ONE PIECE [SMS] | ナノ

秘密裏の任務 (2/5)



わざわざ素姓を隠し、私服姿でセント・ポプラから海列車に乗り換えて此処へ来たのは事の全てが秘密裏に行われているからだった。
この街には世界政府直下暗躍諜報機関CP9の諜報部員が4人いて活動を行っている。彼らの仕事はこの街のとある船大工が代々受け継いで来たとされる"古代兵器プルトンの設計図"を持ち帰ることだけど...活動開始から5年目に突入した、でも未だ持ち帰られることはない。そこでクザンからの仕事はそのCP9の動向を探ることだった。進捗具合だとか現状を調べて怠慢がないかを探ること。勿論、この件に関しては彼らには何の話もいってないから秘密裏に、というのだ。なんて面倒な。

「もし、彼らに見つかったら何と説明すれば良いですか?」
「ライラは海兵に見えなければ少将にも見えない。大丈夫だ」
「大丈夫だ、に安心感が全くありませんし、私の質問に対する回答にすらなってません」
「きっぱりだな。見つからねェようにすりゃいい」
「ですから、万が一見つかった場合の対応策について講じてるんです」
「あァ......そこは適当にしてくれ」

と、本当に適当なクザンから手渡されたのは、事の詳細の記されたメモと白電伝虫付きの子電伝虫。船と海列車の中で死ぬほどメモは眺めたから隠滅のために破棄して今は電伝虫だけという何とも身軽な荷物。そういえば...私の滞在期間は書いてなかった気がするけど一週間くらいで考えていいのかしら。面倒だけど後でクザンに聞こう。

ウォーターセブンの街並みは綺麗なもので水上をよく分からない動物が人を乗せて走ってく。アレ、何だろう凄く乗りたい。
とりあえず乗りたい衝動はあるものの今はとりあえず散策するしかない。目指すはこの街で一番大きな建物であるガレーラカンパニーでそこに少なくとも3人がいる。現状把握のために建物に入りたいところだけど...入れてもらえるのかな。と、テコテコ歩きながら考えていたら何故かガレーラ方向に人だかりが出来始めてるのに気付いた。しかも歓声付きで。

「一番ドッグでまた騒ぎだってよー」
「相手は海賊だ。しかも2組らしいぜ」
「派手な乱闘になるなァ」

ガレーラに近付けば近付くほど歓声が高まって、事の詳細がどんどんハッキリしてく。
ああ、確かガレーラの船大工さんたちはそういうのに小慣れてて決して弱い団体じゃないんだっけか。もう焼き切ったデータの中に過去のガレーラカンパニーにおける海賊との小競り合い及び鎮圧情報もあったような。そんなに強いんだったら軍に移動してもらいたい気もするんだけど、そうなったらそうなったで此処の治安が維持出来なくなるか。

テコテコ歩いて一応見える位置くらいに行こうとするけど、どんどんどんどん人だかりで埋め尽くされる。
うーん...と考えてふと屋根から傍観する人もいることに気付いてしれっと人の居ないところから屋根に上がらせてもらって...これまたしれっと「私も此処でいいですか?」とか言いながら小規模な人混みの中に混じってみた。少し驚かれたけど何とか大丈夫みたい。

「海賊ってのも馬鹿だよなァ。一番ドッグの奴らにゃ勝てっこねェのに」
「あの...そんなに強いんですか?」
「あァ、あんた観光かい?だったらその目で見りゃいいさ」

ほらあっちと指差す方向には大きな倉庫、開かれた扉の中では人が複数うごめいてるのが分かる。屋根上の皆さんはオペラグラス持参で見ているけど私は肉眼でどんなやり取りが行われているか見えない......と、手を目の周囲にかざしてそういうフリだけしとく。

(......"虎瞳")

大きな倉庫の扉には「1」の文字、内部には...数え切れない程の人を確認。
海賊は...確かに2組で互いの利のために一時的に手を組むカタチになっているのだろうと思う。団結力に欠けていてうまく指揮が取れていないことが雑魚の動きで分かる。一方では団結して士気も高まる船大工たちがゆっくりと自然に周囲を固めてる。今は...話をしているらしく数人だけ一歩前に出てる状態だ。

"支払いに応じないならばそれなりの対応に出るが構わないか?"
"誰に向かって言ってんだァ?おれらは海賊だぜ"
"ってよ、構わねェか?アイスバーグさん"

話をしていたのは煙草青年で共に横に居るのは...見つけた、CP9カク。長い鼻が特徴で私に近い年齢にも関わらず物腰柔らかで若年寄り。今もまだ...力は抑えてるらしい。あの程度なら彼一人で十分だろうに。
それから少し後方になるけど煙草青年が目を向けた方向にはガレーラカンパニー社長でこの街の市長、アイスバーグ。その横には...随分と美人秘書が居るけどあれは、

"ンマー。交渉決裂だな。好きにしろ。カリファ、後の処理につ―..."
"手配済みです。アイスバーグさん!"
"ンマーさすがだな!カリファ"
"恐れ入ります!"

CP9の紅一点、気転の利く賢い美人かつ迅速な仕事をする評判の高いカリファ。確かに、美人だわ。

"ちょっと下がっておいてもらえんかのうアイスバーグさん"
"ああ、おれらは一旦引こう。後は任せた"
"おう。ハレンチもさっさとどっか行け。邪魔だ"
"......パウリー、セクハラよ"

随分と...暢気な会話をしていらっしゃる。海賊たちがイライラしてるのが見えないのかしら。
アイスバーグが背を向けた瞬間、当然の如く銃口がそちらに向けられたわけだけど同時に船大工たちも動かないわけがない。戦闘の始まり、動いた人数は海賊、船大工共に同じくらいだろうか。だけど手に持った武器は確実に海賊の方が有利で――...

(......ん?)

一瞬、強い殺気がこちらに向けられた感覚が、した。
周囲を見渡すけど誰もが一番ドッグの戦闘に見入ってる。殺気を感じたのはあくまで一瞬のこと、"虎瞳"発動中の私の半径2キロ圏内、180度強の視野の中で今はその殺気に該当する人間はいない。少なくとも今は何もしてない私に殺気を向けること自体ないはずなのに...でも、気の所為にしては強すぎるものを感じた。

「行けパウリー!そこだ!」
「お、カクがノコギリ持ち出したぞ。あいつ死ぬなァ」
「ルッチはハンマーじゃなく玄翁持ったぞ。振り回す気かァ?」

――CP9、ロブ・ルッチ。
クザンが強さ・気質・忠誠心を認めた、六式の最終奥義を唯一習得したと聞く男。そして、私と同じ実を食べた人。

視線を戻せば乱闘が繰り広げられていた。とはいえ、もうすぐ終わる。
殺気に気を取られてあまり見ていなかったけど同じくらいの人数で倒れた船大工たちはなく、代わりに倒れた海賊が早くも非戦闘の船大工によって確保されてアイスバーグが隅に置くよう指示してる。迅速、手際良し。クザンも見習えばいいのに。
とりあえず、見るものは見た。表向きの現状として潜入先での人望は厚く、勤務態度も真面目だという報告をしよう。

素敵な場所を提供してくれた皆さんにお礼を言って私は屋根を降りた。
そういえば...クザンのことだから泊まる場所とかの確保って出来てるわけがない、よね。


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