countdown 01
言っちまったことに後悔はない。手の中で転がる彼女のピアスを眺めながら思った。
このままじゃ酷く警戒されたまま時間を過ごして、こっちがそのまま何もしなければ..."何もなかった"ことになりそうな気がする。現にエースとの会話を遮った瞬間は警戒しかなかったが、その後の会話は特に普通だった。普通だったから手を伸ばしそうになった。いっそこの場で押し倒してやろうかと乱暴なことまで考えて踏み留めるのに一苦労だった。
こっちがそういう顔をすれば同じ顔をする。涼しい顔でも厳しい顔でも同じ。
こっちが"そういう"態度を取れば警戒する。あの目の奥が揺れる。また、逃げてくんだろう。
考える時間を与えてやりてェとは思った。でも"無かったこと"にされるくらいなら多少強引でもいいとも思う。
けど...なァ。おれはどうすりゃいいんだろうか。
きっと無理やりなんてのは簡単で一瞬だ。所詮、副隊長たってオンナのアイツが力でおれに勝つことは出来ないから。けどソレをして後々どうなるかって言ったら分かり切ったことだ。おれはもう、アイツの顔すら拝むことが出来なくなるだろう。少なくともそうしたいわけじゃねェ。そうなりたいわけじゃねェ。一瞬を望んでるわけじゃねェんだ。
身をベッドに放り出してただ天を眺めた。単なる板目が見える。その板目に...影が射す。
「.........見える月は嫌い」
「月?」
「.........窓、塞ぎたくなる」
「わたし、は......そんなん、じゃない、」
「私は、副隊長よ。一番隊副隊長で、そんなんじゃない、」
口で言ったところで、態度で示したところで...ってところか。
だったらいっそ、見ただけで分かるくらいにしてやろうか。アイツの嫌いなものブチ壊して、汚らわしいものを排除して、分かるようにしてやろうか。
おれがどれだけ本気で、どれだけ強く想ってるか教えてやろうじゃねェか。
足早におれは自室を出た。もう時間が無い。さっさとしねェと船が出ちまう。
まず最初に向かうのは...船大工たちの居る部屋だ。とっととあの邪魔な窓をぶっ潰してやろうと思う。
ヤツらの居る部屋にズカズカ入り込んで理由も告げずに窓の撤去を依頼した。潰してくれりゃどうだっていい。ただただ潰すよう依頼したら...変な顔はされたがオーケーが出た。但し、工事費を前払いさせられたが。ついでに...要求額に色を付けてアレも解体するよう頼んでおいた。
次に向かったのは...外。町に用がある。
さっき大工たちに頼んで解体を依頼したアレの代わりを...探さなくてはいけない。
「お前はおれらの行為が嫌いだ。死ぬ程嫌いだ。汚らわしい野郎に見えるだろうよ、あいつらもおれも」
「なん、で...」
アイツの放った「なんで」に続くのは「知ってるの」に違いねェ。
おれも...アレの上でどれだけのオンナを引き擦り込んで抱いたか分からねェ。ただ言えるのは、全部その場凌ぎだったということ。全然本気じゃなかったから平気で次の日には違うオンナを転がせた。次の日も、その次の日も...色んな残り香を感じながら平気でおれは、抱いてた。
気持ち悪ィだろ。そんなの。アイツからしたら。
突発的な行動だったから適当に見繕って金払って、今日中に運ぶよう手配して...後は、どうしようか。
窓潰してアレを買い替えた、それは別におれが勝手にしたことだと思われちまっても困る。彼女は涼しい顔でそう口にするようなヤツだ。それで...自我を保つようなヤツだ。だから何か、ないだろうか。
アイツを揺らがす"何か"。おれが本気だって分かる"何か"。言葉でも態度でもねェ"何か"。
「.........あ、」
あった。これが、ある。
おれが本気だって分かる、長い間想っていた証拠になる、もの。
その時だった。部屋に響いたノック音。顔を出したのは船大工が一人、仕事を始める準備が出来たらしい。
おれはソイツを中へ入れてもう一度、簡単に説明した。"この窓とコイツを潰してくれ"と。たったそれだけの仕事だと。すると船大工は適当に返事して作業に取り掛かった。ガンガン、遠慮なくブッ壊す音は...多分、隣まで響いてることだろう。
おれはテーブルを一つ、荷物付きで外へと持ち出した。そして、隣の部屋を一回だけノックして勝手に入った。
「ベレッタ」
「ど、どうしたの?」
何処か落ち着きの無い彼女が驚いた様子で出迎えた。
そりゃそうだ。おれの部屋からドンドン音はしてるわおれはテーブルを持って来るわで何が起きてるんだ、くらい思わねェと副隊長はやらせらんねェ。
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