桜吹雪と紛れてしまおうか
換金について来いと言ったのはマルコだった。
珍しい。いつもは後の経理だけを押し付けてその現場には立ち合わせてくれないのに。
「あれ?ついてくんの?珍しい」
「呼ばれたからね。私もビックリしてるとこ」
本日の荷物持ちはエースらしい。だけど、その量はさほど多くはなく何のために私を呼んだのかサッパリ分からない。それをエースに呟いたけどエースもまた不思議な表情しかしない。それでも何処か訳知りな顔で私を見て溜め息。
「しょーがねェなァ」
「何が?」
と聞けば「マルコ」とだけエースは返事をした。
「マルコの何が?」
「ぜーんぶ」
そうかそうか、意味分からない。
何がしょーがないのかはさておき、戦利品の換金は船には欠かせない資金を確保するためのもので立派な仕事だ。真面目にやらなきゃいけない。そこをエースに注意したら何故か苦笑されたわけだけど。
「思ったより鈍いのな」
「何が?」
と聞けば「アンタ」とだけエースは返事をした。
「別に鈍くないわよ私は」
「いいや鈍いね」
「だったら首でも賭けて勝負する?」
「だァから、そんなんじゃなくて鈍いって言ってんの」
そうかそうか、本当に意味分からない。
自分を強いとは思ってないし、エースに勝てる自信もどちらかと言えば無いに等しいけど、少なくとも船に乗ってからは長いし足手まといにもなった覚えも最近ではない...と思いたい。
「なァマルコ!」
「.........それよりおれの何処がしょーがねェのか聞かせて欲しいねい」
「ゲッ、聞いて、」
「首賭けて勝負してもいいんだよい」
と、いつから傍にいたのか分からないマルコが随分とまあキツい表情でエースを見てる。
うーん、この二人の勝負だったら面白そうだし見る価値はありそうだけど...どうやらエースはやる気はないらしい。どんどん後退っていって、
「おっ、おれ、用件あったんだった!またな!!」
逃げた。君の用件は荷物持ちという用件があったはずなのに。
「あーあ、逃げちゃった」
「別にあんなのいなくても問題ねェよい」
「問題あるわよ。誰が荷物持ちするのよ」
「お前にさせねェから心配しなくていいよい」
「だからってマルコに持たせるわけには...」
それなりの縦社会というか何というか、でも私一人で持つにもちょっと自信はない。こういうのって無駄にキラキラしてるだけじゃなくて重量あるのよね、本物なだけに。
一番隊に手の空いた人いなかったかな。いないなら別のところからでも...
「邪魔がいなきゃデート。全く問題ないねい」
「え?」
「行くぞ。時間が勿体ねェ」
「え?え?」
「コレ済んだら適当に街を歩くよい。この街は今が桜が見ごろなんだと」
......だから、呼んだのね。
今まで一度だって二人で街を歩いたことなんかなかった。いつだって夜にしか二人にはならなかった。月明かりの下、それが私たちの時間。
「......しょーがない、なあ」
「鈍いお前に言われたくないねい」
「別に私は鈍くないわよ」
もうそんなに若いわけじゃないから大声上げてはしゃいだりとかはしないけど、
「いいや、鈍いよい」
今日は太陽の下、一緒に歩こう。
title by シュガーロマンス
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