洞窟の最奥に近付くにつれ、人の気配を感じ始めた。
海から川、川から湖へと身を隠す臆病な海賊共はもう目と鼻の先のようだ。時折、笑い声も聞こえるがその数は分からねェ。まァ、数居たところで実力が無ければ雑魚は雑魚。気にするこたァねェか。
さすがのベレッタも鼻歌は歌わないらしい。船に乗り込まれちゃ厄介だと分かってるから。
お互いに目を合わせて頷き、笑う。おれは負ける気がしねェから笑ったが、彼女が何故笑ったのかは分からねェ。こっから先は何の保障もねェ。数によっちゃ安心感も見出せねェ。それでも彼女は笑った。
「さーて、出陣だぞロロノアくん」
「随分と余裕じゃねェか」
「まーね。前と違って犠牲も守るも我が身一つ。余裕も出る」
「なるほど」
「それに、」
ポンッとおれの腰を叩いた。
「アンタが居る。負けは有り得ないね」
堂々と真っ直ぐに光射す洞窟の奥へと彼女は足を進めた。
最奥が妙に明るいと思えば、そこは吹き抜けた場所で上には太陽が見えていた。
何を言うわけでもなく先へ進んだおれらに当然、海賊共が気付かないわけがない。宴会をしてたらしいが笑い声はピタリと止み、誰もがおれらを見据えていた。むさ苦しい男ばかりだ。
「.........何だァ、てめェら」
「正義の味方。あ、でも海軍じゃないよ」
「はァ?」
緊張感のないベレッタの声。前に居るから見えやしねェがおそらく笑ってるんだろう。
「.........ごっこ遊びに来たお嬢ちゃんか」
「怪我しねェうちに帰んな。ガキの居る場じゃねェぞ」
無駄な喧嘩はしない、か。臆病者が隠れて此処に居るくれェだからそんなもんか?
いや、ベレッタじゃ買っても無意味な喧嘩とでも思っているのか。何にせよ相手にはされてない。
「じゃあオッサンたちも怪我しないうちに降参をオススメするよ」
「あァ?何言ってんだこのガキ」
「正義の味方がオッサンたちをぶちのめしに来たよ」
.........言い方が阿呆すぎる。
もっとこう、ねェのかよ。親の仇だとか積年の恨みだとかそういうのは。よく分かんねェ馬鹿が乗り込んで来てイカれて何かほざいてるとしか思われてねェ。つーか、おれがあの中に居ても「放っておけ」で終わらせちまうぞ。
「あのなァ...」
「遊んでよ。フダなし三下のオッサンたち」
ベレッタの言葉に数人の男が立ち上がった。
「フダツキのおれたちを二人でどうしようってんだァ、お嬢ちゃん」
剣を携えてゆっくり進んで来る男たちの言葉を聞いてフッと彼女は笑った。
「.........賞金首だってよ」
「タダ働きじゃなくなったな。分け前は...」
「あたしは別に金に興味ねえから全額お前のもんだ、ロロノアくん」
彼女がおれの名を出すや否や、少しだけざわめきが走った。
聞き覚えがある、賞金稼ぎ、海賊狩り...と拾った単語、どうやらおれを知っているらしい。そっちでも有名になって来たとはいいことだ。このまま広がってくれりゃいつかは望む道が見えて来る。
「でも雑魚がこの数だ。どっちが多く倒すか勝負しないか?」
「.........それも悪かねェな」
おれが出した刀は一本、これだけで充分。
彼女はまだ刀を出すことなく腰に手をあてたまま。まるで狙って下さいと言わんばかりの様子に馬鹿な海賊共は罠とも知らずに引っ掛かっていた。
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