「我慢するのはいいけど、暴れるのはナシね」
「ああ」
唇が重ねられた。
同性とのキスに抵抗感はない。
いくら人形のような女でも、イルミも体温のある人間なんだと、重ねられた唇から伝わる熱が教えてくれた。
舌が入ってくる。
イルミの唇の、舌の、大きさ、厚み、感触、体温、動き、味を――“いつも”と違うと、脳がしつこいほどに訴えてくる。
一方で、従順に躾られている身体は、“いつも”と違うキスも受け入れた。
クロロは裸である。調教師一家に捕らえられ、奴隷調教を受ける身となってからは、下着ひとつ許されなかった。ようやく着衣を許されたかと思っていたら、よりにもよって“団長”の姿で、取るに足らない連中の慰みものにされた。
汚い男たちにもさんざん弄ばれた乳房を、今度は女調教師によって愛撫される。
触れられ、撫でられ、揉まれ、搾られ。
「んッンぅ」
硬くしこった乳突起を、指先で摘まれ、コリコリ転がされ。
次から次へと溢れ出てくる唾液で、クロロは顎を濡らし。
体が熱くなる。秘所が湿る。
(あ、まずい……)
軽い絶頂の波が迫るのを感じたとき……。
「んはっ……ぁ……」
唇が解放された。
「四つん這いになってみて」
という、女調教師の命令に、大人しく従う。
女調教師は、四つん這いになったクロロの尻に手をやると、指で谷間を左右に割り開いた。それから、ヒクヒク閉じ開きを繰り返す二穴をじっくり観察する。
「やっぱり。こっちは完璧に仕上がってるね」
ツンッと、白い指先がアヌスを軽くつついた。それから、指の腹で確かめるように肛皺をゆっくりなぞり撫でる。
「……っ」
クロロは息を詰めた。
こんなささやかな刺激にさえ、悩ましい声をあげたくなってしまう。
「クロロのお尻の穴、襞に厚みができて、ぷくって盛り上がってる。女の子の穴も、触ってもいないのに、もうトロトロに濡れてる。……父さん、容赦ないなー」
変わり果てた肛門と、発情している処女穴の様を、女調教師が淡々と言葉にする。
クロロは、いっそ嘲笑われた方がマシだと思った。そうでなくても、同性の言葉はこたえるのに。
カチッと、音がした。
「……!?」
クロロは振り向いて、目を大きく見開いた。女調教師の股間に、ペニスが生えているように見えたからだ。
(いや、違う。あれは)
「コレ、見るのはじめて?」
正体はペニスバンドであった。陰嚢まで付いた、リアルな形状。装着者の優美な女体のせいで、男性器のグロテスクさが際立っている。
「実物を見るのはな」
先ほどの音は、留め具を外したときのそれだったのだろう。
「感触も体温も本物に限りなく近いんだ。一応、射精機能も付いてる。出すのは擬似精液だけど」
と、女調教師は亀頭を撫でながら、まるで子どもが自分の玩具を自慢するように語った。
そして、懐から取り出した潤滑油を擬似ペニスへ塗りたくる。
「用意周到だな。最初から試す気だったのか」
「そりゃ、タダ働きはしたくないからねー」
そう言うと、ひくつきっぱなしの排泄穴へ先端をあてがった。
「挿れた瞬間にイッたりするなよ?」
――ズブグブブッ!
「! ……んぅ、はっ、ぁ…………ッ」
擬似ペニスが、犯され慣れた直腸の中へ、滑るように入ってきた。
クロロはシーツを握りしめて、なんとか踏み止まった。乱れた呼吸を落ち着かせて、気を保たせる。挿入だけでこの調子では、先などない。
「はは、すんなり入っちゃった。まあ、当然か。さっきはよくイクの我慢したね。その調子で、がんばって」
目の前で震えている桃尻を優しく撫でて、女調教師は、ピストンを開始した。
過敏な腸壁をこそぐ勃起肉の硬さも、腸内をとろけさす熱も、ベチッベチッと肌にぶつかってくる陰嚢の感触も――男のペニスそのもの。本当に、男に犯されているようだった。だからこそ余計に、快感を得てしまう。調教師によって丁寧に躾られた娼婦の尻穴は、張り型よりも、男のペニスが大好きなのだから。
「はぁっ、はぁっ、ふ、う、はぁ……」
(わかってたけど……やっぱり気持ちいい……っ)
貧民窟の連中よりもずっとずっと巧みな腰使い。父親のような力強さはないが、的確で執拗だ。
ヒクンヒクンと処女粘膜が肛悦にわななき、綻んだ秘裂から滴り落ちる粘っこい愛液がシーツを濡らす。気持ちよくて、両腕で踏ん張っているのが難しくなってくる。
「んく、ん、はあぅ……」
とうとう上体をベッドへと突っ伏してしまう。
肛粘膜をめくられては押し戻され、肛腔を掻き回され。膝が喜悦に震えた。
頬は赤らみ、額には珠の汗がいくつも浮かぶ。黒い前髪が汗ではり付く。表情は締まりを失う。
――アヌスにペニスを挿れられただけ。
たったそれだけだ。
たったそれだけで、一騎当千の肉体は途端に骨抜きにされてしまう。
快楽に屈服してしまう。反逆など考えつかないほどに。こんなに気持ちよくしてくれるペニスを、拒むことなんて、自分にはもうできない――。
「ふぅっ……んくっ……んん……ッ」
喘いだら、一気に堕ちてしまいそう。
クロロは、快楽に緩む唇を噛み締めようとした。
ところが……。
「あー、ダメ。怪我なんてされたら困る」
「! ン゛ぐッ!?」
女調教師の右手の人差し指と中指によって、唇を強引にこじ開けられた。
女調教師は、クロロの咥内へ無理矢理突っ込んだ指を、アヌスへの抽送に合わせてちゅぷちゅぷリズミカルに出し入れさせた。
「言っとくけど、オレの指を噛みちぎった場合も、依頼は受けないから、気をつけて」
ひくつく舌をなぞりながら、耳元で冷たく忠告する女調教師。
舌を撫でる指の感触、耳穴を湿らせる吐息の熱に、体は昴ぶっていくばかり。
「ぁっ、おっ、はァッ、ぁ、は、は、あひっ、ふ、あ、あぁあっ!」
儚い抵抗さえ許されず。クロロに許されているのは、ピストンに合わせて、はしたなく喘ぐことのみ。
「女に犯されてもこんなに感じちゃうんだ。クロロ、さっきまではスキがなさすぎなくらいだったのに、今は逆にスキだらけ。無防備って言うより、むしろ全身が犯してくださいっておねだりしてるみたいだ……よっ」
――ぢゅぶぶっ!
