ONE PIECE [LONG] | ナノ
業務的日常

「クザンさん」
「ん?」
「ちょっとお願いがあるんですけど」

あらら、願い事とか珍しい。
お昼ちょっと前にぴたりと仕事を止めておれの目の前にやって来たベレッタはピシッと背筋を伸ばして立ってた。うん、その行動はおれの部下っぽくていいけどベレッタとしてはちょっと可愛くない。折角オンナとして生まれたんだからモジモジして言ってくれた方がおれとしては好ましいとこ...とは言えないけど。

「どうしたの?」

と、無難に返事をすれば未だピシッとしたまま彼女は言った。

「夕方5時から一時間ほど休憩を頂いてもいいですか?」

.........休憩?え?それがお願い?
いや、別に休憩させないとかいうのはないし、その辺は自由にしていいよーって随分前に話したことあるんだけどわざわざ申告すること?

「えっと、構わねェけど...どうしたのよ急に」
「色々考えることがあってですね...相談したらこの時間しか空いてないって言われて」
「は?何?誰に何の相談したの?」

このおれを差し置いて誰だよ相談されたの。
此処での彼女の交友関係といえばそう大した人数じゃねェけど、ほぼこの部屋でほぼおれが傍にいるから...ベレッタが自分からそいつを訪ねないと相談とか不可能だと思う。ということは、おれじゃ相談相手にはならないってこと、か?何気にヘコむ。

「あ、おつるさんです。たまたまト、いえ、廊下でお会いして」

なんだ。トイレで会ったわけね。そこまではおれも見張れねェや。
ついでに相談相手がおつるさんなら納得だ。オンナ同士だし年上で頼りがいもあるだろう。ついでにあの人世話焼きだからベレッタのこと可愛がってるし。

「戦い方を教わろうと思いまして」
「.........は?」
「戦い方というより護身術なんですけど」

.........護身、術?

「私、自分の身を自分で守れるようになりたいんです。で、あわよくば...むきむきボディを極めようかと思いまして」
「む、むきむきボディ...」
「でも手っ取り早いのは能力者になることだって。たまたまガープさんがソレをお持ちだったから頂こうかと思ったのですが」
「ええっ!?ちょっ、それは、」
「はい。おつるさんが冗談だって笑ってました」

おつるさん...

「マジ、笑えねェってその冗談......」

おつるさんにも一応、話はいってるはずだ。
この子が「別世界から来た」と主張してる件。信じる信じないは別としても此処での常識が著しく欠落してて何でも鵜呑みにしちゃうことだって知ってるはず。何笑えない冗談とか言っちゃってんのよ。本気にするよ彼女は。

「で、クザンさんの許可が必要だということで、その、許可して頂きたいです」

というより、

「.........何で」
「へ?」
「何でそんなこと考えちゃったの?」

戦闘を嫌い、人の死を嫌う。それが罪人であっても海賊であっても。
暴力は元より喧嘩だって好まない人が何で戦い方だとか護身術だとか習おうとしちゃってるの。って、何となく分からなくもないけど。
しかしむきむきボディは...ちょっと見たくないなァ。

「自分のことくらい守れた方がいいと思って」
「あの件もあったし?」
「.........はい。そしたら迷惑掛けないでしょう?」

迷惑、かァ。
そんなこと考えてるなんて思いもしなかったけど、何処か彼女らしい。で、おつるさんも何となく気付いてるから...おれに言えって言ったのね。

「そう......でもダメ。許可しない」
「え?」
「おれが守るって言ったでしょ?だから自分で自分を、なんて守らせてやんない」
「ええ!?」
「むきむきボディも許さない」
「それもダメなんですか!?」

むちむちボディなら許すけどね。
戦わない世界で育ったのなら戦闘術なんてきっと不要で、戦う世界にやって来たとしてもおれが守ると決めたのだからおれが守る。迷惑じゃないし、逆に中途半端に齧られた方が迷惑。でも迷惑掛けたくないって気持ちだけはもらっとく。

「おれが守る、それが不安?不満なの?」
「いや、そういうわけじゃっ、」
「だったら守らせて?」

そう言って聞かせたら彼女は小さく頷いて小さな声で「お願いします」と言った。ヤバイ、可愛くて死ぬ。

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