ONE PIECE [LC] | ナノ

もしも、のお話。



「ちゃちゃっと採って来いよい」とか無理難題をよくもまあ。
今、オヤジたちが停泊中の島のエターナルポースをポケットに、今から向かう先のエターナルポースを片手に飛び始めてどのくらい経っただろうか。そろそろ目的の場所に着いても良さそうなものなんだが、未だにそれらしき島には到達しない。何でも変わった動物たちが暮らす島でそこで育つ果実が死ぬほど美味いらしい。唐突にオヤジが食べたくなったらしくおれに白羽の矢が立った。別にマルコでも良さそうなことなのに。

「.........」

手の中のエターナルポースがようやく島を指した。
何か動物が見えた。確かに...何か変わった動物たちが見える。どうやら目的地に到着したらしい。だが...何か先客者もいるらしかった。声がするんだ三人分。出来れば争いごとは避けたいところだが...可能だろうか。

その島の一番高い山、そこに一人の少年の姿があった。
少なくとも強そうにはしてない...いや、それは単なる偏見だな。武器を所持していないようだから能力者の可能性もある、か。まあいい。

「.........失礼」
「ん?」

瀬の際に立たれているから後ろにしか着地出来ず、失礼ながら後ろを取る。別に攻撃するつもりはないが。
一応、声を掛けてみたが少年はキョロキョロするだけで後ろだとは気付いていない。

「ルフィ!後ろ後ろ!!」
「.........ルフィ?」

はて。聞き覚えのある名前、だが何処で?
下の彼女に叫ばれてようやく振り返った少年は本当にただの少年で...だが大物なのか驚いた様子は無い。

「何だお前」
「あー......名はセト。ちょっと果物狩りに来たんだ」

んー...何処となく間抜けな事を言った自覚はあるがこんなもんだろうか。別に間違ったことは言ってない。ただ伏せてることの方が多いだけで。
自分で発しておきながら何だがイマイチ納得出来ないことを言ってしまっている気はする。が、目の前の少年は特に気にした様子もなく、くるりと俺に背を向けて息を吸い込んだ。

「ナミー!こいつ、ちょっと果物狩りに来たんだってよー!!」
「っ、うるさ...」
「馬鹿!そいつ能力者よ!賞金稼ぎだったらどうすんのよ!」

んー...下の彼女は随分と真っ当らしい。
確かに、急に空から飛んで来た人間を見れば何らかの能力者なのは間違いなくて、そういう強いヤツは生活の為に賞金稼ぎとかにならなくもない。と、いうよりも彼らは賞金稼ぎを恐れる賞金首なんだろうか。最近はそのテの確認を怠っているもんだから分からない。

「え?何お前、賞金稼ぎか?」
「いいや......ただの海賊だ」
「ナミー!こいつ、ただの海賊だってよー!!」
「尚更悪いわ!!」

何にせよ状況が微妙だ。
面倒なことはしたくないし出来れば戦いたくもない。これまでの移動でそれなりに疲れもある。帰りのことも考えれば穏便に済ませたい。
特に敵視する様子もない少年を置いてゆっくりと山の下にいる彼女の元へ降り立てば......うん、それよりも気になる何かがいるな。箱に入った...オッサン、か?新種のトラップにしちゃ何かが変だ。

「な、何よ、アンタ...」
「俺はセト。別に争うつもりはない。本当に果実を探しているだけだ」
「.........」
「人がいるとは聞いてなかったから許可をもらうつもりで顔を出しただけなんだが...」

と、細かな事情は伏せて話をするが男たちはさておき彼女が一人、怪訝そうな顔をしたまま腕組みをしてる。
いかにも俺を信用してません、といった雰囲気。まあ、その反応が普通と言えば普通。どうしたもんかと俺も腕を組む。

「.........こいつも海賊よ」
「そうか...ならそっちの...彼は?」
「珍獣のオッサンだ!」
「おれは珍獣じゃねェ!」

.........珍獣のオッサンなる人物は、この島の管理者らしい。
この島に生きる動物たちは随分と珍しいらしく、その所為で海賊たちが次から次へと押し寄せてくるそうだ。勿論、変わった動物がいるとは聞いても売れるほどの珍獣だとは聞かされていないし、俺としてはそれらに興味もない。ただ御遣いを頼まれただけだと懇々と説明し続ければ...少しだけ事態が落ち着き始めた。

「この島の動物たちには手を出さない」
「ああ」
「私たちにも当然危害を加えない」
「ああ。約束する」
「じゃあ、それを信用出来るものを差し出して」

.........そんなもの、ない。
だが、運良くいくらかの金にはなるだろうモノはポケットの中にある。それを差し出せば済むのだろうか。

「.........悪い。大したものじゃないんだが」
「.........!」
「サルベージ品だ。おそらく売っても数万ベリーにしかな、」
「許可します!!!」

.........世の中、金か。守銭奴か。
本当に大したものではない宝石を手渡せば彼女が珍獣のオッサンと共に嬉々として果物狩りへと出掛けて行った。残されたのは警戒心のない海賊だという少年。何故か「良かったなァお前」と笑う。

「なかなか大変な仲間だな。えっと...」
「モンキー・D・ルフィ。海賊王になる男だ!」

ニカッと笑う。

「.........エース、」

何処かで聞いた名だと思う前に口にした名前。
無防備で警戒心がなく屈託のない笑顔を見せる少年の中に、確かにエースを見た。

「え?お前、エース知ってんのか?」
「知ってるも何も、仲間だ.........エース弟」
「なんだおれのことも知ってんのかァ」

ああ、どうしようもない弟がいると聞いている。どうしようもなく大事な弟だと、聞いている。

「そっか。エース元気か?」
「ああ。いつも元気だ。いつも楽しくやってる」
「そうかァ。すっげェ懐かしいなァ。いつか会いてェよ」

ああ、エースも会いたがってる。

「.........なら、俺たちの船に来るか?弟」

俺に権限は無い。だけど聞いてみた。勿論、返って来る答えも知っておきながら。

「行かねェ!エースにはエースの、おれにはおれの冒険があるんだ!いつか会える!!」
「.........それでこそ、エースの弟だな」

そう、エースも同じことを言っていた。
心配だ心配だと言うものだから、いっそこの船に迎え入れてはどうだと話したことがある。だが、ダメ元で話したとてアイツは付いてくるようなヤツじゃない。むしろ、おれの後ろから付いてくるようなみっともない男になっているなら殴るとまで言っていた。殴って殴って...船には乗せないとまで言い切ったんだ。

「帰ったら伝えてくれよ。おれ、元気だって!」
「分かった。必ず伝えよう」



沢山の果実と土産話を携えて、俺はモビー号へと急いだ。弟の屈託のない笑顔に見送られて。


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