countdown 06
.........汚らわしいものに見えた。
分かってる、分かってる、と頭の中でどんなに言い聞かせても払拭出来ないもの。吐き気さえ覚えるもの。
分かってる、私は女で彼らは男だ。だからそうなるし、そうさせる。そうしなければ吐き出せるものも吐き出せない。
だからだ、だけども、頭の中でごちゃごちゃと色んなものが長ったらしい糸になって絡まる。
船が停泊している間、私は船を降りるが町には行かない。
人さえ居なければ何処でもいい。とにかく誰も居ない場所を探して飛び回る。少なくとも、夜が明けるまで。
明けぬ夜など無いと言うけれど、その時間はあまりに長くて退屈で、だからといって誰かが居る場所には居たくない。
「今日は、何処に行くんだベレッタ」
「風の気持ちいいところ」
「お前、昨日は何処に居たんだァ?」
「温かい光のあったところ」
普段の皆は嫌いじゃない。仲間で家族だから。
だけど、それでも船が停泊している間だけはどうしようもなく気持ち悪くて私は逃げ出す。あまりにも、気持ち悪い。
清廉潔白なつもりはないけれど、見たくないものは見たくない。
船に連れ込まれてく女たち、腕を絡めて歩く女たち、スッと消えてく仲間たち...その場凌ぎの一夜、その場限りの一夜。それが出来る程、私は器用でもなければ割り切れたりもしない。感情無くして体は明け渡せない。だから、分かっていても理解出来ない。
昨日の床は正面に海が見える入り江にした。おとといは月が綺麗な丘にした。今日は...
「今日は何処に行くんだい?」
部屋に鍵を掛けて適当に歩こうかと思えば呼び止められて振り返る。
時間差で部屋を出たから誰も居ないと思ったら、マルコが居た。横並びの部屋、てっきりもう出て行ったと思ってた。
「あら、まだ居たの。もう皆、町へ降りてったよ」
「あァ...さっき擦れ違ったよい」
「今日で3日目だからそろそろサルベージでお宝探さないと資金苦しくなるわね」
「だな。どっかの部隊にさせるとするかねい」
「いっそ全部隊ですると面白いかもね」
ふふふ、と笑って私も外へ出ようとしたけど...また呼び止められた。
「で、今日は何処へ行くんだい。一番隊副隊長殿は」
停泊中の船、外出先を残すルールなんて無い。それは隊長だろうが下っ端だろうが同じ。
よく聞かれる質問だけど答える義理は互いに無い。当然、私にも無い。珍しくない質問だけど何度も聞かれるのは珍しい。しかもわざわざ「一番隊副隊長殿」だなんて嫌味も含ませてるとかどうよ。
「そうね...まだ決めてないわ。一番隊隊長殿はどちらに?」
「おれは、部屋に残ろうと思ってる」
「そう。じゃあ何かあったら船をよろしく」
手を振り、再度外へ出ようとしたけど...また呼び止められた。今度は手を掴まれて。
今度は何よ、と頭をバリバリ掻きながら彼を見れば酷く無表情のまま「行き先は決まってないんだろ?」と聞かれたからとりあえず頷いた。実際、外に出ないと何処が綺麗で、何処が気持ち良くて...何処が一番朝に近いかなんて分からないから。
彼の正面に対峙しても腕は握られたまま、用件があるのならば明日にしてくれないかと溜め息混じりに思う。
「.........私さ、出掛けたいんだけど」
「あァ」
「マルコは部屋に残るんでしょ?」
「あァ」
「行き先が違うからお手々繋いでもどうしようもないわよ?」
「.........行き先は決まってないんだろ?」
ああ、行き先は決まってるって言えば良かった、と後悔した。
出来ればこんなところで問答を繰り返したくない。早くしないと必ず誰かが此処へと戻って来る。早く、早く立ち去らないと、
「おれの部屋にすればいい」
「は?」
「おれの部屋にしろよい」
言われた言葉にカッと血も怒りも昇りそうだった、けど...平静を装った。
私は一番隊副隊長だ。この船の最高戦闘員が揃う部隊に配属されてるクルーで、隊長の次に位置されてる戦闘員で...決して"そういうの"ではない。"そういうの"と同じものでも同じでない。少なくとも自分はそう思ってるのに"そういうの"として扱われた、ような気がした。怒りと苛立ち、哀しみと辛さが一気に込み上げた。けど、平静を装うのに必死になった。この船で、対等でいたいから。
「悪いけど他を当たって。晩酌でしょ?私、お酒は飲まない主義だから」
「知ってる」
「夜更かしもしないタイプなの」
「それは嘘だねい」
「始末書さえ回されなきゃすぐに寝るわよ」
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