わたしが今ここに立っているわけ
海軍の人たちは皆優しいと思った。
メモを抱えて施設内をウロウロしてた時、手招きするガープさんについてくと部屋にはセンゴク元帥とおつるさんが仲良くお茶していた。どうやら私の引っ越しの件を耳にしたらしく、生活に必要なものを手配すると非常に有難いお話を頂いた。
「なァに、老いぼれに可愛い孫の面倒くらいさせんか。なァおつるさん」
「老いぼれはアンタだけだよ。私にとっては孫じゃなく娘だね」
そう言って二人が私からメモを引っ手繰って次々にリストに署名して横線を引いて消していく。これはわし、これは私、これはセンゴク...と、何故か勝手にセンゴク元帥の名前も挙げつつ線を引いていけば食材以外、リストの文字は消されてしまった。
流石にこれではマズいと思って口を開き掛けた時、先にセンゴク元帥が言葉を発した。
「クザンの管理料だと思っていい」
「へ?」
「アレが大人しく仕事をするようになって助かっている」
管理料...それを言うなら彼に監視料は支払わなくていいんだろうか。
「嫌な言い方するもんじゃないよセンゴク。ベレッタが困るだろう?」
「おつるさん」
「ベレッタも、素直に年寄りに甘えな」
「やっぱり年寄りじゃねェかおつるさん!」
「アンタは黙ってなガープ。今日中に若いのにこれらは運ばせるよ。片付けは自分たちでおし」
.........と、いうことで。食材以外のものは皆さんに甘えさせて頂いた。
このことは後でクザンさんにも報告して彼からもきちんとお礼を言ってもらおう。親しき仲にも礼儀あり、だ。
「けど助かったーこれで往復する手間が省けたー」
とはいえ...これからが本当の戦いかもしれない。
リストの荷物がジャンジャン届く→放置するわけにはいかない→片付け...これだ。よく考えたらあの家の収納とかよく見てないし、何をどうしていいか話し合うのを忘れてた。と、いうより...彼を置き去りにしてしまった、気がする。
何かこう、急に、気恥ずかしくなったんだよね。よく考えたらこれって"同棲"っぽいし。
いやいや、落ち着け落ち着け。
とりあえず今は家の片付けに集中しよう。じゃないと私もだけどクザンさんも快適な生活が送れなくなる。
「よし、頑張ろう!」
とりあえず気合い。気合いを入れて両手を握り込んだ瞬間、力とは裏腹にサッと引いてく血の気。
「随分と楽しそうだなァ、お嬢ちゃん」
「.........貴方は、」
こないだの、ヤバイ人だ。
長身、猫背、ピンク色の羽コート...その出で立ちはあの時と同じ。
「お前、おれの名前知らねェだろ」
「.........ええ。知りません」
「ドンキホーテ・ドフラミンゴ。王下七武海の一人だ」
.........何それ。てか、ドンキホーテなのかフラミンゴなのか。何か、よく分からない。
「フッフッフッ、なァんも知らねェんだなベレッタ」
「.........気安く、名前を呼ばれたくない」
「アレは良くても、かァ。妬けるぜ」
「冗談はその名前だけにして下さい」
.........とか言って、何気にマズい。
どうしよう。今、一目散に走り出したら住んでる場所が分かってしまう。だけどこの人は本当にヤバい人だから逃げなきゃいけない。そう教わったから...どうにか逃げないと。けど...どうしよう。
「.........失礼します」
無難にこの方法しか見つからない。
走って、どうにか安全そうな場所まで走り切れれば後はどうにでもなる。そう思って一歩踏み出そうとした時だった。
「え、」
その一歩が踏み出せない。体が、動かない。
それなのに自分の意とは裏腹に吸い寄せられるように足が反対方向へと進む。そう、そのドンキホーテなのかフラミンゴなのかよく分からない人の方向へ...体が、勝手に動いてく。私の意思とは関係なく動いて、私の思考とは裏腹な方向へと動いて、捕らわれた。
「物知らずなお嬢ちゃん。おれが教えてやろう」
目と鼻の先なんてもんじゃない。
近距離すぎる位置に意思なくやって来た私にヤバい人が触れた瞬間、悪寒が走った。
「おれは政府に認められた"海賊"だ。ある程度の収穫を渡せばそれで全てが許される..."公認海賊"」
.........公認、海賊?
「同じ海賊から金品を奪ってもいい、人を攫っていい、それらを売ってもいい...」
「な、何、それ...」
海賊って...私がいつも報告書をまとめている海賊...一般人に危害を加えるから検挙してる団体のこと、よね。
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