ONE PIECE [LONG] | ナノ
それでもやはり、

全身に掛かる圧力で私は目を覚ました。
目を覚まして、暗い視界と思っていたものが隊長の体で思わず悲鳴を上げそうになった。上げそうになった声をググッと堪えたのは...彼がとても幸せそうに寝ていたから。しっかりと腕も足も私に絡まって何とも言えない状態だけど、幸せそうに、眠っていたから。

「.........重い、し、」

何でこんなことになったんだろう...なんて今更考えても遅い。
本当にただただ一緒のベッドで仲良く眠ってしまった自分が恨めしい。後からこっそり抜け出してしまえばいい、くらいの甘い考えでいた自分に幻滅さえもする。まさか人肌のぬくもりに安堵して一緒に寝ちゃうなんて。

声は堪えたけど圧し掛かる重みには耐えられそうもなくて少しずつゆっくりと解除作業をする。
隊長の下敷きになりつつある足を引き抜く作業と隊長の腕を移動させる作業。この二つが済めば今度は体が引き抜けるはずなのに...重い。隊長、寝てる所為か重すぎる。この重さは想定の範囲外だ。

.........と、いうよりもこの人自体が想定の範囲を大幅に越える存在だと思った。
自分で考えてもヘコむけど...私は人付き合いがあまり良くない。うまく話せないことだって多くて感情も豊かな方ではない。何を考えてるか分からないとよく言われて、よくよく考えたら何も取り柄がないから勉強してた。勉強は、嫌いじゃなかったし。単純に脳に栄養だけ与えて、書かれたこと、覚えたこと、示されたマニュアル...それだけは話すことが出来た。話すっていうより説明出来たに近い。

「.........隊長」

何で、こんなに幸せそうに寝てるんだろう。
ようやく抜け出せて体を起こして見た隊長はやっぱり幸せそうな顔。布団を掛け直してその様子を眺めた。

本当に私は勉強だけしか脳がなくて、好かれる要素は何処にもないと悲しいけど自負できる。
自虐的だと否定されたなら逆に論で返せる自信だってあった。あったのに、所詮は頭だけの論、誤って曲がった真っ直ぐな隊長の感情を正すことが出来なかった。それどころか、それを、喜んで受け入れてしまった。

「.........ごめん、なさい」

嬉しかった。ただ嬉しかった。
医者として体を預けると言ってもらえたことも、女性として勘違いでも好きで問題ないと言ってもらえたことも。私を捜してくれたことも見つけてくれたことも笑いかけてくれたことも嬉しかった。それが自分の中で好きに変わってくのも嫌じゃなかった。でも、やっぱり間違ってる。

「あの日、泣いて、ごめんなさい」

ずっと嫌いだと隊長は思ってたのを知ってた。私はただ彼の邪魔してたし言うことも聞かないし。
モメ事にならなかったのはいつも別の隊長さんが居たお陰で、多分、その人たちが居なかったら私たちは会話すらしないくらい険悪になってた。それがあの日の出来事で...その時こそ得意の論を言えば良かったのに、出来なかった。

「きちんと、説明、出来れば、」

良かったのに、と。
ぽつり、ぽつりと零す謝罪と涙。無意味な謝罪と知りながら...それでも小さな声で謝るしか出来ない。

.........マルコ隊長にきちんと釈明してもらおう。
あれは冗談だって彼から説明されたらその感情も元に戻るかもしれない。それは少しだけ寂しいことだけど、間違ったまま進んでしまうよりもいい。間違いは正す必要がある、過ちを過ちのままにしてはいけない、そう本にも書いてあるから...


「なに、泣いてんの?」


響く声と頬に触れた手の感触でハッとなった。
いつの間にか開かれた目は完全に私の方を向いていて、慌てて顔を背けようとしたけど無駄だった。がっちり、背けられないよう手が触れてるから。

「ついでにおれ、謝られる覚えねェんだけど」
「あ、あの、」

どうしよう、どうしよう...が頭を巡る。
泣いてる理由、謝った理由。事態が急すぎてマニュアルみたいな言葉じゃなく箇条書きな文章がばらばらと脳内で散らかってる。拾ってまとめて説明しようにもばらばら、ばらばらすぎて、言葉に出来ない。

その間に隊長は頬を撫でながらゆっくり起き上がり、とっても大きな溜め息を吐いた。

「なーんかさ、おれが悪いみたいじゃね?」
「え、」
「好きになったのが悪いことみてェだ」

.........悪い、こと。

「おれ、ベレッタを好きになったらダメだったか?」
「そ、それは、」
「だったら何で謝んだよ、何を謝ってんだよ」

脳内の言葉たちがパーンッと弾けてしまった。
沢山の箇条書き文章たちが一気にただの文字でしかなくなって私、真っ白だ。だけど見える、風景。

「隊長は...太陽の下が似合います」
「太陽?」
「その太陽の下には、素敵な人が...沢山います」

船、甲板に出ようとする私の前には沢山の人がいて、きらきらした太陽の下で楽しそうにしている。

「私は、太陽の下にはいなくて、いつも暗いとこにいるんです」

そのきらきらがあまりにも眩しくて...私は引き返す。いつもの場所へ戻るために、きらきらを避けて通る。


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