台の上に置かれている性具たち――中でも特に目立ったのが、濃白色の液体が詰まった大きな注射器。全部で5本ある。
 調教師が、その内の1本を手にとった。
(うわ……)
 目立ったのは、あの中で使われるとしたら、一番“嫌”なモノだと思ったから。
「調教方法が変わるって、まさか……」
「察しがいいな。お前の処女は依頼人にとっておく。だからオレは、肛門だけを仕込む。これはそのための準備だ。浣腸は初めてか?」
 淡々と訊かれる。多少の厭味でも、いやらしさでも含まれていればいいのに、彼の声音にそれはない。
 先の丸まった注射針が、肛門に突き挿れられた。
「ん……ッ」
 ひんやりとした液体が、腸内へ注がれてゆく。腸粘膜から直接、薬液を吸収させられている。尻穴を仕込むための薬。腹の中を掃除するための薬。便通を、促す薬――。
 調教師は中身をすべて注ぎ切ると、今度はゆっくりと、針を引き抜いた。
 すぐに、2本目、3本目が追加される。注がれる薬液の冷たさに、ぞわぞわと悪寒が走った。
 そして、早くも、腹から不穏な音が鳴り始める。
 痛い。
 苦しい。
 本数が増えるごとに、圧迫感と鈍痛が増してゆく。全身に脂汗が滲む。
 3本目の頃には、薬液が腹を内側から押し上げていた。
 尻穴を窄めて、耐える。力を抜こうものなら、すぐにでも漏れてしまいそうだった。
「内臓を責められるのは、大の男でも弱いんだがな。流石は、幻影旅団の団長といったところか」
 そして、4本目、5本目が、腸内へ注入された。
 5本分の薬液を注がれた腹は、ぽっこりと膨らんでいた。
 無様に膨れた腹が、苦痛と排泄を懸命に訴えている。
 クロロは拳を強く握る。しかし、踏ん張れば踏ん張るだけ、腹の痛みを意識してしまう。
「大した奴だ。普通の奴なら、とっくにぶちまけているところだ」
 大きな手で、膨らんだ腹部を撫でられ、揉まれる。
(ちょっ、と、それ、やめてくれ)
 と、言いたくなるのを飲みこんで。
 痛みに耐えながら、クロロは調教師から視線を逸らさずに、言った。
「……あんた、意外と悪趣味なんだな……他人が排泄するところなんか見てて、楽しいか?」
「いいや。だが、他人が排泄するところを見て、よろこぶ連中もいる」
「あんたは、そういう人間じゃないんだろ? だったら、これを外してくれ。すぐ、済ませて、くるから」
「下にバケツを置いてある。出したくなったら、遠慮せずにここで出していい」
 床に置かれたバケツの存在は、惨めさを助長するだけだ。
 次に調教師は、蜜色の液体がたっぷり詰まったビンを手にとった。コルク栓を外し、空いた片手にアナルパールをとる。球は持ち手に向かえば向かうほど、一回りずつ大きくなっている。
 ビンを傾け、蜜色の液体をアナルパールへ垂らした。
 とろみのある液体でコーティングされたアナルパールを、クロロの縮こまっている肛門へ押し当てて……。
 ――ブヂュッ!
「!」
 力ずくでこじ開けた。
 排泄器官を逆行する性具。
 拡張感と圧迫感に、クロロは苦悶の表情を浮かべた。
「ぐ……ぅっう」
 低く、唸る。
 突き挿れられた衝撃で緩みかけた肛門を急いで締める。内側から響く痛みに耐えながら。
 ところが……。
 腹の鈍痛の間に、奇妙な感覚が芽生えてきている。
「これ……まさか、催淫剤、か」
「ああ。お前の尻に打ち込んだ薬液にも少量だが混ぜてある」
「なるほど……調教師って、偉そうに言ってても、薬に頼らないと、女一人……満足に相手ができないわけか……ッ」
「腹の痛みを我慢してまで、わざわざ皮肉を言うか。流石だな。だが……」
 調教師が、グリンッと、持ち手をまわした。ヌルヌルの連結球が、肛壁を勢いよく擦る。
「ぉう、ぐッぅうっ」
「尻の穴に力を入れていないと、抜いた拍子に漏れてしまうぞ」
 言われなくても、そんなことわかっている。
 ピストンが始まった。
 異物を排泄したい一心の肛筒によって、アナルパールの無機質な感触を強く意識してしまう。
 重く鈍い腹痛と同時に、身体の奥から湧き出す、甘い疼き。
 処女粘膜から、愛液がじわりと滲み出る。


 しばらくしてから……。
「――は、くっ……ぐぅ」
 アナルパールが、腸粘膜を擦りながら、引き抜かれた。開放感に引きずられて、漏らしてしまいそうになるのを、括約筋に力を入れて、耐える。
 ――でも、いつまで、耐えていればいいんだ……?
