ふと気付けば右腕に違和感を感じた。
どうやら長い瞬きをしていたらしく、目を開けた時に現状況がすぐに把握出来なかった。
触れていた手、おれの右腕をまるでぬいぐるみを抱くかのように掴んだまま眠るベレッタを見た。
顔が...近い。当然と言えば当然、おれの手を巻き込むように寝ているんだからおれに近付いているわけで......で、右腕の違和感は...どうやら胸の感触らしい。惜しいかな、おれの二の腕付近にあるらしい。掌は...彼女が握ったままだ。
「.........こんな固い抱き枕、おれだったら勘弁だね」
手の甲に感じるのは生温かい彼女の吐息。定期的に、伝わる。
逆の立場だったなら悪くなかったろうに。彼女なら間違いなく抱き心地が良いだろう。いっそ、抱いて寝てみようか。
「.........いや、セクハラになるなァ」
抱き枕になった右腕が羨ましい、とか馬鹿馬鹿しい。だが、右腕を抱き枕にしてる彼女は愛おしい。
随分辛い体勢には違いないが腕を抜き取るのも彼女を起こしてしまうのも忍びない。だけど、こんなんじゃ浅い眠りにもつけやしない。
「振り回されてるなァ...」
少なくとも誰かに振り回されたり掻き乱されたりなんかしたことなかった。少なくとも彼女に出逢うまでは。
仕事だってある一時期からはのらりくらり、オンナ関係だってのらりくらり、身を固めろと言われた時でさえのらりくらりと交わして来た。オンナ関係に至ってはそれなりの代償を払った時だってある。それでも自分の道を進んで来た。それが今はこの有様だ。だが悪くない。
「これで身を滅ぼしてもいいくらいだ」
そう思えるようになったのは...きっと彼女だからだ。
ベッド端、眠る彼女の顔の近くに自分の顔を寄せた。ちょっとでも動けば彼女に触れれる位置。もう眠気はない。だけど目を閉じる。
翌日、どんな朝を迎えるか分からない。いや、いつも通りかもしれない。
だけど思う。もう逃げたりはしない。目が覚めたら...彼女が目を覚ましたら前に進むと決めた。決意は固まった。
それがどんな結果になっても、それでも守ると決めたものは自分勝手でも守る。絶対に。
自分を変えた彼女に、身を滅ぼすのも悪くないと思ったから。
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