業務的日常
ボルサリーノさんの雑務は無事終了した。
別に大したことなかった。この雑務をしていた彼の補佐・ベルトロさんはかなり優秀で説明するとすんなり納得してくれたんだ。不納得な箇所も「そんな風に考え込むとキリがなくなりますよ」って話したら「分かりました」と素直な返答。その後は一人サクサク仕事されちゃって私の出番はナシに等しかった。ただファイリングして時々質問に答える程度。
あっちの世界ほど複雑な経理はしていないにしてもやっぱり共通なんだなあ...
なんて思ってたら今度はサカズキさんが血相変えてボルサリーノさんの部屋へやって来て、何故かその場で同じように仕事を始めた。どうやら私がこの部屋に入るのを見てやって来たらしい。凄い量の荷物を抱えたサカズキさんの補佐・アーガスさんは「今しか聞けんからちゃんと聞いておけ!」とか言われて辛そうだわ泣きそうだわで可哀想だった。
「おれも手伝うから頑張りましょう!」
「は、はい!」
「私も出来るだけ分かりやすく説明します!」
と、気付けば三補佐の絆が深まっていた。めでたしめでたし。
「.........で、この大人数携えて帰って来たの?」
「.........ごめんなさい」
「しかも一時間半経ってる」
「.........それも、ごめんなさい」
時間に関しては...サカズキさんまで来ることを想定してなかったから、うん、どうしようもない。
で、仕事は終わって時間も過ぎてるのにボルサリーノさんは「紅茶淹れたげるよ〜」とか言うし、サカズキさんも「貰った和菓子を持ってくるか」とか言うし。無下に断れる立場ではないから「ならクザンさんの部屋で」としか言いようがなかったんだもの。二大将、二補佐を勝手に連れて来たのは申し訳なかったけど、そんなに大人数ではない、と思う。
「いやァ〜ベレッタちゃんは時間通りに終われたんだけどねェ〜」
「何じゃ、わしの所為とでも?」
「完全にアンタの所為でしょ。ちゃんとアポ取らないとダメだよ〜」
「時間制限があることを告げんお前が悪い」
「そうかい?まァ、そもそもはクザンの心の狭さが悪いけどねェ〜」
「勝手におれの所為にするな」
.........怖いなあ。
この光景にはベルトロさんもアーガスさんもヒィッてなってるじゃないですか。
「.........次からは気を付けないとか」
「.........おれも質問はまとめておこう」
「あ、私が空き時間にちょこちょこ顔...は...出せそうもない...か」
彼らが気軽にこの部屋へ入れないのと同じ。私も彼らの部屋には入りにくい。
「私も色々勉強したいとは思ってるんですけど」
「何をですか?」
「此処のことです」
「.........あ、記憶喪失でしたね」
「あ、は、はい...」
ということになってるんでした。
クザンさんに色々と聞くようにはしていても彼もそんなに暇じゃないだろうし、面倒臭いだろうなーと思って聞いてないこともまだまだ沢山ある。で、私の事情を知る人に色々聞くことも出来なくもないけど...同じくらい忙しい人たちばかりだし偉い人たちばかりだし聞きにくかったりする。
「でしたら今度はおれたちが質問に答えますよ」
「え?」
「時間外だったらおれらも時間あるし」
「本当ですか!?」
初歩的な事からどうでもいいことまで聞きますよ?と言えば彼らは笑って頷いてくれた。なんてイイ人たちだろう。
「いっそ定期的に勉強会でもします?」
「いいね。おれらも書類捌きがあまり得意じゃないからコツとか聞きたいな」
「いいですね。是非やりま、」
「ダメ」
.........ズズズッとお茶を啜るクザンさんからの一言だ。
「えっと、ダメなんですか?」
「ダメ」
お茶を置いたと思ったら今度はお煎餅をばりばりするクザンさんからの一言。
「.........やっぱり余裕ないねェ〜」
「うむ。心が狭いのう」
「何とでも」
三人で仲良くズゾゾゾお茶を啜っていらっしゃる...
とても微笑ましい風景なはずなのにまたもクザンさんがギスギスしてるのは何故だ。私にはダイヤモンドダストが見えるんだけど...もしかしたら彼らにも見えてないだろうか。そんな思いでチラリとベルトロさんとアーガスさんを見ると何故か私と向こうの三人を交互に見てた。
「.........あ、うん」
「え?」
「成程...なら勉強会は無理だね」
「!?」
なんで!?何がどんな理由で納得されて無理と決まったのか一から百まで教えて下さい!
とは口には出せない空気だけど、とりあえずそんな目でクザンさん以外の皆さんと視線を合わせてみる。だけど、誰一人として続く言葉は無い。
「あ、え、えっと...」
私もまたどうしていいか分からない。だけど...これだけは言える。
「あの、可哀想なもの見るような目で見ないで下さい。お願いですから」
苦笑って言うんだろうね。そんな表情浮かべられても本当に意味が分からないんです。クザンさんが勉強会をダメだっていう理由もそれに二人が納得した理由も。
「ん〜何だろうねェ〜」
「そんなもんじゃろう」
「な、何がですか!?」
わたわたする私を余所にお茶菓子が進む皆さん。私だけ目の前のお菓子を食べられずにいればようやくクザンさんが口を開いた。顔を見ればようやく機嫌が直ったのかいつものクザンさんに見えた。
「まァ、気にしないでよ。ほら、お食べなさいなベレッタ」
「.........頂きます」
全く以ってすっきりしないカンジだけど食べたお菓子が美味しかったから...もう忘れることにした。
[ 戻る / 付箋 ]