――3ヶ月後。
 大都市ヨークシンシティ。
 依頼人の指定したホテルに、調教師がやって来た。
 依頼人ことクロロ=ルシルフルは、椅子に腰掛けて本を読んでいた。
 調教師は、彼女の向かい側に置かれている椅子に腰掛ける。
 クロロは、読んでいた本を閉じて、調教師へ向き直り、
「久しぶり」
 と、穏やかな声をかけた。
「明日から次の仕事に入る」
「そうか」
「大きな仕事になる。そちらに集中したいんだ。……が、この身体は、そういうわけにはいかない」
 そう言ってかすかに笑うクロロの声には、自嘲の色が滲んでいた。
 纏う空気が変わる。
 調教師を見つめる瞳には、先ほどまでは見られなかった欲情の色が、ハッキリと浮かんでいた。
 隠していたものを、抑えていたものを、表に出したのだ。
「――すぐに始めてくれ」
 この瞬間、“依頼人”は“ターゲット”となって、男の前に立った。


 クロロは自ら服を脱いで裸になると、跪づいた。
 調教師の下穿きの前盾を寛げ、陰茎をそっと掴む。
 手にしたそれへ、何度も角度をかえてキスをする。
 キスの雨を降らせた後は、ねっとりと紅い舌を這わせた。
 亀頭のくびれや裏筋を舐めて、尖らせた舌先で鈴口をグリグリほじくった。
 だんだんと張り詰めてくるペニスに頬を寄せて、
「よかった」
 と、小さく笑む。
「何がだ」
「今日も“仕事”をしてきたんだろ? ニオイが残ってる」
「シャワーは浴びてきたんだがな……判るのか」
「ああ、判る。オレの分の精液、ちゃんと残ってるかなって心配だったんだけど、この調子なら大丈夫みたいだ。……だけど、あんたも大変だな。オレの依頼と、別の奴の依頼を“また”掛持ちするなんて」
 クロロの依頼を引き受けたシルバは、彼女の調教の傍ら、別のクライアントからの仕事も請け負っていた。新しい依頼が入ると、クロロの調教は後回しにされる。
 今回で5人目。
(この手の人間と組んだことが今までなかったからな)
 調教師というのは、思っていたよりも需要のある職業らしいことを、“自由の身”になってから知ったクロロだ。
「無駄口はそこまでにして、集中しろ」
「ああ…………ぁぁむ……ふっ……んぅ」
 亀頭を咥えると、唇の輪で扱いたり、頬肉で擦り吸い付いたり、舌を絡ませ舐め回したりした。
 両手も使う。肉竿を丁寧に扱き、陰嚢を優しく揉みこんだ。教え込まれた娼婦の技を発揮していた。
 順調に大きさと硬さを増していく調教師のペニスに、クロロは奉仕を続ける。勃起肉の熱に触れて、白い頬に赤みがさして、息は自然と乱れてくる。
(おいしい)
 唾液が止まることなく湧いてくる。
 形のよい唇を窄めて先走りを吸いあげて、喉を鳴らす。甘い飴細工を頬張る子どものように、先走りを熱心に舐めとりながら、上目遣いで調教師を見る。その、上気した頬をへこませ、頭を前後させて口唇全体で奉仕する“娼婦”の顔と、怜悧冷徹な幻影旅団の“団長”としての顔が、彼女を知る者ならばなおさら、結び付かないことだろう。
 一方、別のターゲット相手に吐き出してきた後とは思えないほど、調教師のペニスは硬く反り勃ち、力強く脈打っていた。
(こんなので犯されたら、女なら誰だって……)
 知らない牝の臭いがする。知らない牝の味がする。別のターゲットを犯していたという紛れも無い事実であった。その女のことも、散々に啼かせてきたに違いない。
 そして、今度はクロロが、このペニスによって啼かされる番だ。膣口を擦られ、奥まで突きまくられて子宮を揺さぶられて、濃い子種をたっぷりと注がれる――。そう考えただけで、クロロの下腹部の奥は切なく疼いて、秘所は愛液を滴らせた。