 冷静さを残している思考が、残酷な言葉を投げかけてくる。
 こんな我慢が、いつまでも続くわけがない。
 現に、栓をなくした身体が、排泄しようともがいている。
 おそらく、「出す」までこの責め苦は終わらない。「出す」まで解放されないなら、いっそ――。
 これ以上は無駄な足掻きと悟った思考のひと欠けらが、そう囁いてくる。すでに白旗をあげている身体も、より排泄を訴えんがため、ギュルギュルと、膨れ腹の奥から悲鳴を鳴り響かせている。
 出すしかない。解放されないなら、このまま無様に、バケツの中に、ぶちまけるしかない。わかってる。そんなのわかってる。でも……。
「ぃ!? グ……ぁ!?」
 クロロは目を剥いた。
 肛門を貫く、新たな異物。
 調教師の指だ。
 彼は、空いた片手で汗まみれのクロロの乳房をぐにぐに揉みしだきながら、耳元で、息を吹きかけるように囁いた。
「この指を抜いた時に、まだお前が踏ん張っていられるようなら、望み通り、トイレに連れて行ってやる」
「……ほ、ほんと……?」
 不意打ちの希望に、幼い返事をしてしまう。
「ああ、本当だ。約束する」
 かりそめの優しさを滲ませた声音だった。
 太く長い指が、括約筋をぐにぐにと揉みほぐす。敏感になっている粘膜を擦り、こねる。綻び柔らかくなった肛門へ、指が一本追加される。二本の指に、翻弄される。
「ぁぐ……ぅ、うっ」
 注射針やアナルパールにはできない、繊細で複雑な動き。冷たい器具にはない、人肌のぬくもり。
 不本意な肉の疼きが増してゆく。
 呻きにも甘さが混じる。
 尻穴をほじくられながら、空いた片手で乳肉を揉み潰されて。乳首を指腹でころころ転がすように擦られる。
「お前は胸が大きい。それに柔らかいし、張りもある。乳首も、色・感度ともに申し分ない」
 調教師の口調は、まるで獲物を品定めする狩人のそれだ。狩人という人種が持つ冷徹さと執拗さを、この調教師から垣間見て。
 ――いいや。
 この男は、狩人なんかじゃない。
 狩人なら、獲物によけいな苦痛は与えないのだから。
 そのとき……。
「!? ンン゛ン〜〜ッ」
 指の動きが変わった。
 三本に増えた指は、括約筋を拡げる動きから、抽送のそれへと変わったのだ。
 ブチュッブチュッブチュッ!
 卑猥で下品な音を響かせながら、突き込まれる。
「ん゛っ! ぐぅう、う゛、うぅ〜〜ッ」
 こんなの知らない。
 未知の衝撃が、処女の肉体へ容赦無く襲いかかってくる。
「ツライだろうな。知識もあるうえ、何をどうされるか察してしまえるのに、実際の刺激に、身体が追いつかないというのは」
「……ぅくっ、んうっ……」
「どうした? 減らず口も叩けなくなったか」
 盗賊団の冷静沈着な女リーダーは、尻穴をほじくられて悶える、か弱い“小娘”に成り下がっていた。
 慧眼も、今は役に立たない。それどころか、これから自身に降り懸かるであろう残酷な結末を容易く予想できてしまい。
 なにより信じられなかったのは……冷たい薬液をたっぷり注がれた筈なのに、体中が煮えているように熱くなっていることだ。
「ぃあッ、はぁっ、ぐ、ぅうッ」
 拘束された脚がガクガクうち震えている。抜き挿しを繰り返す指から逃れようと、腰をよじらせると……。
 ブヂュブッ!!
「ん゛ぃい!!」
 さらに、深く、強く、穿たれ、抉られた。
 逃げようとしたのを咎めるように、乳首も強くつねりあげられて。
 何かが、迫ってきていた。
 迫ってくるものの正体は、とうに悟っていた。
 懸命に抗おうとした。
 けれど、無駄だった。
 ……そして、破滅が、やってきた。
「ッ!! あ゛、ぁ、あっ、はぁあぁぁ〜〜……ッ!」
 身体の内側から爆ぜた衝撃が、脳天を突き抜けた。身体が痙攣する。経験したことのない、凄まじい感覚。
 あの、のたうつような腹痛が一瞬、掻き消された。
 ――ピュピュッピュルルルルッ!
 処女粘膜から透明な液体が噴き漏れた。
 ――ブボォッ!
 調教師は、三本指を肛門の根元まで穿ってから、肛粘膜をめくりあげるようにして、素早く引き抜いた。
 そのせいで、肛門は、口をぽっかり開けて、中の肉粘膜をヒクヒクと引き攣らせたまま。
「ぃ、あ、あぁぁぁ……!」
 肛門から勢いよく噴き出した夥しい白濁と茶褐色のまだら汁が、バケツの中に落ちてゆく。
 調教師はクロロの様子をずっと見ている。身体を震わせながら排泄する、これ以上ない惨めな様を。女としても、人としても、致命的な醜態を。
 最悪な形で排泄は続く。膨らんでいた腹が、もとの引き締まった姿に戻るまで。
 浣腸液が出尽くすと……。
 ――チョロッ、チョボッ、ジョボボボボボボ〜〜ッ!
 今度は、尿道から小水が漏れ出した。琥珀色の迸しりが、バケツの中へ吸いこまれていった。





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