留まる事を知らない誤解 (1/4)
.........真面目な場面から一転、大変なことになって堪え切れず吐いて介抱されて、で、酷く誤解されてしまった。
まだ少し残る二日酔い中、どうにか頑張ってガレーラに出社したら頭に響く冷やかしの声が四方八方からする。
今朝、運悪くやって来たパウリー職長が見た光景は...疑われても仕方ないとは思う。そこであれだけ叫んでたんだから知れ渡るのは早いとは思ってたけど...ここまで早いとはある意味凄い。本当に色々と誤解もいいところ、ルッチ、ルッチと言われても私としては「はあ」と抜けた返事しか出来ないことに少しは気付いて頂きたい。
「おはようさん。朝からルッチに襲われてたそうじゃのう」
「.........おはようございます、カク職長。その件ですが誤解です」
「なァに、ルッチはいつもそうなんじゃ。お前さんは運がいい。未遂で何よりじゃった。あと、職長は付けんでくれ」
「ですから、誤解です...カクさん」
襲われていたことには間違いない気もするけど、普通に殺され掛かっていただけです。とは言えず。
まだ何も知らされていない様子のカクにわざわざ余計な情報を与えるわけにもいかない。むしろ互いの任務上、何も言うことは出来ない。とりあえず今はうまいことその辺を回避出来るだけの言葉をどうにか探そうとするけど残ったお酒の所為で何も浮かばない。
「お、噂をすれば来たのう」
奥の方から怒鳴るパウリー職長の「ロリコンハレンチ!!」と連呼しているのが声が聞こえる。
ロリコン...になるんだろうか。パウリーさんの言うロリコンの定義がよく分からないんだけど、確かデータではロブ・ルッチは28歳、私はもう24になってる。見た目ではよく幼いだと言われるがそういう変なレッテルを貼られるような年ではないと思う......けど色々誤解。
「てめェ、わざと飲まなかったんだろ!このロリコンハレンチが!!」
『パウリー、あの子は20歳を越えてるッポー』
「うっせえ!ありゃ純真無垢なお嬢さんだぞ?なんてことしてやがる!」
.........普通に、殺され掛かっていただけです。ある意味助かりましたけど。
彼も彼であの状況のフォローをうまく出来るようではないらしく、適当に交わそうとしているフシはあるけどもパウリー職長は引かない。否定の言葉は聞かないのに反省させたいのか謝罪させたいのか...私の隣でカクもまた大きな溜め息を吐いた。
「パウリー、朝っぱらからうるさいぞ」
「うるさくもなるだろうが!この変態ハト野郎が純真無垢なお嬢さんを――...」
『口説いてただけッポー』
.........はい?
「口説いっ――...った」
『......自分で自分の首を絞めたッポー』
自分の声に耳がつんざくってどうなんだろう。頭がガンガン痛む。
ちょっと調子に乗り過ぎて飲み過ぎてしまったとは思ってたけどここまで酔うのは初めてで何とも言えない。時々クザンが頭を抱えてる理由がよく分かった。自分の所為には違いないけど...これは酷い。しばらくは...というより今後はもうお酒なんか飲まなくていい。
『大丈夫か?酔い止めはまだ利かないのかッポー』
「だああああ!その子に触んな変態ロリコンハレンチハト野郎!!」
私の両肩に手を当てて心配を装っているけど...仕留め損なって本気でイラついてる目だ。
確かにあの時は...流石に死を覚悟した。
命を最優先に話す選択肢もあって、話しても構わないと言えば構わなかったと思ってた。海軍からの命令には間違いないし、元より私たちは味方だと言ってもおかしくないから。だけど、「命は惜しいだろう?」と問われた時、私は色んなことを考えて、考えて考えて......結果、惜しいなんて思ったことはない、と出た。だから私は言わなかった、逃げ出さなかった、死と向かい合った。
強いわけでも度胸があるわけでも潔いわけでもない。ただ、私は自分に対して...空っぽなだけなんだ。
『.........おい、』
「だああああもう!その子から手ェ放せ!!」
『パウリー...うるさいッポー』
「な、泣かせてんじゃねェか!変態ロリコンハレンチハト露出狂!!」
『おれの所為じゃないッポー』
軍に投じる身だから死が惜しくないわけじゃない。ただ空っぽな私、運良くまた生き延びた。
「.........次は、」
『クルポッポー?』
.........あ、ダメだダメだ。
「ごめんなさい。ちょっと気分悪くてパウリー職長の声もアレで...涙出ちゃいました」
「おれ!?」
「だ、から、本当に、二日酔いで、」
さっさと酔い止めが利いてくれればいいのに。おかしなことしか頭に浮かばない。
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