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好奇心。
クロロが男の蛮行を許したのは、好奇心からだった。
男は、新任の若い教師。教え方が上手く、爽やかな好青年とクラスでも評判だった。
しかし、その瞳が語る本質を、クロロが気づかない筈はない。
彼がクロロへ向ける眼差しは、他の生徒へのソレとは、明らかに異なっていた。制服、あるいは体操着や水着の上から、その下に守られている素肌を覗いているような、雄獣のねちっこい熱視線。
ある夜、クロロは帰宅途中の自分を尾けてきた若い男を捕まえて締め上げた。
教師が雇った探偵だった。
案の定、例の教師は行く先々の高校で、気に入った女子生徒たちの弱みにつけ込み、凌辱行為を重ねていた。教師は、ターゲットの身辺調査を、高校時代からの悪友でもある、この探偵に依頼していた。
正体が判っても、クロロは放っておいた。性の対象にされていることにも、怒りや嫌悪を感じていない。仮にあちらから何か仕掛けてきたら、返り討ちにしてやるだけの話だ。
二週間ほど過ぎたある日の放課後。
クロロは教室でひとり、本を読んでいた。
イルミは帰った。
ヒソカは今日は学校に来ていない。
他校に通う仲間との予定も入っていない。
ひとりきりの時間だ。
そのとき、ドアが開いた。
あの教師だった。
彼がドアの鍵をそっと閉めたことに気づいたが、クロロは黙っていた。
あってないような会話をしていると、ごく自然に、缶コーヒーをもらった。
仕掛けてきたか。
探偵に吐かせた情報によると、教師の常套手段は、探り当てた弱みをエサにターゲットを凌辱することだが、凌辱対象によっては、こうした強行手段に出ることもあったそうだ。
探偵曰く、どんなに気丈な女でも、「たとえレイプだろうが」、「あの薬を使って一発ヤッちまえば」、「あとはズルズルと」堕ちていってしまうらしい。
クロロは男の思惑と、コーヒーに混入されているであろう薬に気づいていながら、それを飲んだ。
犯されたいという願望があるわけではない。
もう少し、この性倒錯者を観察したくなったのだ。
しばらくすると、四肢に鈍い痺れが走った。軽い眩暈。
そして、体中が急激に火照ってきて、下腹部が疼いてきた。おぼえのある疼きだった。
異変を訴えた。
すると、勝利を確信した教師は、口の端を歪めて嗤った。
席を立った瞬間、いきなり押したおされた。
上半身を机へ押さえつけられて。
「――せ、先生!?」
クロロは、反撃せず、あくまで何も知らない、か弱い少女の演技を続けた。
「まさか、あの飲み物に……!?」
演技に騙された彼は、得意になって教えてくれた。
“あれ”は、教師が女性を調教する際に使用する愛用薬。即効性で、肉体の自由を奪い、飲んだ人間の淫性を引きずり出す薬だとか……。
もちろん、薬の効果は、探偵から吐かせた情報から知っていた。
この薬が、そのまま放置していると、飲んだ人間をいつまでも苛み続けるという厄介な代物であることも。肉体の異常興奮をしずめるのは、絶頂だ。イケば治まる。言い換えれば、イカなければ治まらない。また、必要なオルガスムスの回数には個人差があるらしい。
(さて)
からだの自由を奪うといったが、それはあくまで一般人が服用した場合だ。
(イルミほどじゃないが)
クロロにも薬への耐性はある。
それに加えて、この薬はいたいけな少女相手に使っている代物だ。自由を奪う作用は、クロロを完全に動けなくするには到らなかった。
クロロは動けないふりを続行した。
この男が、木儡となった(と、思いこんでいる)自分をどのように扱うのか、興味があった。
今、彼女は机に上体をあずけて、男に向かって尻を突き出す卑猥なポーズをとらされている。これはさすがに屈辱的だったが、ここで下手に動いては、好奇心を満たすことはできない。我慢した。
いきなりスカートをめくられた。
教師の手が、黒いタイツの上から、太ももや尻を撫でまわした。尻肉を揉まれた。
背中がざわついた。嫌悪からではない。
心臓の鼓動がはやい。触れられる場所から新たな甘い痺れがおこる。
どうやら薬の、肉体を昴ぶらせるという効果だけが、クロロの耐性を上回ったようだった。
「こんなことが、許されると思ってるんですかっ」
「そう言うわりに、お前のここは濡れてるぞ」
愛液が、タイツの股の部分を湿らせていた。
男の指が、特に濃いシミを浮き上がらせている股間の亀裂部分へと伸びた。
裂け目を、厚い指腹で上下になぞられる。
チリッと、腰に強い痺れが奔った。
「こ、これは、先生が変な薬を飲ませたから……」
「さっきも言ったろう? あの薬は飲んだ奴の淫性を引きずり出すって。つまりお前は根っからの淫乱ってことだ」
男がタイツの股間部分を強引に引き裂いた。
