ONE PIECE [LONG] | ナノ


「どんな理由で戦場になってるかは知らないけど...戦ってる人には家族や親戚、仲間や友達がいる」
「.........それがどうした」
「何かの理由があって戦うことになったとしても死んで当然みたいな人間は一人だっていない」

嫌いだった上司、絶対イイ人じゃなかったけど...もしも亡くなったとしてもそれを当然だなんて思わない。
親戚の口煩いおばちゃん、いっつもお節介で嫌味ばっかで嫌いだったけど...彼女だって同じ。告げ口ばっかで媚び売りの友達も同じ、下ネタばっかで下世話な知り合いだって同じ。「死んで清々したわ」なんて思うことは絶対にない。だって、

「悲しむ人が必ず何処かにいる。胸を痛めて泣く人がいる」

嫌いだった上司はいつも娘さんのことになるとパパの顔して悩んでた。そんな姿は嫌いじゃなかった。
親戚のおばちゃんの旦那さんは凄くイイ人で...本当はこう言いたいんだよってフォローしてくれて、その度におばちゃんは顔を真っ赤にしてた。その姿も嫌いじゃなかった。媚び売りの友達、何かあった時に一緒に泣いてくれた。下ネタの知り合いも...上司の話をした時に一緒に怒ってくれた。

それが例え本心でなくても...私は、そんな感情を受けて来た。

「そんな戦場を面白いだなんてイカれてるわ」

まともな感情、今のこの人には無い。
冗談で笑って言ってのか、本気で人の生死を嘲笑ってるのかなんてすぐに分かる。この人は、後者だ。

「.........それが海賊でもか?」
「私は此処での海賊がよく分からないけど...それでも悪いことをした人でも死んで当然みたいな人はいないと思ってる」

人は知らない、でも自分はそう思ってる。
怖い人だけど精一杯そう言った時、ピンクの羽根がふわりと舞った。

「.........っ!」
「じゃあ、てめェが此処でおれに殺され掛かって、」
「っ、く、」
「てめェを助けるためにその辺の軍人におれが殺されても"私に手を出した男、死んで当然だ"なんて思わねェってのか?」

大きな手が私の首筋を掴んだ。それはきっと軽く...でも苦しい。
泣きそうだ。痛いし辛いし苦しいしで泣きそうだ。だけど必死で堪えた。それが何故なのか分からないけど。

「貴方には、身内や仲間、友達...恋人は、いますか?」
「.........さァな」
「少なくとも、悲しみを覚える人がいるはず。だから思わない。私を助けるのに、殺す以外に方法が、あるって...信じたい」

例えこんな人でも、信じてる人が、泣いてくれる人がいると信じたい。

「その考え、改めねェと死ぬぞ」
「改めてまで、生きたくないっ」

怯まない、私は私を曲げたりしない。
今まで生きて殺され掛かったことなんてなくて泣き叫びたくなるほど怖くてたまらないのに、それでも私は目の前のヤバい人に命乞いなんかしたくなかった。
可哀想な人、間違いを間違いだと教えてもらえなかった哀れな人。ヤバい人だから...誰も言ってくれなかったのであれば逆に言ってやるって、何処から湧いたか分からない正義でただただ睨みつけた。苦しくても、泣かずに。

「.........変なオンナ。でも、」

フッと力が緩んでその手が頬を撫でた。

「っ、」
「イイ目してる」
「.........私に、触らないで」

一歩も二歩も下がって嫌悪を示す。物珍しいオモチャを見つけた子供みたいな笑顔を向けられても私には嫌悪しかない。
それは私の首を絞めたからじゃない、冗談でも殺し掛けたからでもない。人の生死を軽んじて笑ったからだ。それを楽しいと言ったからだ。

「.........嫌われたようだなァ」
「ええ、此処に来て初めて嫌いな人が出来ました」
「フッフッフッ。いいね、その常識知らずで怖い者知らず。アンタの初めてはおれかァ」

平気な顔をして少し零れたコーヒーを口にする彼にもう話すことなんかない。
失礼しますと頭を嫌でも下げて立ち去ろう、そう決めて視線をズラした時、その視界にクザンさんの姿が見えた。私に気付いて歩いて来てる。

「.........あ、」
「ん?」
「ウチの秘書からかうのはやめてもらえる?」

言葉より先に伸びた手が私を彼の後ろへと動かした。大きな背中、あのド派手なピンク服が見えなくなった。

「おー...この世間知らずで怖い者知らずのお嬢ちゃんはアンタのだったのか」

.........知り合い、らしい。
でも空気が未だに淀んだままで絶対友達とかじゃない。そして、仲間でもないことに初めて気づいた。

「そ。優秀なんでね、引き抜かれると困る」
「優秀だァ?フッフッフッ、嘘はやめろよ」


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