君の行動パターン
あの日以来、彼女とはうまくいってる。
けど、知らねェことはまだまだ沢山あって、まだまだマルコとかの方が詳しくてムカつく日々を送ってる。だから書き残そうと思う。
目覚めはおれより断然早い。気付いたら腕すり抜けてテーブルに向かってる。
おれが(離れたくなくて部屋に連れ込んだ翌日、あいつが部屋から消えてショックすぎて)勝手に部屋を出て欲しくないとボソッと言っちまったこともあって、(約束したわけじゃねェけど)それを彼女は気にしておれが起きるまでこの部屋にいる。但し、半端ない集中力で医学書を読んでるからイタズラでもしねェと現実には戻って来ない。
おれが目覚めたら彼女は挨拶してスッと部屋から出てこうとするわけだが、当然、おれも用さえなけりゃついてく。
彼女の行く先は自室、埃っぽい書斎、重苦しい医療倉庫、薬品臭い医務室と検査室、それから意外だったんだが船大工たちの居る作業場。話を聞いたら彼女の親父が大工で作業音を聞くと落ち着いたりスッと頭の整理が出来たりするらしい。
食事はピークを避けて誰もいなくなった頃、静かに黙々と食べるのが基本。
おかわりはないわスープとか冷めてるわだが、それでも飯が美味いから気にしてないらしい。てか、ナースたちよか食うけどおれからすれば小食すぎて勿体ない。もっと食えばいいのにと言えば腹八分で十分だと言われた。
「.........隊長」
「ん?」
「あの、文章書いたりメモを取ることはいいとは思うんですけど、」
現在、最近あった健康診断のカルテをまとめてる最中。
初期カルテは走り書きすぎて彼女にしか読めない文字だ。それはそれで問題はないらしいけど、もしも別の船医が見る機会があると困るという理由で書き直しているところ。おれからすれば面倒臭いことしてんなァと思うわけだが彼女は苦に思わないらしい。
「それ、私のこととか、じゃないですよね?」
「へ?」
あ、因みに現在は眼鏡着用。最近、視力が落ちたらしい。
おれとしては眼鏡のベレッタも悪くねェ。(元より医師だから当たり前だが)賢く見える。けどイゾウ曰く、余計地味になったとか何とか。けどサッチ曰く、これは地味ではなく眼鏡萌えだとか何とか。どのみち彼女はあいつらのモンじゃねェから見んなと言いたい。
「いや、何かこっち見て書いてこっち見て書いてしてるから...」
差し向かいで仕事してる彼女と同じくノートに文字を書いてるおれ。
ちょっと覗き込もうとしてたから敢えてノートを引いて見せないようにしたら彼女の眉間にシワが寄った。それもまた可愛い。
「あァ、ベレッタのこと書いてる。おれ忘れっぽいから」
「そ、そんなもの書かなくていいですよ!?」
「大丈夫。おれ専用ノートだから!」
「そういう問題!?」
何においてもマニュアル重視らしい彼女はノーマニュアルなおれの行動がよく分からないらしい。
彼女の口から出て来る疑問は本当に「疑問です!意味不明です!」ってなカンジで発せられて分かりやすいけど理解出来ないことが多い。
今だってそう。おれが忘れっぽいからベレッタの習慣とかを自分のノートに書いてるだけなのにそれの意味が分からないと言う。航海日誌と似たようなもので今、ベレッタがまとめてるカルテと何が違うんだって話。ついでにマルコが付けてる日記とも似たようなもんだ。
「だってよーおれあんま記憶力よくねェ」
「は、はあ...」
「けどベレッタのこと色々聞きてェ」
「わ、たしのことっ、」
「聞いても忘れちまったらまた同じこと聞くことになるじゃん?そんなの嫌だろ?」
おれだったら嫌だ。面倒だし。
そう伝えたらベレッタは困ったような顔をしてたけど「そうですね」と呟いた。ってことはノートに書いてもいいってことだと捉える。
「おれも色々教えるからベレッタのこと色々教えてくれよな」
「.........はい!」
「よし!イイ返事だ!」
まだまだ知らねェことが沢山ある。まだまだおれよりマルコとかの方が詳しいかもしれない。
だけど、これからおれしか知らないことがきっと沢山増えてく。それを此処に残してくのが少しだけ楽しみになった。
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