魔物の寄り道
モブ×ヒソカ 女体化注意 性描写無し









 地元の人間が、決して近づかないトンネルがある。
 不良グループのたまり場になっているからだ。もともと一帯が貧困層の多い地域で治安も悪いのだが、彼らは特に性質(たち)が悪かった。
 先月のことだ。
 この土地へ移ってきたばかりの若いカップルが、事情を知らずにトンネルへ入り、彼らに襲われた。なんの落ち度もない彼女たちは、ただ彼らの縄張りに入ったという理由だけで、理不尽な暴力と凌辱を受けたのだ。ふたりとも奇跡的に一命は取り留めたものの、意識はまだ戻っていない。


 ヒソカはこの街での用事を終えて、帰路の途中だった。かのトンネルは、本来なら、わざわざ通らなくてもよい道。わざわざ通ろうと決めたのは、気まぐれだ。あるいは、彼女自身の、よくないものを“引き込む”性質が働いたのかもしれない。
 そのとき、トンネル内にいた不良グループは、男が七人だった。
 それと女が四人いた。彼女たちの二の腕や腿にはタトゥーが刻まれていた。まるで彼らの所有物である証のように。
 タバコ、クスリ、アルコール、香水、雌の芳香――トンネル内は、頽廃の臭気に満ちていた。
 不良たちが、ヒソカに気づいた。
 最初こそ闖入者に警戒した彼らだが、それが女――しかも美女と判ると、口元に下卑た笑みを浮かべた。
 今のヒソカは、先に済ませていた用事の都合上、普段の奇術師スタイルではなかった。
 タバコをふかしていた三人の男が、ヒソカのもとへと群がった。彼女をぐるりと囲んだ。
「ネエさん、この辺じゃ見かけない顔だな」
「うん、この街、今日初めて来たから」
「そうか、どうりでな」
 残る四人も、女と戯れながら、ヒソカや仲間たちの様子を伺っている。
「……で? いくらなんだ?」
「いくら?」
「あんたと遊ぶのには、いくら払えばいいんだ?」
 男たちを前にしても怯えた様子も見せず、胸元を大きく開けた挑発的な服装、口許には妖しくも艶のある笑みさえ浮かべる美女。不良たちの間では、この謎の美女の正体について、ひとつの仮定が生まれていた。
「どうせアンタも、ここに流れ着いた娼婦なんだろ?」
「アンタほどの美人なら、金はたっぷり弾むぜ」
 ヒソカを娼婦と決めつけ、交渉する男たち。否、交渉ではなく、一方的に話を進めている。この謎の美女が娼婦であろうがなかろうが、彼らの中では、すでに結論は出ているのだ。
「だから……」
 と、背後にいた大男が、ヒソカの肩に触れようとした。
 大男の両腕が消えた。
 何が起こったのか、本人が最後に気がついた。
 女たちが甲高い悲鳴をあげた。
 大男は激痛に悶え、コンクリートの上を転げだした。
「テメ…ッ」
 ヒソカを囲んでいた残りの二人が、懐から武器を取り出すよりも先に。ヒソカは彼らへ、それぞれ一撃ずつ与えた。二人は何もできずに、喉を裂かれて倒れた。
「オイッ!!」
 四人がピストルの銃口をヒソカへと向けていた。
 女たちは逃げていた。
 ヒソカは笑う。
「こんな狭い場所で撃ったら、キミらが怪我するよ?」
「うるせえッ! 近寄るな化け物!!」
 怒声が響く。声に、瞳に、驚愕と恐怖が滲んでいる。男たちの虚勢は、抵抗は、ヒソカには通じない。無意味だ。


 ――ヒソカはトンネルを抜けた。後に続く者はいなかった。




2012/12/06
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