特別だとしても (2/5)
シャボンディ諸島は晴天、マングローブとマングローブの間をふわふわとシャボンが舞う。
あのシャボン玉で昼寝をするは最高だとクザンに聞いたことがあるけど仕事中でこの服装では試すことも出来ない。
「ライラ准将、これからどうしましょう」
現在地は66番にある海軍駐屯基地。
シャボンディ諸島は広い。無駄に広いエリアの中、多人数を引き連れて歩いても意味は無い。かといって単独行動させるには危険すぎる。
「第1部隊は70から79番のホテル街へ。一部エリアでは女性の勧誘が噂されますが真相を突き止めて下さい。くれぐれも誘いに乗らないように。第2部隊は40から49番へ。違法販売店は海賊との関連性が高いのでチェックだけしておいて下さい。今回は踏み込みは許可しません。あくまでも確認だけにして下さい。第3、4部隊は30から39番へ、ここは施設が広いので連絡を取りながら別れて行動して下さい。シャボンディパークでは営業妨害をしないように。ついでに遊ばないようにお願いします」
此処にいる全員が全員、戦闘に長けている超人ばかりではない。
「移動中は部隊長が地図を持つように。逃走経路となりそうな道の確認、シャボン発生箇所とマングローブの位置についても確認しておいて下さい。それから現在使用されていない建物、老朽化した建物は隠れ家になりやすいのでチェックしておいて下さい。
最後に...各自、電伝虫を持っていると思いますが個人行動はしないで下さい。此処にはそれなりの人が集まりますから団体行動厳守です。万が一の時のために戦闘許可も出しますが一般の方にはくれぐれも注意を。また、深追いはしないようお願いします。確認が出来次第、部隊長は私に連絡を。その後は66番へ速やかに戻るように、以上です」
一歩間違えば猛者に遭遇する可能性も低くはない。その時に戦闘での被害は免れなくなる。
「准将はどうされますか?」
責任を負うのは構わない。だけど、私は誰かを死なせたくはない。
「私は1から29番へ行き"職業安定所"の状況を確認して来ます。その後は50から59番へ」
「.........お一人で大丈夫ですか?」
「この服を着てる以上は大丈夫でしょう」
伝令は済んだ。後は各自で行動するよう指示すれば、全員が敬礼して持ち場へと移動して行く。比較的に治安の良い場所を選んで向かわせたから問題はないだろう。問題は私が向かう1から29番..."職業安定所"のある無法地帯。何もなければいいけど...そう思いながら私は歩き始めた。
"職業安定所"は黙認された「闇」の部分だと誰もが知っている。
そこに近付けば近付くほど目の色の違う人間たちが"何か"を狙っているのが分かる。禁止されているはずなのに黙認されている矛盾は...私如きではどうすることも出来ないのが現実で、痛くないと言えば嘘になる。
29番から地図を見ながら順番を遡っていく。
周囲は華やかでも遠くで悲鳴や泣き声、悲痛なまでの叫びがかすかに聞こえる。例え防音された建物内にいても聞こえるのは私の能力の所為。こんな時ばかりは...持たなければ良かったと思ってしまう。
「.........何も、出来なくてごめんなさい」
と、こんなことを思う海軍将校は頭のおかしい人だろうか。
皆知ってる、皆分かってて助けはしない。きちんと声は聞こえていても聞こえないフリをする。その先の未来も分かっていて...見なかったことする。今の私も、同じなんだけど。
「ゴラ女ァ!!」
怒鳴る声にハッとなって振り返れば、そこにはマークを背負った海賊数人と...細身の女性がいた。
事情は全く分からないけど女性は手を掴まれていて、海賊たちは何やら激怒しているのが分かる。数人で女性一人を囲むカタチ...ましてや相手は海賊ならば見過ごすわけにはいかない。
「......痛いわね。店で暴れられても困るのよ」
「暴れる、だァ?気分良く飲んでたんだぜおれらは」
「てめェの一言さえなけりゃなァ」
「うるさいわね...いいから料金払ってきな」
海賊の営業妨害?何でこう海賊というのは金に汚いんだろう。
それよりも気になるのは海賊数人相手に全く引くことを知らない女性の方だ。武器は...持ってなさそうだけど強気すぎる。慣れてるのか怖いもの知らずなのか、どのみち危ない橋を渡ろうとしてるのが分かるから慌てて私は声を張った。
「そこまでです。その女性を放しなさい」
あ、慌てすぎてコートが落ちた。
「あァ?何だこのお嬢ちゃんはァ」
「事情も知らねェで何シャシャリ出て来てんだァ?」
海賊の数は3人、1人は未だ女性を掴んだままだったけど残り2人は悪ぶった様子でこちらに向かって来ている。
とりあえず...コレがないとただの小娘に見えても仕方ないから落ちたコートを拾っていつものように肩に掛ければ...どうやら相手は気付いてくれたらしい。少しだけ向かってくる速度が落ちた。
「貴方たちが海賊である以上、どんな事情があっても一般女性に手を出すことは許しません」
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