捻じ曲げた欲望、ひとつ
いつもそう。気付いたらそうだ。
いつだっておれはこの目をした人間に興味がある。
沢山の目をした人間を見て来たが、恐怖や絶望の目よりも面白いのがこの目だ。
――貴方の神経を疑う。
同じ言葉を吐かれたことが過去に一度だけある。
とある村に住む医者だった女。博識で腕が良く、人当たりも良く評判の高い女だった。
さほど綺麗にはしちゃ無かったが不美人ではなく気にしていたのは他人の病状だけという変わり者。
おれの国に必要だと思った。だから連れて行こうとした。持てる全ての恐怖を与えて――...
結果、村はたった一日で消した。御咎めは当然ない。
容赦することなく村は無残にも消えた。たった一人の女の所為で...と言っても過言ではなかった。
まずは周囲から消した。女は叫んだ。人は女を罵った。女は泣き叫んだがおれの意に沿わなかった。
女は自らを消そうとしたから全力で阻止し、最終的には女の旦那と子供まで消した。
女は、叫ぶのを止めた。誰一人居なくなった地で呆然と立ち尽くし、もはや泣くこともなくただ眺めていた。
おれたちは笑っていた。
無残にも消えていった者たちも勇敢にも戦った者たちも選択を誤った一人の女の生き様さえも、笑った。
滑稽で、ただ滑稽だった。弱いから消えるしかない。強ければ、おれたちを殺せたかもしれない。
全ては己が弱かったからこそ起きた悲劇。何も、女だけが悪いわけじゃない。
女は......望み通り、最後に消えた。
だが、おれの中にはこの女がこびりついて取れなくなった。
「改めてまで、生きたくないっ」
この女も...同じ目をしている。おれの中に残る女と同じ目。
この女はあの女と違って、あの日の出来事のヒントを語った。例え、おれに息の根を止められようとしても。
何故あの女が首を縦に振らなかったのか。
何故おれの意に沿わなかったか。
何故自らの命と引き換えに他人を守ろうとしたのか。
何故隠し持っていたメスでおれたちを傷付けなかったのか。
何故、最終的に笑って死を選んだのか...
――さようなら。可哀想な人たち......
たった一言、おれたちに尽くすと言えば村は消えなかったはずだった。
いや、そうしたとておれたちは村は潰すつもりではいた。それが分かっていたのか。今はもう分からない。
「貴方が嫌いだから。
私は何処で何を目の当たりにしようとも私を変えるつもりはない。
貴方と同じ...自分を曲げない」
イイ女だったんだ。
あの女も、この女も...屈することのない強い目をしていて、だから欲しかっただけ。
それでも女たちはおれを拒む。全身全霊を以って......それがまたおれには面白かっただけかもしれない。
それと同時に込み上げるのは感じたこともない焦燥感。
死んでいても生きていても感じるものが同じならば、少しだけ生かしておこうと思っただけだ。
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