「!! ひぁあァっ」
クロロは目を見開いた。
女調教師の左手の指が、秘襞を割って入ってきたからだ。
父親が開発済みの処女膣の入り口を、今度は娘がほじくりにかかる。
気持ちよくなるなと命令しても、膣襞は嬉しげに牝蜜を溢れさせて女調教師の細指をしゃぶっているばかり。指の抽送に合わせて、ぶちゅっぐちゅっと淫らな水音が立つ。
「イキたいんだろ? イッていいよ。膣でも肛門でも、クロロの好きな方でイかせてあげるから」
そう言われ、クロロは、子どものように首を横に振って拒んだ。
「これでも、イキたくない?」
――ズリュッ……ゴヂュンッ!
「ぁひ! やめっ、それっ、ダメだ! ダメ……ヒ、ぁっ、あぅ、あ〜〜っ!」
擬似亀頭が腸壁越しから子宮を狙って叩いてくる。弱点など、とうに見抜かれていた。大好きな角度から打たれて悦んだ子宮がキュンキュン啼いて膣口から蜜を噴く。肛門は精液をせがむように擬似ペニスをねぢねぢ締め付ける。
「ぃう、あ、あっ、あっ、いる、みぃいっ、しょれ、やめろぉ……ッ」
「自分から腰振っといて何言ってんの?」
「だって、しかたないらろっ、かってに、うごくん、だからっ」
呂律をあやしくしながら、腰が無意識にくねってしまうことを弁解する。弱音の言葉、尻上がりに高くなる声は、敗北の惨めさを誘い。これでは、発情した肉体は制御不能になってしまうんだと、証明してしまったも同然である。
それでも、絶頂だけは耐えていた。
「ねえ、なんでそんなに我慢するの? クロロ、かわいいしスタイル抜群だし、幻影旅団の“元”リーダーってブランドもあるから、どこに行っても特別待遇でかわいがってもらえる。朝から晩まで、毎日、一生、このみっともない寂しがり屋の身体を、かわいがってもらえるよ」
そう言われて。
ただの女として、男にかわいがられる自分の姿が脳裡に浮かぶ。男のペニスを銜えて、快楽に身を任せきった、その幸福そうな顔。
ありえない、と、一蹴できない自分がいる。
肉体を、男なしでは生きられない、淫らで、惨めな牝奴隷のそれに変えられてしまった。
もう、もとには――知らなかった頃には、戻れない。残りの人生を、この牝の肉体を抱えて生きていくことになる。
貧民たちにいくら嬲られても、クロロは自身の肉体の淫蕩さと変質した内面を認めこそすれ、そこで折れたりはしなかった。壊れたりはしなかった。皮一枚を残して、耐えていた。
しかし、調教師父娘の責めは、その最後の一枚さえ剥がしにかかる。
(イク……! もうイク……!!)
これまで何度も経験させられた、絶頂の前兆。
“イク”と何度も叫びながらイキたい。擬似でもいいから、お尻の穴に“精液”をたっぷり注いで欲しい。
絶頂に近づけば近づくだけ、牝奴隷としての願望が胸の内で膨らんでゆく。
「この身体で一生を過ごすことになるキミにとって、どういう結末が一番幸せか、もうわかってる筈だろ?」
「――報酬は、この口座に入金してね」
「……引き受けてくれるのか?」
結局、身体は女調教師の技に折れてしまった。一度極めてしまうと、もはや坂を転がり落ちる石ころと同じで……。何度達したのかさえ、わからない。
「どうせ我慢できないのはわかってた。父さんがあれだけじっくり躾たんだ。イかないわけがない。それはクロロが、一番よく知ってるだろ?」
では、この女調教師は、何を試したかったのか――?
おそらくは、「肉体」ではなく、「心」を試したのだろう。調教師との――“堕ちたがっている自分自身”との精神的な持久戦に、“クロロ”が耐え切れるかどうかを――クロロはそう解釈することにした。
「安心しないでよ? オレはキミが堕ちないって確信できたわけじゃない。こっちの仕事が終わるまでは、なんとしてでも踏ん張ってくれないと困る。……なに? さっきからひとのことジッと見て」
「……いや」
見た目によらず、イルミは意外と饒舌だ。
面白い。
イルミも、この女の父親も、興味深い。
続
2013/5/25
2013/6/25 加筆