傷付いた翼でも、いつかは飛べる日が来る
初めて"風花のセト"を見た瞬間、それとも知らず目を惹いた。
まだ若ェ...エースくらいの年で何処となくちょっと前のエースと似た雰囲気。中堅クラスの連中ですら下げられてるってのにそいつはおれの目の前に立ち、一丁前に威嚇してくるもんだからてっきり新しい隊長かと思ったんだ。
「見慣れない若ェのが居るな。十七番目の隊長か?にしちゃ若すぎるだろ」
威嚇という名の挑発と受け止めて遊び心でちょっかい掛けた。その時だった。
そいつは強く拳を握り込んだ。掌に爪が食い込んじまうくらいにキツく握り込むその光景は...ウチのお嬢さんを思わせた。全然似てもねェのに、だ。
(.........男前とは聞いてなかったなァ)
何故か確信した。そしたら不覚にも、笑っちまった。
相手はオンナなのに凄んじまって悪いことしちまったとも思って、笑った。が、時すでに遅しってヤツで威嚇にプラスされて警戒も剥き出しにされて...お嬢さんの大好きな"風花のセト"にその瞬間から嫌われた。きっと、多分。
射抜くような目、その奥の色はお嬢さんと初めて会った時を思い出させた。
「お前が"風花"...セト、だな」
揺れた肩、見開いた目、それで更に確信を得た。
その様子ではきっと自分が「何なのか」を明かしていないことくらい明白でおれが近づけば近づくほどに表情がどんどん悪くなってくのが分かった。そりゃそうだ、若い身空で辛い目に遭って人を信じられなくなって...その風貌では色んなものを捨てて...独り、生きた。測り知れないモノを抱えたまま。
.........ウチのお嬢さんとはまた違った感情で、抱き締めてやりたくなる。
よく生きた、と。此処ならば間違いなく人として温かく生きられる、と諭してやりたくなる。
「ウチの部下に用件ならおれを通してくんない?」
「だからだなァ、エース。用があるのはおれじゃねェ」
「だったら――...」
けど、それはおれの役目じゃないことくらい、分かってる。
「オーイ、上がって来れるかァ?」
互いが互いを生かし続けたならば、今は互いが互いを救い合うといい。
もう、大丈夫だとお互いが認識して先に進めばいい。過去を忘れなくても先へ進めるんだとお互いに認め合うといい。
おれたちは、その意識だけは変えてやれねェから。
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