留まる事を知らない誤解 (2/4)
少しずつ良くなって来ていると信じたいところだけどパウリー職長の声が物凄く頭に響く。俗に言う職業病ってやつですよね、その大きな声。出来れば今だけでもトーンを落として頂きたいのですが...
「大丈夫か?何じゃったらアイスバーグさんに言うて...」
「いえ、自分の所為なんで、気にしないで下さい」
ズキズキ痛む頭を抱えつつとりあえずドッグから離れて新鮮な空気を吸うべく外へと出た。
くそう、最近はあまり思い出すことがなかったのに...此処に来てからというものの妙に時間を持て余してるから、自分が意味なく生きてるとか、考えてしまう。今までの任務はそういうのを考える余裕もないくらい忙しかったからか。それなりの賞金首を相手に討伐討伐討伐討伐...と延々続く戦闘の方が少なくとも自我を保てる、だなんて知らなかった。
「帰り、たい......」
ダラダラした任務の方が楽かもしれない、ダラダラしてるクザンが羨ましい、なんて思った自分は馬鹿だ。ダラダラの時間は自分をどうしようもないものに変えてしまう。早く、早く任期が終わればいいのに。
「.........おい」
「あ、はい......え、」
待った、ちょっと待って下さい。何でこの人...追って来たんだろう。少なくともガレーラでの接触はほぼ無かったから安心してたのに。しかもこの場所、気持ち悪い、頭も痛い、思考回路が働かない中では...うまく動くことも出来ないのに、どう、どうしよう。
目の前に急に立つロブ・ルッチに困惑しながらも一定の距離を置く。けど何か吐きそうで...口元に手を当てずにはいられない。とりあえず...落ち着こう。何かあったとしても頑張ったら...戦えるかもしれない。身構える私、だけど...どうやら彼に戦意はないらしい。
「こっちの方が効くらしい。カクに渡すよう言われた」
「え、」
「飲んどけ」
真新しい酔い止めドリンクはまだ封も切られてなくて毒入りってわけでもなさそう。
コレも絶対にマズいと分かってはいるけど現状より良くなるために私はそれを受け取った。で、嫌な匂いがするけど一気に飲んで...ウッとなる。パウリー職長のとコレでさっさと効いてくれると仕事に差し支えなくて助かるんだけど...分からないなあ。
「有難う、御座います」
「礼はカクに言え」
「.........はい」
意外と紳士的だ。よく考えたらこの人、酔った私を殺すことも捨てることもなくベッドで寝かせてくれたんだよね。口を割らすためかもしれないけどあの状況で黙って殺すことだって出来たのに、起きるのを待って酔い止めくれて...変な人だ。この人なりの正義、なんだろうか。
「.........昨日は、有難う御座いました」
「次はないと思え」
「あ、あの、」
冷たい目でフン、と立ち去ろうとする彼を呼び止めれば、振り返りはしなかったけれどピタリと足が止まった。
「汚した布団、とか、弁償します。後でパウリー職長にお金を言付けますんで、」
「その必要はないが...言付けるならカクにしておけ。パウリーは使い込む」
「では、そのように」
またスタスタと歩いてくロブ・ルッチを眺めて、はあと溜め息を吐いた。
本当に...何してるんだろう私。秘密裏どころじゃなくなった件に関しても情けなく思うけど、酒に呑まれたことも、敵...ではないけど敵意を持たれた相手に塩まで貰って、それでよくもまあこんな仕事続けられてるなあとか思う。
彼の中の正義で生かされてる...自己嫌悪に陥っちゃいそうだ。
でも此処で落ち込んだところでどうしようもない。
少しずつ効いて来た酔い止めの後押しを受けながら私は背伸びをし、気合を入れ直して仕事へと戻った。
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