「いいんですか捨てちゃっても!」
「え?全部ごみよ」
「お、思い出とかは...」
「別に?ごみに思い出とかないよ」
.........思い出は全て心の引き出しの中に、ってやつ?
うーんうーん悩んでる間にクザンさんは本当にどんどんその辺のものを袋に詰めてく。紙から服からビンから何まで、とにかくあるもの全てを詰めてってるカンジだ。当然だけど...そろそろ袋がパンパンだ。予備の袋とかないみたいだけど買いに行くべきだろうか。
「あ、あの...」
「さァて、このごみをちゃちゃっと消しちゃいますかァ」
「へ?消す?」
そう、消すよ?と当たり前のように言われたけど意味不明だ。疑問だらけだ。
そんな私を余所にクザンさんはオジサンっぽくドッコイショとか言いながら袋を持ち上げ、スタスタ外へと歩き出してしまった。当然、私も慌ててついていくわけだけど、扉からさほど離れていない場所にクザンさんはいて...また疑問符が頭を巡る。そんな場所に置いたら消えるのか...あ、ごみ収集車が来るのかも...って、この世界に車って存在してる気がしないんだけど。
「あの...クザンさん?」
「まァ、離れて見てなさいな。消しちゃうから」
言われた通り、少しだけ離れてクザンさんを眺める。
どうするんだろう...ごみを一気に消しちゃうって言われても俄かに信じられない。冗談なら冗談でいいから早く言って欲しい。まだ掃除に時間掛かりそうだし...てか、これで「ちちんぷいぷい〜」みたいな呪文唱えた日には全力で突っ込みもしくは激しくズッコケてもいいんだろうか。
「.........アイスタイム」
「え?」
パキパキパキッと物が凍る音。
クザンさんの手?からだろうか、瞬きをしてる間と言ってもいいくらい一瞬でそこがというか物が凍ってしまった。
「なっ、だ、大丈夫ですかクザンさん!」
「んー?」
「手、手がっ」
物だけじゃない、クザンさんの手も同じだ。このまま放置とかすると凍傷で壊死する恐れが、って、暢気に凍ったごみを蹴り砕いてる場合じゃないですよ!
「.........あァ、目の当たりにすんの初めてだったか」
「そんなことより早く手をっ」
「おれ、能力者なの。ヒエヒエの実、氷結人間」
「チューハイ能力!?」
「え?何それ...」
某首長動物社が出してるチューハイ・氷結を知らないと!?
.........うん、知るはずがないよごめんなさい。ここ、世界が違うから某首長動物社なんか存在してないんだった。とりあえず「ごめんなさい何でもないです」と言えば何となくクザンさんも解したようでそれ以上は何も突っ込まなかった。
「前に海上をチャリで移動したじゃない。あれ、おれが凍らせたのよ」
「凍らせた?」
「そ。おれ、何でも凍らせることが出来る能力持ってんの」
何でも?何でも。というやり取りをもう一度。
それからさっきクザンさんが蹴り砕いたものを見ると、確かにごみではなく氷の欠片になってて水へと変わっていた。な、なんて便利な能力だろうか...これは激しく二酸化炭素削減運動に貢献出来、かつ大気中のオゾン破壊を防ぎつつも地球温暖化防止に役立つ...いや、それどころか今、深刻化されている水不足問題も解決出来るじゃないですか!不要物を水へ!これってプラスエコ能力じゃないですか!
「.........クザンさんさえいればっ」
「へ?」
「クザンさんさえいれば地球は守られるのにっ」
「.........あーベレッタの実家の話?」
「実家規模じゃないですよ!世界規模です!」
けど、そんな能力なんか持った人がポーンと出現した日には大変だろうか。間違いなく彼を囲えた国が繁栄することは間違いないし、その能力検証のためにモルモットとなる可能性もあるし...うん、もしそんなことになったらクザンさんが可哀想だ。
.........とか、ごちゃごちゃ考えてたら少し困った顔したクザンさんが大きな身を屈めて私の顔を覗き込んで来た。
「実家のお役に立てなくてごめんね」
「あ、いや...」
「おれが役に立たなくてもベレッタは役に立ってちょうだいね」
ハイ、と渡されたのはさっきまでごみが入ってた袋。
そうだ、凄い能力を見せられて驚いた挙句に地球防衛のこと考えてて忘れてたけど掃除の途中だった。
「はい!クザんさんの気管支のために頑張ります!」
「んあ?あ、いや...うん、まァ頼むよ」
何処か歯切れ悪く返事をしたクザンさんがポンポンと私の頭を撫でて肩を抱いた。勿論、やらしい意味などなく、ささっと掃除に戻れって意味だろうけど...少しだけ感情が跳ねた。此処に住む経緯となった昨日のことを思い出して。
住む世界が違うからか、人の持つ価値観も強さも違うのは重々承知してる。特にクザンさんは海軍にいて偉い人で強い人で...私を監視する役目と責任を持つ人だから特に気に掛けてくれていることも分かってる。だけど、それがあまりにも過剰に感じるのは今までにそういう扱いをされてことがないだけ、何の意味もないって頭では沢山考えているのに落ち着かない。
「しばらくの間、おれから離れるな」
「心配すんな。ちゃんとおれが守る」
「目に留まるところにいて、絶対に離れるな」
勘違いしたくない。絶対に、勘違いしたくない。
私と彼は違う。何故かこうなったのと同じでいつかは訪れる。いつかが来た時、何の感情もなければ旅人気分で終わる...
そこまで考えておきながらもう手遅れだってことも、何となく気付いてるけどどうにか蓋をした。
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