うう、こ、これはマズい。笑顔が、怖い。
「なっ、で、出来なかったらおつるさんに相談しますから!」
「.........それはマズいなァ」
ええ、私も何か色々マズいです。胸の奥がむず痒くってドキドキする。
こんなにあっさりエロエロで甘々なカンジになるもんでしょうか。正直私は未だに整理がつかないところがある。
「じゃ、とりあえず中身確認してくよ」
「お願いします。私は...そうですね、此処から見てます」
玄関先に放置されたままのベッドの上、痛む腰を押して上から確認していく。
たった今、開けられた箱の中はどうやらタオル類らしい。ビシッと詰められているところを見るとおつるさんが詰めたものだろうか。
「そのタオルは...きちんと畳まれてますしそのまま浴室の棚に入れちゃって下さい」
「りょーかい」
大きな箱を軽々持ってクザンさんは鼻歌まじりに浴室方向へ。
残った箱は...うん、まだまだ沢山ある。何が準備されてるのかも分からない生活必需品たち。少しでも手伝えれば...と思いながら動こうとするけどズッキリ何処かしらが痛む。筋肉痛ってやつになるのかな...辛い。
「クザンさーん!ちゃんとテキパキしてますかー!」
「してるしてるー」
.........どうしよう、胡散臭い。
ズッキリ痛む体を押して、どうにかベッドから降りてみる。箱にさえ辿り着ければ...運べなくとも中身の確認だけは出来る。
まるで腰の曲がったおばあちゃんみたいになってるけど、今回ばかりはどうしようもない。よたよた箱に近付いて、箱を支えにしつつ中身を確認していく。
「うー...」
箱1から3、調理器具。箱4、食材(乾物と缶詰)。箱5、消耗品(ティッシュとトイレットペーパー)。箱6、食材(お菓子と珈琲類)。箱7......
「何動いちゃってんの」
「え?」
痛みを押して確認作業をしていたら、空箱を抱えてクザンさんが戻って来た。どうやら無事に仕舞えたらしい。
「休んでなきゃダメでしょ」
「いや、でも...」
「いいから、おれに任せて」
抱えられてまた所定の位置へと戻されて、珍しくクザンさんがテキパキと片付け作業をしてくれる。
箱1から3の中身をキッチンへ...って、箱のままその場に放置。箱4、6は...何故か冷蔵庫に格納された。箱5のトイレットペーパーはおそらくトイレに積み上げるつもりなんだと思う。鼻歌交じりに持ち出してすぐに帰って来た。ティッシュは...何故か点々と部屋に配置していく。
「さァて、暇なヤツでも捕まえてベッド運ばせるかァ」
と、今度は私も荷物も差し置いて外へと出て行ってしまった。
家にポツーンと残されたのはほんの数分といったところだろうか。すぐにクザンさんは戻って来た。制服の団体を引き連れて...
「さァて、ちゃっちゃと運んでねー」
「ハイ!」
一糸乱れぬ敬礼からの私語ゼロでのベッドの移送が始まった。
本当に暇そうにしていたのかも分からない若い海兵さんたち。何も詮索しないまま私がベッドに乗ってるのも無視してテキパキと運んで...「完了しました!」と遠くで声を挙げたかと思えば去っていったようだ。当然、私はベッドと共に部屋に置き去り状態、きちんとお礼も言ってない。
「いやァ、大荷物が片付いたねェ」
「.........職権乱用ですよクザンさん」
残されたのは私とクザンさん。未開封の箱はあとちょっとになった、と思う。
ベッドごと部屋に移送されたんじゃ今、向こうの箱がどうなってるかを知る由はない。ただ、随分とご機嫌なクザンさんが目の前に居る。何かとっても不穏な感じに笑ってて...そのままゆっくりと腰を屈めて「ベレッタ」と耳元で甘く囁いてきた。
「.........今日も、しちゃダメ?」
どうしよう。私、クザンさんに凄く弱くなってる。
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