吊り橋効果と刷り込み現象
べったり、本当にべったりって表現が一番的確な気がする。
「あの、そろそろ放してもらえないですか?」
たまたま、本当にたまたま息抜きに甲板に出た時だった。エース隊長に捕まったのは。
長いこと本を読みすぎてうまく整理出来なくなったから仮眠を取って、それから新鮮な空気を吸うために外に出ただけのことだったのに...
「ん?何の話が聞きてェんだ?」
「!?しゃべるじゃなくて解放するの方です!」
「ふーん、ベレッタでも大声出すこともあんだな」
「ありますよ!人ですよ私!」
今はメインマストを背もたれに座り込んでる。その足元には何故か隊長の頭があって...ぎゅうっと腰に手を回されている状態。要は膝枕の状態で...それなりに陽射しも視線も浴びてる状態だ。ついでに冷やかしも浴びてて、困ってる。
「足も痺れて来たんです。だから離れて下さい!」
少しキツめに言っても暢気な隊長は「どっちの足?」と笑うだけ。全然退く気配がない。
「けどなァ、おれビョーキだから退くの無理」
「隊長は健康体です!問題ないです!」
「だっておれ、不治の病らしいし」
「だ、だから、それは...」
勘違い、です、と語尾も薄れ薄れに言ったところでもう隊長は聞く耳を持ってくれない。
つい、こないだのことだった。
いつぞやの罪悪感を払拭出来ずにいた隊長に「もう気にしなくていいよ」で終わるつもりで話をしようとしていたのに...途中から話を割ったマルコ隊長が、変なこと、吹き込んだから、その、エース隊長は真に受けてしまった。元々素直な人だから、マルコ隊長の軽い一言を鵜呑みにしてしまって...今に至る。
「こうしたら落ち着くんだマジで」
「いや、それは、多分、人肌なら誰でもいいはず、」
「おれにジョズとかビスタに抱きつけって言ってんのか?」
「そ、そんなこと言ってないです!」
それはそれで面白い図にはなるかもしれませんけどそういう意味じゃないんです!
医者としての精神面での見解を彼に向かって話そうとしたけど...うん、無意味っぽい。目、閉じ掛けてる。
「おーおーイチャついてるねェ」
「サッチ隊長!あの、出来たら助けて頂きたいんですけど、」
「おめェみたいなヤツ、たまには日向ぼっこしたらイイよい」
「マルコ隊長!?」
私みたいなヤツって言い方も引っ掛かるけど結局助けてはくれないのかという話。
この現状をとりあえず確認して笑って、そのまま放置で二人とも通り過ぎてしまった...これで何人目だろうか。これって全然微笑ましい図でも何でもないんですけど。私、まだやり掛けたこととかあるんですけど。
はあ、と溜め息を吐いた時、うっかり下を向いてしまってドキッとした。
隊長の閉じ掛けていた目がばっちり開いててジッとこっちを見ていたから。いつの間に睡魔に打ち勝ってたんだろう。
「なァ」
目が合って逸らせなくなった私に隊長が声を掛けた。
「.........何ですか」
「最近さ、抱き締めるだけじゃ足んねェんだけど」
「は、はい?」
だけ、とか何。足りるとか足りないとかって何。
「キス、してもいいか?」
「なっ、」
「大丈夫!いきなし舌は入れたりしねェ!多分!」
「なっ、何言ってるんですか!!?」
そういう問題じゃないです!!と力いっぱい叫んでしまった。
百歩譲ってこの状況は隊長が甘えていると思うようにして、人肌恋しかったりそういうのでこんなことになってるんだ、と頑張って納得してもいいです。ここは妥協します。でも、キスは違う。いや、頬とかなら...友達同士でもする習慣のある島もあるからそういうのだと思い込むことは出来ますけど舌、舌って言ったら口、思いっきり唇にって話ですよね。それは何かおかしいし間違ってます。間違ってます!
「お、落ち着いて聞いて下さいエース隊長!」
「おれよかお前が落ち着けよ」
「私はいいんです!真面目に聞いて下さい!」
というか真剣に聞いて下さい。出来れば離れて正座で聞いて下さい。
そう言いたかったところだけど動く気配が相変わらずない隊長はコロンと仰向けになってこっちを見るだけ。それが真面目に人の話を聞く態度か、と思いはしたけどとりあえず...私も落ち着け。落ち着いて話せれば伝わる。伝わるはずだから。
上向きに深呼吸すること二回、少し落ち着いたところで隊長を再度見た。
「隊長は物凄く精神が不安定な時にマルコ隊長から感情を刷り込まれてるんです」
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