真っ黒な生地の下から、肌理の細かい白い肌と、“童顔”の“優等生”のキャラには似つかわしくない、大人びた黒いショーツが露になった。
「意外だなァ。顔に似合わず、こんな刺激的な下着を穿いてたのか」
案の定、男はそこをつついてきた。
どちらかと言えば落ち着いた印象の美少女が穿く下着としては、たしかに大胆過ぎて不釣り合いだろう。
その下着にも、愛液のシミが滲んで広がっていた。
「実は、外ではこのエロ下着で男を誘って遊びまくってるんだろう。不純異性交遊は校則違反だぞ」
「そんなことしてないっ」
「ほう。じゃあ、先生が確かめてやる」
男が濡れたショーツを横にずらして、指で柔らかい陰唇をめくった。
瑞々しい肉粘膜が外気に晒される。
背後で生唾を飲みこむ音が聞こえた。
「……綺麗だなー。先生は安心したぞ」
そう言うと、教師は自らの唾液で湿らせた中指をクロロの秘裂に突き刺した。
「オオ、こりゃ狭いな。やっぱり初物か」
「いやっ…指、抜いて、今すぐ抜いて……!」
「そう言うな。お前だって痛いのは嫌だろう? ちゃんと解しておかないと、先生のチンポが入らないからな」
ストレートな言葉。
凌辱宣言。
「そんなっ、先生やめて」
「やめてって言われてもなー。クロロのマン肉はもっとしてくれってねだってるぞ。ちょっといじっただけで汁がどんどん溢れてくる。レイプされてよがるなんて、学園一の秀才はとんでもない変態女だったわけだ」
主導権は自分にあるのだと勘違いしている教師は、卑猥で下品な言葉で、クロロを嬲ろうとする。
「ちが、う……もう、はなして」
「はなせ? こんなに気持ちよさそうなのにか?」
「嘘、気持ちよくなんて、ない」
嘘。
ほんとはかなり気持ちいい。
(ああ……これは、さすがに)
二本に増えた指が、肉粘膜を捏ねまわし、ほぐし、掻き乱してくる。鼓膜に響く、グチュッグチュッと濡れた音さえ心地好い。
股の付け根が小刻みにふるえた。
官能を刺激する水音は、激しさを増すばかり。
男の愛撫にテクニックがあるのかどうか、クロロには判断材料が少なくて判らない。単純に、媚薬の影響で、ひとりよがりの愛撫に感じてしまっているだけなのかもしれない。
なんにせよ、発情した身体は、悦んでいた。
これほど強い快感を得られる機会は、日常ではそうはない。これでは、経験の浅い少女では病みつきになってしまうだろう。
ひとは快楽には抗えない。たとえそれが、望まぬ快楽だとしても。
なぜなら人間とは根源的に、快楽を求めて――対象は、ひとによって異なりはするが――生きているからだ。
そして、そんな何ものよりも替えがたい快楽を与えてくれる存在に対して、ひとは従順になる。少しずつ、少しずつ、隷属という異常が日常にすりかわっていく。後は、堕ちるところまで堕ちるしかない。
つまり、この男が行わんとしていることは、凌辱でもあり、一種の洗脳行為――と、クロロは分析・解釈する。
肉体は発情しきっていたが、頭は冷静だった。
ただ、冷静な分、肉体が異常に興奮している状況に対する違和感がすさまじい。
そもそも、この手の快楽に、クロロは慣れていない。彼女もそれは自覚している。
「もう、触ら、ないで」
拒絶の言葉とは裏腹に、堪えることを放棄している下腹部は、もっと触ってほしい、掻いてほしい、擦ってほしい――と、ぐずっていた。
汗でしっとりと濡れた黒髪が、肌にはりついている。
(イク……)
絶頂はすぐそこまで迫っていた。
その時。
「――……?」
ヌルンッと、肉襞から指が引き抜かれた。
咥えていたものがなくなって、肉襞が心細さにひくついた。
後ろを見ると、男がズボンのファスナーを開けて、ペニスをとり出していた。ペニスは赤黒く、パンパンに膨れて、臍まで反り返っている。
男性器への怯えや嫌悪はない。
しかし……。
クロロは教師を蹴り倒した。
悲願達成目前であった彼には、さぞ悲劇であったろう。何が起こったのかのさえ、わからなかっただろう。
「ふう……」
蹴り飛ばす直前、男の懐から盗んでおいたデジタルカメラ。
(大方、オレを犯した後でコイツで撮影するつもりだったんだろうな)
蹴り飛ばされた教師が、
「ぐぅ…うう……っ」
と、床に突っ伏したまま、苦しげに呻いている。
しばらくは起き上がれないだろう。
クロロはそんな彼を足先で仰向けに転がして、その惨めな姿を撮影した。
男が唸りながら言った。
「なんで、動ける? 薬が、効いてないのか……!?」
「いや、効いてるよ」
クロロは改めて自分の下腹部に目をやった。散々なことになっている。床に飛び散った愛液が小さな水溜まりになっていた。
(これ全部オレのか)
素直に驚いていた。
身支度を軽くととのえてから、教室を後にした。
校庭に出ると、携帯電話をとりだした。
「――イルミ、頼みがある」
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