、自らの欲望を優先させてもいい。だが、今のクロロは、奴隷なのだ。奴隷の第一の義務は、“ご主人様”の欲望を満たすこと。“ご主人様”の命令に素直に従う賢い牝犬でなければならないのだ。
「……」
 クロロは黙って頷いた。
「はっきり宣言しろ」
「我慢する」
 調教師はクロロと唇を重ねた。
 理不尽で傲慢な要求の後とは思えない、ひどく優しいキスだった。
「……んっ……ふぅ、んっ、んっ」
 クロロは目を閉じて、ディープキスに夢中になった。飢えた女体は、口唇の刺激によって軽い絶頂を繰り返す。
 やがて、調教師は唇を離して、こう言った。
「その言葉に偽りがないか、試してやる」





「――……まだ……?」
「まだだ」
「ぅぅ……はぁっ……ぁ……」
 仰向けに寝た調教師の下腹部に、拘束を解いてもらったクロロが跨がり、腰を前後に揺らしていた。下着も脱いで裸姿だ。
 しかし、挿入はしていない。
 彼女は股間に押し付けたペニスを健気に擦っていた。素股奉仕という名の仕置きの最中である。粘汁まみれの無毛の秘唇で肉槍をヌルヌルと摩擦する。ペニスの熱さと硬さと脈動を感じながら。
 早く中に欲しい、と、子宮がキュンキュンひっきりなしに疼いて訴える。
 クロロは腰をくねらせ、切ない吐息を洩らした。
 調教師は、そんなクロロの乳房を下から揉んでいた。乳房の弾力と柔らかさを楽しんでいる一方で、敏感な乳首には触れようとはしない。
 クリトリスが肉棒に擦れる快感でクロロがイキそうになれば、
「待て」
 と命じて、絶頂のタイミングを奪う。
 待たずに腰を振れば、挿入してもらえない。本懐を果たせない。逆らえない。
 クロロは焦らされ続けていた。
 イクための決定打がない。生殺し状態だ。
 ――詰んでいた。
「…………もう、あんたの邪魔は、しないから……」
「しないから、なんだ?」
「イかせてくれ……中で……イかせてくれ」
「あの女の方がねだり方は上手かった。言葉遣いもできていたしな」
「ぅ……」
 例のターゲットは、最終的に調教師に対して敬語になっていた。「おちんちん気持ちいいです」……「私の下品なおま○こをもっとグチャグチャにしてください」……。淫語を次々と口にし、自らを蔑み、惨めに懇願していた。彼女は牝の快楽と引き替えに、多くのものを失った。矜持、使命、これまで築いてきた自己……。もはやそれらは取り戻せない。けれど、それらを代償としても釣り合うだけの、色欲まみれの幸福な未来を得ただろう……。
「あの女を見習って、もう一度“おねだり”してみろ」
 そう言うと、調教師はクロロの乳房を、出もしない母乳を搾るように強く握った。
「ぅっう゛ぅ! ン゛ンンッ!」
 太い指が柔らかな乳肉に深く食い込む。形の良い乳房が醜く歪む。なのに、気持ちがいい。
 乳房を揉み潰されて、被虐的な快楽に悶えながら、
「は……ふっ……ふ……ぅ……」
 淫蕩、かつ、男の支配欲を満たす牝らしい言葉遣いを探る……。
「………………お願いします……貴方の、この……おちんちんを……オレの、おま○こに挿れてください……一生懸命、ご奉仕しますから……」
 調教師の双眸を見ながら、呻くように言った。言葉に嘘偽りはない。心からそう願った。
「……いいだろう。自分で挿れてみろ」
「はい……」
 淫唇は拡がり、男の肉槍を呑み込んでみせた。
「はぁう……ぅっ、あ、ぅぅっ……」
 膣襞がうねり、勃起肉の感触を味わっている。
 クロロは、寂しがり屋の牝穴を満たされる悦びを噛み締める。
「お前ばかり気持ちよくなってどうする。自分が言った台詞を忘れたか」
 ギュウウッと、両の乳首を強く摘まれ引っ張られて、
「ひぅううっ!」
 クロロは甘い悲鳴をあげて喉を反らした。
「いっ、いま、動きます……っ」
 みっちりと教えられた腰使いで、勃起肉に奉仕する。
 すると、ご褒美のように、調教師が敏感な乳首を指で巧みに擦り立ててくれた。
 ペニスの脈動を膣穴いっぱいに感じる。嬉しかった。クロロは夢中になって腰を振った。
「んっ……うっ、アッ、ひぅ、あくっ、ぅうンッ」
 そのとき。
「! いぁあっ! 〜〜ッ! うぁああぁぁっ!」
 クロロの腰を掴んだ調教師が、下から突き上げた。
 降りてきている子宮口を、ドチュッドチュッと下から激しく連打され押し上げられて。結合部から牝蜜を噴き漏らす。屈強な肉体から繰り出される強烈過ぎる淫撃に、クロロはなす術なく、おとがいをのけ反らせて喘ぐことしかできなかった。
 クロロの鍛えられた肢体は、穴の具合も申し分なく、最高の締め付けで男を楽しませる。男の望みを即座に判断・実行できる頭の回転の早さ。幻影旅団の団長として養ってきた才能を、ただただ、女として、牝として、この男に奉仕するために遠慮なく使わされている。それがたまらなく悲しいと、辛いと、悔しいと思うべきなのだろうに――幸福感しか湧いてこない。
「ひぅ、くっ……ひぃ、ィいくっ、ヒッ! ぁあぁーっ!」
 絶頂の最中なのもお構いなしに、勃起肉は牝壺を突き上げ、掻き回す。そんな勃起肉に膣襞は健気に絡み付き、主人の子種をねだるように蠢いている。
 避妊薬は飲んでいる。
 ふと、シルバが、毒薬の効かない男であることを思い出す。そんな男の精子を、孕みたがっている子宮に注がれ続けていたら、もしかしたら、いつか――。本能の怯えが見せる馬鹿げた空想だ。解っている。解っていて、どうしても腹を大きく膨らませた自身の姿が脳裡をよぎる。
(駄目だ、それだけは、流石に……っ)
 そう思ってはいても。
 妊娠の恐怖よりも、牝としてのよろこびの方が勝っていた。強い牡の精子を注がれ、子孫を遺す――最も原始的なよろこびを、この身は強く望んでいるのだから。
「ゃ、やぁぁっ、もう、ゆるし……あんっ、くあぁぁあぁぁッ」
 今のクロロは、坂を転がり落ちる石ころと同じであった。誰かに受け止めてもらわなければ止まれない。あるいは、おちるところまでおちなければ止まれなかった。
 そして、この調教師は、容赦無い男であった。
 彼は、今のクロロが、一番して欲しくなく、かつ一番して欲しいことを実行した。
 子宮に精子を注いだのだ。
「あぁあァああァァァ……ッッ!!」
 淫叫が調教部屋を震わせた。
 濃厚な子種が、子宮にたっぷりと注がれた。
「ぅう……ぁ……ぁ……ぅぅぅ……」
 膣口でペニスを締め上げ、子宮で子種汁を飲み干して。
 チョロチョロと生温い液体が調教師の腹部を濡らす。アンモニアの臭い。
 クロロはシルバの胸へと倒れ込んだ。
 肩で息をする。
 頭を撫でてくれる手のぬくもりも、広くて厚みのある胸板の感触も、汗のにおいも、不思議な安堵を与えてくれた。







2013/6/22
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