#05
彼女が意識を取り戻したのは二日後のことだった。
「.........タチの悪い装飾つけやがって」
「女ってのはそういうのが好きなんじゃねェのか?」
「あたしはシンプルなのが好きなんだよ!」
すぐに目を覚ますもんだと思っていたが、あの場でしばらく留まるもその様子はなかった。それで一度町へ戻り、宿をとって医者に診せた。単なる疲労と診断された時には安堵なのかは分からねェが溜め息が出た。
それから目覚めた彼女にそれらしき鏡を手渡したわけだが...彼女は叫んだ。
どうやらその鏡がヤツらには地味すぎたらしく、勝手に悪趣味な装飾が施されていたようだった。何も知らねェおれはこんなもんなんだと思っていたが、彼女にとってはショックだったらしく叫びまくった。そりゃもう苦情が来るくらい。
意識は取り戻したものの彼女の疲労が回復するまでに更に一日。
手を組んだよしみでおれは彼女に付き添った。
洞窟でぐるぐるに縛って放置しといた海賊共を連行し、軍に引き渡したおれらはまた酒場に舞い戻って一杯やってた。
戦利品も懸賞金もそこそこ手に入れ、此処で派手に飲み食いしてもまだ釣りが来る。なかなか楽な仕事だったと思う、が、それはあくまでベレッタが正気を取り戻したからで、もしも...と考えると怖いもんだ。
「有難う。これで国も...国民たちも喜んでくれるだろう」
あの日、彼女の意識は確かに存在していたらしい。酷く強い力で抑えられて身動きが取れなかったという。
だが発した声もおれの声も聞こえていて...呪縛とも言える力から解放された時には立っていられなくなるほど体力を消耗していたらしい。
「言っとくが国の復興までは手は貸さねェぞ」
結果として彼女は望み通りの結末を迎えた。おれも約束は果たせた。そして金も手に入った。文句はない。
「んなことしねえって」
「なんだ。しねェのかよ」
「ああ。同じ事が起きた時、再び難が降り掛かる。悲劇は繰り返したくない。それに...」
グッとビールを一気に飲み干し、ぷはあと息を吐いて彼女は言った。
「あたしだって自由に生きたい。お前を見てそう思った」
「.........そうか」
つーか、初めて見た時から国とか一族とかに縛られるタマじゃねェと思ってた。そう言ったら彼女は笑った。
「で、これからどうするんだ?」
食って飲んでまた食って、祝杯から別れの挨拶に変わりそうな頃に聞いてみた。
おれはまた船に乗り、適当に島を渡る予定にしていた。特に目的のない航海、その先でまた海賊を狩る。それに飽きたらまた島を渡って...と今までと同じ事をするつもりでいた。
「とりあえず世界を見て回ろうと思う。あたしは狭い世界しか知らないからな」
「でもお前、航海術持ってねェだろ?」
「ないね。お前と一緒だ。迷子のロロノアくん」
笑うベレッタにも先が見えているようだ。
「まあ、この御時世だ。冒険家なんざ流行らないから海賊にでもなるかな」
「.........あんなことがあったのにか?」
「あたしの頭はそんなに堅くない」
「.........ほォ」
「国がまだあった頃...イイ海賊たちにも会った。全てが悪いなんて思っちゃない。だから私も彼らみたく自由な海賊になるさ」
それはそれは。だったら仲間捜さねェとな。
てっきりおれを誘って来るんじゃないかと思ったが彼女は何も言わなかった。その代わり、
「あたしが海賊になったらまたお前にも会える。だって"海賊狩り"のゾロだろ?」
とんでもねェことを言い出した。
「.........バーカ。弱ェヤツなんざ狙わねェよ」
「だよなー。なら名を上げるよ。お前が会いに来るように」
「はァ?」
「これから先の便りになるだろ?あたしが生きてるって。物凄い価値が付いた日には...一戦交えようぜ」
これが、仕方なく交わした二度目の約束。
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