やらかしたと反省 (1/2)
何だか...やらかしてしまった感がある。
ああいう状況になってしまうと体が無意識に反応してしまうのは完全に職業病だ、絶対私は悪くない。と、いうよりも緊張感なくあの場に出て、うっかり人質とかになってしまった自分が悔まれる。周囲の空気で気付けよって話だ。皆、硬直状態だったのに何で気付かなかったんだろう...ほんと最近、どうも気が緩んでしまってダメだ。もっとこう、しっかりしないと。
.........でも気付いた、だろうなあ。
ロブ・ルッチは勿論、カクもカリファもしっかり見てた。何もかもを忘れて思いっきり"仕事"してしまった気がする。
今までは少し馬鹿な子くらいで見られてたはずなのに今件を境に急に一際厳しい目で「あいつ何者?」みたいな、そんな風に見られたことに気付かないはずがない。特にパウリー職長なんか今まで世話を焼いてくれてただけに余所余所しさがダイレクトに伝わる。
『で?』
「もう限界ですよ!とにかく帰還命令を」
『ああ......ダメだ』
「そろそろバレてしまいます。いや、もうバレてるかもしれませんから!」
そう、余所余所しくなったのは勿論、船大工さんたちだけじゃない。彼らも、だ。
少なくとも彼が私との間で起きた出来事を話した風ではなかったけど...話さざるを得ない状況を作ってしまったかもしれない。今までは勘違いを利用して誤魔化していたことがいよいよ本当に勘違いだと気付かれてしまっただろう。
......ただひたすら後悔だ。彼らでなく誰かに何か聞かれた時、どう答えたらいいんだろうとかも考える。
「兄から護身術を教わったんです」なんて一言で収まるだろうか。「ウチは代々戦闘民族なんです」とかナンセンスだろうか。色んな返答を考えるけどもう空いた距離は縮まらないだろう。"所詮そのレベル"の上を行っていることに皆気付いてる。
『ガレーラの任期が今回の任期だ。全うしろ。なァにもうすぐ終わるさ』
「ですから!」
『骨と報告書は拾ってやる。じゃあな』
ブツリと切れた回線。電伝虫は眠ってしまった。
全うするも何も気付かれるのは時間の問題で、素姓も何もかも分かってしまったら私の始末書提出は確定。誰かの命を受けたクザンだって小言を言われなくて済むはず。そう、ササッと私が消えてしまえば彼らは後を追うことはないだろうから消えるなら今しかない。それなのにそうさせないのは...単に面白がっているだけ、とかではないはず。
長年、クザンとは付き合いがあるけど彼の意思とか考えっていうのは未だ謎ばかりだ。
起きうる事の結末を"分かってて"敢えて"そうさせる"ところがある。過去に...もう随分前にはなるけれどそういうことを自らが起こした。それらはそれぞれに動いて、結末は遅かれ早かれやって来る。そんなことを彼は敢えてやる男なんだ。
にしても、本当にどうやって残りの時間を過ごしてくだろうか。
居心地の悪くなった空間でフォローに回るわけにもいかないし、より警戒してあの人たちも見張らないといけないし。
「.........やーめた」
色々考えたところで結論は出ないし時間は過ぎてくばかり。
今まで通り、何事もなかったかのように私が過ごしていけばいいだけの話かもしれない。まだまだクザンに恨み事言いたいような気もするけど、とりあえず明日だって仕事あるから寝てしまおう。大きな欠伸をして私はベッドに寝そべって布団を頭から被った。
翌朝、事務所に入ったら他の事務の子から「アイスバーグさんが呼んでる」と聞いて少し焦った。
彼にアレを見られたわけではないけど色んな人たちが見た。何かおかしいと踏んで彼が何かしら調査したとしたら...履歴書が偽りであることに気付いてしまう。ただでさえ彼は海軍を信用していない節があり、一切の隙を見せずに払い続けたと聞く。もし、私が海軍であることに気付いてしまったら...それこそ頑なに口を閉ざしてしまうだろう。
舌打ちしたいような気持ち、それを抑えながら歩く廊下。社長室目前で少し警戒したカリファが待ち構えていた。
「おはようございます、カリファさん」
「.........おはよう。アイスバーグさんがお待ちです」
スッと開けられた社長室の扉、開けてくれたカリファにお礼を言って一歩足を踏み込めばまだ眠そうなアイスバーグさんの姿があった。
「おはようございます。遅くなってすみません」
「ンマーおはよう。突然悪かったなァライラ」
いえいえ、と首を振ればアイスバーグさんはソファーに腰掛けるよう手を伸ばした。
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