ONE PIECE [LONG] | ナノ
その不器用さが愛しい

久しぶりに...落ち着く環境に自分が居るような気がした。
温かいし気持ちいいし落ち着くし癒されるし...目の前の自分も何処か嬉しそうでとても幸せそうにしているように見えた。
自分が自分に微笑み掛けて、自分が自分に手を差し伸べている。その手を取ったら......ゆっくりと握り返してくれた。

.........と、いう夢だった。それと同時に息を飲んだ。
クザンさんの無防備な寝顔が物凄く近くにあったから。それに...自分の手を握り返したのもクザンさんだったから。

「.........わたし、」

思い出した。私、あの人と対峙して...怖くて、怖くて、だけどクザンさんが来てくれて...

「助けて、もらったんだった」

私は、クザンさんがどれほど大物で強い人かなんて知らない。あの人も、どれほど大物で怖い人かもよく知らない。
何も知らない、知らないことだらけの世界だけど、ただ言えるのは...私はクザンさんを信じているということ。誰よりも、安心できるということ。例え彼が命じられて仕方なく監視役を務めていただけに過ぎなくても、敏感に私のことを察知してくれて私のことを助けてくれる。それだけでどんなに私が救われるか。

.........私、此処が好きになってるんだ。
泣き叫びたくなるくらい帰りたくて今でも恋しいけど、今は此処から離れたくなくなってる。
酷い矛盾、酷い感情。それも全ては......クザンさんの、所為。

「いつも、有難う...」
「.........どーいたしまして、っと」
「え?」

手はお互いに握ったまま。クザンさんは特に気にした様子もなく私の目を見ていた。
ちょっと悶々とした何かを考えていた所為でギャッと口にしそうになるのを堪えて、私もクザンさんを起こしてしまったとおろおろっとしてしまう。

「ご、ごめんなさい!起こしてしまって」
「いいや。おれ、眠り浅いから勝手に起きるのよ」
「そ、そうなんですか?」
「あァ。それにさっき手をぎゅって握ったでしょ?だからあー起きるなって予想もついてた」
「す、すみません!私、手、」
「あーいいのいいの」

動揺する私とは大違いでクザンさんは随分と落ち着いて笑う。
何だろう。何処か雰囲気が変わったような変わってないような...少なくとも少し前までの彼とは何かが違う感覚がする。

「気分はどう?」
「あ、大丈夫です。心配掛けてすみません...」
「まァ心配は勝手にするもんだから仕方ない。ところでさァ」
「はい」
「手、もう離していいかい?」

ぎゃあ!そうだ。そうだった。謝る前に離せって話だ!
ついつい大きくて温かい手だから安堵して握ったままにしてたけど...私の部屋にあるぬいぐるみとは違うんだった。
もう一度謝って手を解放すれば外気が私たちの間をすり抜けて少し、ほんの少しだけ切ない気持ちがした。やっぱり自分以外の体温って...そういう感情を消してくれるものなんだと実感する。何か、恋しい。

「ごめんなさい!本当に私ったら甘えてばっかで、」
「大丈夫大丈夫。これからどんどんおれに甘えちゃっていいんだよ」
「.........クザンさん?」

床に膝をついたクザンさんが体を起こそうとする私を止めた。そして何故か頭を撫でてる。
あれ?本当に何か雰囲気というか空気というか...何かが違う。これって夢?いや、でも起きてる感覚は間違いなくする。

「あ、あの...」
「ベレッタは寝起きはイイ方かい?」
「え?寝起き、ですか?」

何ですかその質問。

「特に悪くはない、と思います」
「今、目はバッチリ覚めてるかい?」

ええ?今度はどんな質問ですか?

「はい。多分、熟睡したんだと思います。覚醒してますよ」

と、いうより逆に私が質問したいです。急にどうされましたか?
寝起きは悪くないけど頭の回転は未だ追い付いていないので...と思いながらクザンさんをジッと見ていたら彼は頭を撫でるのを止めた。

「ベレッタ」
「はい」
「好きだ」

何を唐突に。でも、心臓は一瞬大きく跳ねた。けど、それって...何?

「.........私もクザンさんが好きですよ」
「あー違う違う。おれが言ってんのは色んな下心を踏まえた上での好意だ」
「.........下心?」
「そう。おれはオッサンだけどまだまだ枯れてねェから」
「.........枯れる?」

え、何ソレ。何か、ちょっと、意味が分からないけど何かおかしくない、かな?
あれ?私まだ寝てるのかな?いや、起きてて脳の回転がまだまだ鈍いのかな?普通の顔して普通に何かおかしなこと言われてるような気がする。クザンさんが、私を好き、だとか。

「おれね、ずっと隠してたんだ。だってベレッタは...いつかおれの前から消えるかもしれない存在じゃない」
「.........はい」
「だから、自分がベレッタを想う気持ちに、セーブ掛けてた」


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