#03
停泊中の海賊が酒場に入り浸ったり、我が物顔で町を闊歩するってのはフツウだ。
だがその町から離れ、人に見つかるまいと何とも湿った洞窟なんぞに身を顰めるとは何か後ろめたいことでもあるのか。わざわざ川を登って湖へ停泊、だァ?疑問しかねェ。直行ルートは海、迂回ルートは洞窟。どんな海賊だ、ったく心底めんどくせェ。下見万全のベレッタが居るからいいものの、おれに一人で行って来いなんざ言われた日にゃ大変なことになってたぞ。
「.........お前、死ぬほど方向音痴なんだな」
「.........うっせェ」
「ビックリだ。こんなしょーもないトコでいきなし迷うとかヘタレかと思ったぞ」
薄暗い洞窟の中、用意してた松明一本でおれを先導するベレッタ。ちょっとその前に雑魚と一悶着あってバラけちまった時、指示された場所へ行ったつもりが町へ戻っちまうっつーアクシデントが起きた。彼女はそのことをずっとネチネチと言い続けていた。
「頼むから此処では迷ってくれるなよ。助けられねえぞ」
「.........黙って案内しろ」
「オーケー」
クスッと笑った彼女には何処か余裕があった。
それが一人でなく二人で乗り込むことからの余裕なのかどうかは分からない。が、鼻歌は止めとけ。
「で、相手の海賊ってのは?」
「ん?」
「能力者が居るとか懸賞金がいくらだとか色々あんだろ?」
そういう情報はねェのか?という意味だったがベレッタはピタリと足を止めて考え込んじまった。
オイオイ、何にも知らねェとか狩った後に違いましたーとかねェだろうな。約束しちまったとはいえ間違いだった場合、本物見つかるまで...とか困るぞ。ベレッタのこの行動にそんな余計な心配までしちまう。
「オイ、」
「あー......フツーの海賊団、名は忘れた。居て30人程度。雑魚だ」
無名に近い小規模海賊団。彼女が言うには雑魚。雑魚......なのに、
「その雑魚如きに国がやられちまったのか?」
「.........そうだ」
返す言葉もない、と影を落とすベレッタについ「すまん」と言ったが、彼女は首を振った。
まァ...色んな土地があって色んな国があって色んな人がいて、馬鹿な海賊共の中にも少し頭のキレる海賊が国を崩壊させることくらいなくもないのかもしれねェ。その例が彼女の住む国だった、なんて思っちゃ悪いがそう考えちまう。
「王がイイ人でさ"海賊といえど人は人、心の無いヤツはいない"って言ってな。どんな海賊でも受け入れた。勿論、規制はしてたし護衛も完璧だったんだが、ソイツはその王の人の良さを利用した」
お人好しの国王。
「口が達者だったんだ。自分たちは冒険家に近い海賊だ、とか何とか言ってその話を深く聞くうちに王はソイツらに酷く心を許してしまった。あたしたちもまた...制することが出来なかったんだ」
海賊に冒険家に近いとか何かに近いとかあるかよ。
「分からなくもないんだ。海賊の全てが悪いヤツじゃないって。あたしもそれは知ってる。けどな...」
「それこそ一部の話で所詮海賊は海賊だ」
「そういうこと。その海賊たちは城の中も自由に行き来し、色んな情報も内情も知り尽くした後に計画を実行した」
「それで国は落ちた、と」
彼女は小さく頷いた。
国王を取り入った海賊たちは数か月の間、城を自由に行き来することでこの国の全てを把握していた。国民の大まかな数、軍事力の規模、金品、そして"レガリア"の存在。だが、たかが30人くらいの海賊団に本来、国が奪れるはずがない。そこでソイツらは考えた。
"自分たちだけでなく滞在している海賊たち全員で国を落とそう"と。
口の達者なソイツらは全ての情報を入国していた海賊たちに流した。金品のある場所、食糧庫、手書きされた城の地図...とにかく全てを流し、そこにいた全ての海賊たちに告げた。"奪った者勝ちのゲームをしよう"とな。
滞在していた多くの海賊たちが賛同した。出国したフリをして攻めて来た海賊たちも居れば、酒場からその時を待って暴れ出したヤツらも居た。お陰で戦地はバラバラとなり、我々は拡散して戦うことになった。元より軍事力はそう高くなかったのに分散するカタチは痛かった。結果として惨敗、国は奪られた。
「けどあたしは生き延びた。そして国の最期を看取った、とさ」
「.........」
「異様な光景さ。人々はバタバタと倒れてくのにあたしには何も起こらない」
それが"レガリア"の加護だというならば欲しくなかった、と笑った。
がさつが服着て歩いてるようにも見えたが痛そうに笑った彼女は想像以上のものを見て来たんだろうと思った。だから、それ以上深く追求すんのをやめた。約束はしたんだ、相手が何であれブチのめして取り戻すだけ。
未だ微妙な表情をしてるベレッタの頭を撫で、先を急ぐよう促した。
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