「あァ...それは悪かった」
「だからさっさと出掛けたいの。手を放して頂戴」
「あァ...断る」
「.........こっちも断るって言ってるんだけど?」
対等でいたい。"そういうの"じゃない。
此処でそう主張してやりたい...だけど主張したらきっと私は私でなくなって、戦闘員でも副隊長でもないただの女になってしまう。
ただただそういうものに成ってしまう。それだけは、嫌なんだ。
「あんまり、困らせないで欲しいんですけど」
「それはおれの台詞だよい」
「勘弁してよ。私、マルコを困らせたつもりないけど?」
「ずっと、お前はおれを困らせてばかりだよい」
身に覚えが無いとは言い難いけど、少なくとも暴れた代償で出て来る始末書の数は私とマルコではマルコが多い。それにソレらを捌くのは私でマルコは裁きの印を押すだけ。これだけで考えるなら目を通す私の方が困っててマルコを困らせるようなことは、ない。
「分かった分かった。とりあえずお説教、は、」
明日にでも聞くから放して、と続く予定だった言葉を私はグッと飲み込んだ。
足音、話し声が遠くから聞こえる。それはマルコの耳にも聞こえているらしく、お互いにその方向を一瞬向けた。
(.........誰か戻って来た)
(.........そうみたいだねい)
近づく足音、それが別フロアの人なら良かったけど...どうやらこの馬鹿声はサッチだ。完全に此処を通る。
あまり見たくない光景だし、こっちだって何か分からないけどモメてる最中で見られたくない状況。逃げる、隠れるとすれば今すぐ別フロアに移動するか自分の部屋に帰るかだけど...マルコは未だに手首を掴んだまま放すことは、しないらしい。
(.........話は今度にしましょう。部屋に居るわ)
時間がない。近づく足音に少しだけ焦り始めた私と反して全く動じないマルコ。
何を考えてるのか、敵襲じゃないんだから迎え撃つわけじゃないだろうに足は地に根付いてるらしい。根付くのは一向構わないからさっさと手を放してもらえると助かるんだけど...どうやらそこも根付いてるようだ。
(.........ちょっ、マルコ、本当にっ、)
(.........)
(.........マルコ?)
ヒソヒソと会話も出来ない程に足音も声も響く。
もう鉢合わせる、という時だった。予想外な方向に引っ張られた体がするりと傾くと同時に音を立てて閉まった部屋の扉。一瞬にして数歩動いた感覚はあれど視界が一気に変わったことに脳が追い付かなかった。
此処は...マルコの部屋だ、と気付くまでに数秒。その数秒後にはサッチの部屋の扉が閉まったことに気付く。
「.........部屋に入ったみたいだねい」
ようやく手が解放されて逆に違和感を感じた。
目の前には顔色一つ変えることのないマルコ。私は頭をバリバリしながら大きな溜め息一つ落とした。
「.........間一髪ってこういう時にも使うのかしら」
どうでもいい、今の感想だった。
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