#04
確かに彼女が言う通りにも程があって、命令されて先陣を切った連中は準備運動にもならずバタバタを倒れていく。
この程度だったらあと10人いようが20人いようが同じ事、そして別に俺を連れて来なくともベレッタ一人で問題はなかったようにも思える。
「ギ、ギャアアア、」
「やだなあ、大の大人がちーっと斬られたくらいで喚くねえ」
「.........そりゃ痛けりゃ喚くだろうよ」
涼しい顔をして自分が斬った者を見て溜め息を吐く彼女にこっちも溜め息だ。
致命傷にはならないにしてもとりあえず応戦は出来ない状態にしちまった彼女の背中をただおれは守るだけ。下手に名が売れてるだけあってヘタレな海賊たちときたらベレッタばかり狙いやがった。その結果がコレだ。
「てか、さっき30人程度って言ったけど思ったより数いたな。ごめん」
「ザッと数えても倍だったな。つーか今それ謝ることか?」
何も手にしてない丸腰の女だからって甘く見て奇声を発しながら突撃した連中はいとも容易く倒れた。真っ正面から刀振り上げてやって来りゃ二刀流の餌食になるのも当然で、動きの読める雑魚相手に彼女は何も考えることなく刀を振るったことだろう。
「言える時に謝っとかないと死んでからじゃ遅いからね」
「ハッ、死なねェ自信に満ち溢れたヤツの台詞かよ」
「まあ...それもそうだな」
思ってたより手慣れた彼女の振る舞いは確かに国に身を投じた者だと思わせた。
嫌になるくらい訓練したんだろう。嫌になるくらい人も斬り捨てたんだろう。立ち筋に過去を見るというが本当らしい。
「な、何なんだてめェらっ、」
「海賊狩りだ」
「あー...あたしは違うよ。でも、あたしの顔に見覚えはないかい?」
守り損ねた国が、民が、何となく見えた気がした。
痛みに呻く雑魚を無視して彼女はにこにこしながら船長らしき人物に自分の顔を指差した。
突如として海賊狩りが始まって余裕がなかったのか、ソイツは彼女に対して無反応だったが今は違う。マジマジと顔を見た後にハッとして一歩身を引いた。なるほど、きちんと襲われた理由に覚えがあるらしい。
「し、神官......っ」
「.........神官だったのかお前」
「オイオイ、ちょい前に話しただろーが」
「ソレを継承した話は聞いた」
「継承=神官だ。頭悪いな」
そういうおめェは口が悪過ぎんぞ。
一人、また一人、彼女に斬りかかって倒れてく。じりじりと核心へと近付いてく。
「あの後...国がどうなったか風の噂で聞いた?半年掛からず崩壊したよ。あたし以外全滅。
それからずーっと捜してたのよ。もう会いたくて会いたくて...そのためにあの日、徒党を組んだ海賊団を三つは潰したわ。
記憶力は良くないんだけど覚えてた海賊旗を片っ端から潰して回ったのよ。大変だった」
感情の、波。
耳鳴りがするのは彼女が持つ刀が震えてる所為なのか。
「お前、だったのか...」
「そう、知り合いがどんどん消された。それ、全部あたし」
何か、ヤバイ。
ハッと彼女を見れば、さっきまでのベレッタはもう何処にも居ない。彼女が手にした神器は...妖刀と化した、のか。
目に色が無くなったベレッタがくすくす笑いながら男を追い詰めていく。不穏な色を放つ刀がゆらゆらと揺れる。それは...彼女がふらふらとしているからだ。
「"レガリア"は何処?」
「お、襲ったのは悪かった!けどおれは知らない!持ってない!」
「"レガリア"は...何処?」
「おいベレッタ!」
彼女に触れたが何の反応もない。
目は完全にイッてやがる。何も見えてなければ声すら届いていないようにも見えた。これが...ちょっと前まで鼻歌歌ってたヤツか?
色が、ない。今までに"人が変わった"人間は見たことあったが"違う"人間は見たことがない。
「命乞いする人間ほど面白いものはない」
「お前は我らを引き離した。そして傷付けた」
「聞こえるぞ、悲鳴だ...痛い痛いと嘆いている。助けてくれと言っている」
ふと気付く。刀だけじゃない。彼女の耳元で揺れるものも色を変えてる。
神器じゃなかったのかよ、刀も宝玉も...国を守る神に祈るための道具じゃなかったのかよ。
「死を以って、償ってくれる、よな」
「ヒッ、」
「死を以って、償ってくれ」
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