ONE PIECE [LONG] | ナノ


試着室からマネキンと共に出て来た時にはクザンさんがもう支払いを終えていた。
運良くサイズは問題なかったけど...そういうのの確認もしないでババーンと支払っちゃってる辺りが気が早い。面倒臭がりなはずなのに。で、マネキンを店員さんに返して、着てた服を袋に入れてもらって...今また、街を歩き始めた。

「何か、照れますね」
「何が?」
「いや、私服でクザンさんと歩くって今までなかったから」

制服では時々あった。とは言っても例の施設内だけで外に一緒に出たのも初めてなんだけど...何か少し照れる。これじゃまるでデートみたいだ、とか言ったら笑われるだろうか。ぼんやり彼を見上げながら思った。

「んー...そういえばベレッタの私服とか見たことないなァ。持ってんの?」
「まあ...持ってますよ。買って頂きました。ただ着る機会はないし制服が基本ですからね」
「ベレッタだったら私服でウロウロも可だけど?」
「それは無理です。てか、制服の方が楽だし」

そう沢山ない私服を日替わりで着るのも大変だし、とは言わない。
不審者で浮浪者になってもおかしくない私を置いてもらってるんだ、今、こんな風に言っちゃうと強請ってるみたいで悪い。これ以上、気を遣わせないようにしたい。本当に、今で十分なんだから。

「まァ...そんなもんかねェ」
「そんなもんです。意外と女性は面倒臭がりなんですよ」

オシャレも大事だし好きな人も多いけど、家ではぐうたらさんも多いはず。
ほら、誰にも会わないんだったらそんなに頑張る必要はないわけだし、気合とか入れる必要もないわけだし。私なんか休日は家から一歩も出ずにジャージかつスッピンでゴロゴロしてたもん。DVD観て、雑誌読んで、寝て寝て寝て...が休日のサイクルというかスタイルだった。朝、目が覚めても気付いたら夕方になってましたーなんてザラ。そしたら偏頭痛が酷くって夜も早々に寝ちゃうみたいな。

.........よく、友達がだらしないって怒ってたっけ。

「だから普段スッピンなの?」
「い、いや、それは...まあ、」

単に化粧品の持ち合わせがないからです、とは言えない。
色んなものが揃う場所にいさせてもらってるんだけど結局のところ男職場でそういうのだけはない。買いに行きたい気もするけど私は一応、建物から出てはいけないって最初に言われてる。で、誰かに頼むにしても...ねえ。

「......変、ですかね」

化粧してないの、と言えば彼はうーんと言いながら頭を掻く。

「別に変じゃないと思う。おれはベレッタのスッピン好きよ?」

.........聞きましたか?今は遠き友たちよ!
化粧が嗜みで基本だって新人研修で習ったけどこの地では嗜みじゃなくても問題ないようですよ!むしろ、自然のままでいても好きと言ってくれる、人...てか、好き、とか、言いませんでしたこの人。しれっと表情も変えずに...さも自然な流れで。いや、意味とかはないと思うけど。

「.........有難う御座います」

が、無難な返答かどうかも分からないけど呟くように口にする。
すると上から覗き込むようにして顔を近づけた彼、ちょっと...いや、結構ニヤニヤしてる。

「あらら、もしかして照れちゃった?」
「ううっ、」
「意外と可愛いところあるじゃない」

うっ、な、何だ、この人、全力でからかって来てる。し、信じられない!
「も、元々私は可愛いんです!」と、ダイナミックな回答すれば「ハイハイ」とやっぱりニヤニヤして交わされてしまった。

「いやァ、こんな可愛いコ連れて歩けるとかおれは幸せ者だねェ」
「お、思ってもないこと言わないで結構ですから!」
「いやいや、ほんと連れ出して良かった」

ニヤニヤではなくフッと彼は笑った。う、わ、何か...ドキドキ、する。

「さァて、じゃ改めてデートといきますかァ」
「えっ!?」
「ん?おれじゃ不満?」
「と、とんでもないですっ」

ぶんぶん首を振って否定すればプッと吹き出して笑われてしまった。
ニヤニヤしたり優しく笑ったり吹き出したり...こんなに笑う人だったんだ。付き合い短い所為もあるかもだけど知らなかった。いっつも面倒臭そうな顔とかやる気なさそうな顔しか見たことなかったからなあ。

「よし。適当にパトロールでもしよう」
「パトロール!?あ、元からパトロールのお仕事だったんですか?」
「あ、デートだデート。間違えた」
「.........胡散臭いなあ」

首が痛くなるほど高い位置にある彼の顔を見ればまだ笑ってて、私の視線に気付いたのかまたフッと笑って何気なく右手を取られた。大きな手が私の手を包む感覚にまたドキッとした。

「はぐれないようにね」
「こ、子供じゃありませんからはぐれませんよ!」
「いや分からないね。思ったよりはしゃいじゃってるから」

.........言い返せない。確かに思ったよりテイション上がってることくらい自分でも分かるもの。
そのテイション上昇が初めての島に来たからなのか私服を買ってもらったからなのか、こうして彼と手を繋いで歩いてる所為なのか...分からないけど、ドキドキしてるしワクワクもしてるんだ。まるで、10代の頃のように。

歩調は私合わせ、私が歩いてる場所は建物寄り、握られた手は本当にはぐれないようにと少し強め。
私が目で追うものに反応しては説明してくれて、ちょっとだけ気になった店があれば「入る?」と聞いてくれる。面倒臭がりなはずなのに、気を遣ってくれてる。上から言われて仕事の一つになってしまった見張り役なのに、優しい。

「.........有難う」
「ん?」
「いえ...あ、アレは何ですか!?カタツムリが置いてありますよ!?」
「公衆電伝虫。見たことなかったっけ?」

この人は...何処まで一緒に居てくれるんだろう、いつまで面倒を見てくれるんだろう。

そんなことを不意に思った。

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