 クロロは壁に両手をついて、尻を突き出す格好になる。
 今のクロロには犯される場所を選べる権利などない。それに、わざわざベッドに移動する時間を惜しんでいるのは、むしろ彼女の方だった。
 調教師に差し出された尻肉は、挿入を待ちわびてぷるぷる小刻みに震えていた。彼は、その張りのある丸い尻を力強く掴むと……。
 ――ズブグググゥッ!
「!? んくぅ! ぁああッ!」
 “肛門”を貫かれた衝撃に、クロロは身震いしながら甘い悲鳴をあげた。
「……お、ぁあは、ぁぁう……はっ…………今日はこっちなんだ……?」
「嫌だったか?」
「まさか……」
「だろうな」
 背後の調教師が、微かにわらった気配がした。
 クロロは、あらかじめアナルセックスができるように“準備”していた。今回だけではない。シルバに会う時、彼女は必ずそうしている。
「あぁァ、ァ……この感じ、久しぶり……っ」
 アヌスにディルドを銜えさせられながら、膣穴をペニスで掻き回されることはあった。しかし、こうしてアヌスに直接ペニスを挿れてもらうのは久しぶりだった。
 従順に躾られているアヌスは、愛しい主人の形をしっかりおぼえていた。腸筒でギュウギュウ抱き締め、太く逞しい肉幹の久方振りの来訪を熱烈に歓迎している。
「ああぁく……っ、そこぉ……すごく、気持ち、いいっ、ンッ……うぁっ、くぅンっ」
 ピストンに合わせて、クロロも淫らに腰を揺らした。
「久しぶりに、尻穴だけでイッてみるか?」
 と、両の乳房をぐにゅぐにゅ揉みしだかれつつ、耳許で囁かれ。背中をすっぽりと包むぬくもりと、熱のこもった吐息に打ち震えながら、
「ッ〜〜……んっ……!」
 クロロは素直に頷いた。
 それを合図に、調教師は目の前の腰を掴むと、尻穴奴隷が一番よがる突き方をした。
 鋭く打ち込んではゆっくりと引き抜き、緩急を付けて肛粘膜を刺激すると同時に、裏孔から子宮を力強く連打する。
「おっ、ぁあッ、あぁあ……っ! ぁっ! ぃっ! あっぁああ!」
 ピストンに合わせてたぷたぷ揺れる美巨乳。肛悦に悶える引き締まった美肢体。肛門を羨ましがってよだれのように白濁の本気汁をこぼしている牝壺。
「ぁぁうっ、ふぁっ、ぁ、ぁあ……っ」
 尻穴だけでイかせてもらえる。
 調教師の宣言から、クロロの意識はアヌスへ集中した。尻穴を気持ちよくしてくれるペニスのことだけを考えた。余計な雑念はすべて取り去らった。
 ――だって、今の自分は、団長ではなく、奴隷なんだから。
 排泄穴を犯してもらって本気でよがっている、浅ましい牝なんだから。
 余計なことを考えるのは、主人に失礼だ。今の自分が考えるべきことは、主人を気持ちよくすることだけ。求められていることは、主人に少しでも興奮してもらえるように、とびきり淫らに振る舞うことだけ。
「はぁっ、はっ、ぉっ、いっァぁっ……おっ……あぁぁう……っ、はっ、ぁあッ、気持ちいい……ッ!」
 肛門を犯されて気持ちがいいと認めることで、ますます被虐的な甘美に搦め捕られる。
 抽送は容赦無いのに、尻たぶを撫でる手は優しい。
 こうやって、いじめられながら優しく扱われることに、クロロは弱かった。
 調教師は、緩急を付けた抽送で奴隷を悦ばせ、奴隷はそれに応えるように、腸壁で勃起肉をきつく締め上げた。
「ね……ねぇ……きもち、ひっ、いい……? ひさしぶり、だけど、ぁンッ、オレのナカ……きもちいい……?」
「……ああ。気を抜いたら、すぐに出そうだ」
「だしていい……ナカにたくさんだしていいから……!」
 調教師は射精に向けてラストスパートをかける。すがりついてくる牝尻を、パンッパンッと、引き締まった腰でしたたかに打ち据えた。
「ひぁ、ぉ、ぉぅ、ぁっ! あっ! いっ! ィク、イク……ッ」
 出してもらえる。“ごほうび”を出してもらえる。クロロの頭は、牝のよろこびと期待でいっぱいだった。
 顔も、声も、穴も、心も、快楽でとろとろにとろかされていた。緩んだ口許から垂れたよだれが顎を濡らしている。肉欲に溺れ、男に媚びる牝の顔だった。
「イクゥッ、ぅうゥっ、イクッ、イクッ、イクぅううぅぅ……ッッ」
 根元までねじ挿れられた剛直が、ビクッビクッビクッと大きく脈打った。腸粘膜の深い場所に、熱い精液がふりかかる。
「はぁあッンぁあぁぁ……っ」
 ――プシィッ! プシャアアアッ!
 潮を噴いて、クロロはアナルアクメを極めた。
「…………はっ……は……はぁー……ぁ……ぁぁ……」
 絶頂の余韻に身を委ねる。
 躾られた身体と、仕込まれた技で、主人に尽くして、かわいがられて。
 あの淫らな監禁調教の果てに、クロロは、牝の身体と心を受け入れた。
 受け入れはしても、牝としてだけ生きる道は選ばなかった。
 幻影旅団の団長として生きてきた道までは、捨てなかった。
 しかし、牝の心を一生表に出さないでいることが不可能であることも悟っていた。以前の自分にはもう戻れない。
 ――ならば、満たしてやればいい。
 そして、こんな身体を一番満足させてくれるのが、シルバだ。彼は、この浅ましい肉体のことを知り尽くしている。こんな淫らな身体に仕込んだ張本人なのだから。なにより、身体だけでなく、牝の心の満たし方も心得ている。
 この男ほど、条件を揃え、利害の一致した相手はいないだろう。
 誇り高く、狡猾で、計算高く、思慮深いこの男は、家族のために、誇りのために、欲望のために、これからも自分を淫らに躾てくれることだろう。
「はァ……は、ぁぁ……もっと……」
 もっとかわいがって欲しい。他の牝よりも、自分の身体で、気持ちよくなって欲しい――と、牝としてのクロロが、望んでいた。







2013/6/14
2013/6/25 加筆
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