ONE PIECE [LONG] | ナノ
医者にも治せない病気

眠くなるのと同じように、腹が減るのと同じように、おれにはベレッタが足りない。
そんな風に思うようになったのはサッチに言わせりゃおれが病気だかららしい。何かハッキリしねェ「好き」という病気。前にマルコが教えてくれた不治の病とかいうヤツで「医者でも治せない、馬鹿と同じくらい治らない病気」の所為なんだと。馬鹿と一括りにされた病気とか勘弁だけどまァ...治せないのは本当らしい。医者であるベレッタに話したけどよく分かんねェ説明しかなくて治療してくれねェし、薬もくれねェから。

それを少しでも緩和出来る唯一の手段として、ベレッタに触れて補充すりゃいいってのをイゾウが教えてくれた。だからアイツがよく居るってジョズから聞いた埃っぽい書斎に通った、見つけたら全力で捕まえた。捕まえたら...抱き締めたくなって抱き締めて、キスしたくなってキスもした。

別に、抱き締めんのもキスすんのもヤんのも適当に教わったから誰とでもした。
なーんにも考えちゃなくてただ気持ち良かったり悪かったり色々だけど意味はなくて。ただ適当にシて来たけどアイツだけは...触れるだけでドキドキした。アイツにする時だけは...何故かドキドキした。あ、ヤッたりはしたことねェけど。
何か悪いことやって「うわ、ヤベッ」でする嫌なドキドキと違う。こういうのなら、もっとしたいって思えるドキドキ。それはアイツだけにしかない。

「なァ、」

で、ベレッタも足りなくなってきたしドキドキもしたくて捜してんだけど...ここ3日くらいか、居ない。見てない。

「ベレッタ知らね?」
「書斎とか医務室とかに居なかったのかい?」
「居ねェ。部屋にも検査室にも居ねェんだけど」
「って言われても困るよい。船に居んのは間違いねェから自分で捜せ」

.........だよなァ、今、海の上だから居るのは間違いねェんだ。でも、見つからない。
大体、この船にいる連中の行動パターンってのは決まってて"此処"って場所を捜せば見つからないことはない。けど、そういうのが分からねェのがナースだったり船医だったり...とにかく特殊な連中だ。メシもいつ食ってんのか分からねェし、船医に至ってはマジ引きこもりすぎて分からなさすぎる。

だから、アイツが何処に雲隠れしてんのか分からない。つーか、おれはアイツをあんま知らねェんだよな。

「医療倉庫。よくアイツ見掛けるぜ」
「イゾウ」
「あいつ、いつもタイミング悪ィんだよな」

.........そうか、ナースにちょっかい出してたんだな。

「もう少ししたら食堂だと思うぜ。アイツ、夜は最後なんだよなァ」
「サッチ」
「いっつも冷えたの食っててさ。可哀想だからあったかいスープ作ってやる時あるぜ」

.........皆よく知ってんのな。
おれは基本的にあんま船内ウロウロする癖はなくって、どちらかと言えば島をウロウロすんのが好きでアイツと遭遇しやすい。だからあの姿の、あの行動を取るアイツしか知らない。そんなこと、改めて思わなくてもいいはずなのに、何かムカついた。誰にとかじゃなくムカついた。


アイツは、オヤジがある町で連れて来た医者だった。
そん時おれは同じ町の全然違う場所に居たから知らなかったんだけど4番隊の部下が奇襲に遭ったとかで怪我を負った。その時にたまたま居合わせたアイツが海軍に刃向かってまで治療をしようとしたらしい。脅されても銃を突き付けられても...それでも怯むことなく刃向かって、運良くサッチたちが通り掛かって海軍を蹴散らして事なきを得たとか。勿論、負傷した仲間はきちんと手当てされて...
後日、オヤジが使いをやった。直接、頭を下げて礼を言ったと聞いてる。で、船医として来て欲しいとオヤジ直々に勧誘したとも聞いてる。そんな有り得ねェ事態にアイツは、顔色一つ変えることなく二つ返事で船に乗った、と。

此処まではクルーなら誰でも知ってる話だ。けど、他は何も知らねェ。
あの町でどんな医者だったのかも、どんな生活を送っていたのかも、家族の話も何もかも知らねェ。まァ、アイツは医者だし引きこもりだし、人ともあんま話すことをしないからだろうけど...アイツを知らなさすぎるおれに、何かムカついてる。


サッチが教えてくれた通り、おれはただ食堂で待った。
もう誰も居なくてシェフたちも片付けとかしてて、まだ此処に顔を出していない誰かの分が二つ、三つテーブルに置かれている状態。いの一番に此処に来て飯食うおれにしてみりゃこんな時間まで飯食わねェやつの気がしれねェ。

「.........見ーっけ」


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