始まりの始まりの、
私は、奇特な家で育った。
産まれた時から決められた道があって、育てられた環境も人とは違う。両親を知らずきょうだいも居ない。物心ついた時には同世代の友達は無く、外出することすら許されずお香混じりの部屋で淡々と過ごした。そこで叩き込まれたのは...人の道筋に関することだけ。閉鎖的な場所で知る他人の道筋、此処は...政府役人御用達の「呪屋敷」と呼ばれていた。
セトという名は、屋敷の誰かが決めた名で私自身の本名は今でも分からない。
私は屋敷の誰かが何処かの誰かから買い受けた子供で、強い「何か」を持っているとされていたそうだ。そのお達しを誰がどのように受け止め、私を親元から連れ出したのかは知らない。ただ私は産まれながらのボクシャと呼ばれる存在で、少なくともずっと可愛がられてはいたと思う。
―― とある、事件が起きるまで。
「何だと!?」
「.........王は、死ぬ運命」
「まだ若き王ぞ!?よもや死ぬなどと...っ」
「変えられない。黒き渦。王は、死ぬ」
通された部屋、王と呼ばれる者と二人の従者が並んで座っていた。
これは...10歳の頃の記憶。私が過ごした国での...最後の記憶となった。
「王は、金糸の髪。国が変わる」
「.........!!!」
「女性が、金糸の傍に」
「止めろ!!!」
視えるものを口にするのが私の仕事だった。だからこの日も同じようにした。
目の前の王は棺の中、黒き渦が呑み込んでしまった。
傍に居るのは金糸の髪をした人と女性...
この二人の従者は居ない。それが道筋。
当時はそれが何を意味しているかなんて分からなかったけど、それが全てだった。
国を挙げての金糸狩りが始まったそうだ。
金糸の髪であれば男女問わず消され、王宮に居る女中は全て殺されたそうだ。それは近親者であっても殺されたと聞く。私が直接目にしていないのは、私は「呪屋敷」に隔離されていたから。
だけど道筋は道筋。その後、何度視ようとも結果は同じだった。
王宮には女性は居ない。国には金糸は居ない。
ならば何故...?人々は私を疑い始めた。だから私は...奴隷商人に売られてしまった。殺されてもおかしくはなかったんだろうけど、人々は呪いを恐れた。それくらい、私は辿るべき道筋を見させられたんだと思う。それももう、記憶には無い。
売られる直前、商人は教えてくれた。
あの国の辿った末路は、やはり金糸の髪と女性。おかしくなってしまった国に金糸の髪をした男海兵と女海兵がひそかに入り込み、後に制圧したそうだ。おそらく偶然ではない。元よりあの国は海軍が警戒している国に過ぎなかったんだと思う。
奴隷商人が横行する国...それにより莫大な富をもたらした国。
あの国には決められた人間しかいなかった。特に老人は何処にもいなかった。決められた人数、決められた年齢...それを超えると自然と消えてなくなる。それが言い伝え。
誰も何も言わない。誰も、疑問に思わなかったんだろうか...
そして最後に私は視た。
私を買った奴隷商人の道筋を、視た。それ以来、私は人を視ることを止め...次第に視えなくなった。
「今宵も良き航海じゃった。全てそなたのお陰じゃ」
「そんなことはないよ。私は...」
私は再び、視る仕事を始めた。
だけどそれは人の道筋を視るものではない。海に問い、山に問い、風に問い...教わる知らせのようなもの。それを彼女は...風花と名付けた。その時だけ優しい風が私の周りをチラつくからだと言って。
そんな、優しいものではなかった。だけど今はこのままでいい。
そう思えるようになったのはきっと...生きて、大切だと思える人に出逢えたからだと私は信じている。
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