ONE PIECE [SMS] | ナノ

臨時職員の任期 (1/2)



『そろそろ任期を終えるねェ。調子はどうだい?』
「調子も何も...もうすっかり気付かれてます」

と、クザンに告げるも彼は特に気にした様子もなく笑った。
アイスバーグさんが引き渡した海賊たちはすでに尋問を受け、調書を作成されてインペルダウンへと輸送されたとのこと。その調書には「あの事務の女さえいなければ」と記されていたらしい。そう、私のことだとクザンはすぐに気付いた。

『自業自得でしょ。何しちゃったわけ?』
「.........人質になったんですよ。一瞬でしたけど」
『ありゃま。運悪いねェ......その海賊』
「私が、です」

正直、素性はもうバレ掛かっていたと思う。
少なくともロブ・ルッチには...最初から何かを察知されていたのは確かだった。あとは彼が口から私のことが漏れていたら間違いなく全員で襲撃されていたと思う。それをしなかったのは彼の一つの楽しみで...でも、これで彼にとっても私にとっても状況が変わってしまった。
カクもカリファも表面上はいつも通りだけど目の色が変わった。
敵意・殺意の部類ではないことは分かるけどそれでも今まで通り、なんて空気は決してない。お互いがお互いを警戒し監視している状況。

『もうその状況だとキミの素性はバレちゃうだろうねェ』
「ええ。向こうも諜報員...時間の問題です」
『やっぱ秘密裏になんて無理難題だって話さ』
「......それは依頼主に言って下さい」

ガレーラへ赴いた時から遅かれ早かれこうなることは分かっていた。
少なくともこの町へ降り立った時はそれなりに職務を果たすつもりではいたけれど...すぐに気付かれてしまったのが運の尽き。久しぶりにやり辛い仕事になったな、なんてここまで時間が経てば思える。

『けど、何だかんだで楽しんでるんじゃない?』
「.........はい?」
『任務報告でぎゃんぎゃん喚くのって初めてでしょ?』

.........そうかな。でも、確かに喚いたのは初めてだ。

『もうあとちょっとなんだし楽しんじゃいなさいな』
「.........そうですね。帰ったらどうせクザンの尻拭いだし」

私はそれだけ言うとクザンが向こうで何か喚く前に初めて自分から通信を断った。



翌日からの生活は随分と過ごしやすいものになっていた。
相変わらず余所余所しい空気はあるものの、その中に殺気や警戒心がなくなった。それらを発していた彼らはおそらく事実を嗅ぎつけたものと思う。
私が、海軍将校であること。彼らを調査していること。短期潜入で此処に居ること...
過ごしやすい環境には間違いないけど、格段に調査しづらい環境となってしまって何とも言えない。だけどこれも...私の失態だ。

「ライラ」
「は、はい!」

今日も倉庫で在庫整理をしつつ、棚の中身を確認中。
そこに材料を取りに来た職人さんが数人。不意に声を掛けられてちょっと声が裏返ってしまった。

「悪ィが、32番樹脂50、仕入れを頼む」
「了解しました」
「90の角材30も頼む」
「はい!了解しました」

ノートの端に日程と発注物をメモ。ようやく色んな事に慣れ始めていることにふと気付いて...少し切なくなった。
潜入捜査なんて数えられないほどこなして来た。その度にきちんと割り切って姿を消す、容易かつ単純な仕事としてこなして来たつもりだった。それなのに今回だけは割り切れないし寂しくなる。多分、普通に生きていたら...この仕事が好きになってた。この仕事が向いていたんだと思う。

「納期は所定の掲示板に張っておきますね!」

泣きそうな気分だ。終わりが来るのが、悲しいなんて。
資材発注のために事務所に戻ろうと振り返ると、そこには冷たい目をしたルッチ職長と複雑な表情を浮かべたカク職長が居た。
普通に、ごく普通に「お疲れ様です」と笑って横を過ぎる。お互いに戦意は無い。

「.........12番の釘も頼みたいんじゃが」
「え?」
「12番の釘300じゃ」
「あ、了解、しました」

また、ノートの端に発注物をメモ。これが私たちの表の仕事なんだ、と少し笑ってしまった。

「納期は所定の掲示板に張っておきます」
「.........あァ頼む」

何の様子見をしに来たのか、本当にその用件があったのか、そんなことはどうでもいい。
今度こそ事務所へ行って資材を発注しなきゃいけない。そんな気持ちで頭を下げて私は事務所へと急いだ。


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