「この場はあたしが奢ってやるから心配すんなよ」
「......おう」
女はベレッタと名乗り、半ば強引におれを引っ張って酒場へと連れ出した。
カウンターはすでに別の客で埋まっていたから隅のテーブルで向かい合ったわけだが...特に話すことがない。互いにビールを片手にアテを食って飲んで食って飲んで、だ。こう言っちゃなんだが...男女で酒場に行った場合の席ってのはこういうもんなんだろうか。
「なあ、お前...ロロノアだよな。"海賊狩り"の」
「.........人が勝手に付けた名だ。でも間違っちゃねェ」
「かなり強いって評判だけど、まさかこの島に居るとは」
間違って船に乗って運悪く流されて、漂流してたら運良く此処に着いてた、なんて口が裂けても言えねェ。
「此処に用でもあったのか?」と聞くベレッタに白々しくも「暇潰し」だと伝えれば「ふーん」と特に気にしていない風だが何故か口元に手を当てて考えるように小さく数回頷いた。悪い顔はしちゃねェが何か企んでる匂いが、する。
「暇潰しってことは今、暇なんだよなあ」
「.........まァな」
「ならさ、余興にあたしの話とか聞く気ないかい?」
「余興?」
「そ、余興」
頬杖をついて聞くか聞かないかの選択肢をベレッタは与えた。
こういう時は大抵イイ話じゃねェことくらい分かってたつもりだし、そもそもそういう話を聞くこと自体に興味ねェっていうのおれだったんだが...
「一応、聞いとこうか。但し、余興にもなんなかったら後三倍は飲むぜ?」
気になることがあった。それは勿論、何処からともなく出て来て今は無きベレッタの刀だ。余興とやらにその話が入って来る可能性が否定出来ないから聞いてやろうと思った。無けりゃ無くても構わねェ、余興ついでに問えばいいだけだから。
「三倍はキツいが...まあ聞いてくれ。あたしの...母国の話だ」
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