ONE PIECE [LC] | ナノ

必要だから藁にも縋りたい



「あら...セト?セトじゃない!」
「......お久しぶりです。シャクヤクさん」

シャボンディ諸島13番GRにあるバー。そこに彼女は居た。
腕を組んで銜え煙草...とても久しぶりにやって来て彼女を見て、昔と何も変わっていないことに驚いた。それと同時にホッとした。私の知るシャクヤクさんがそこに居た。

「大きくなったわね。10年は経ってるかしら」
「そうですね」
「今日来たの?事前に言ってくれればレイさん足止めしたのに」

油断出来ない環境、怯える人の目。
此処はマリージョアに一番近い島。"彼ら"が存在することで...誰もが慎ましく生きる。
決していい空気はない。私にとっても...居たくない場所。ただ、此処だけは安心出来る場所で本当に何も変わらないシャクヤクさんに心底ホッとした。

「いえ...連絡もせず急にごめんなさい」
「いいのよ。セトだったら歓迎するわ」

座って、と促されて私は席に座る。そこから見る景色は...10年前と少し違った。

「本当に大きくなったわね。見違えちゃった」
「有難う。すぐに気付いてもらえて良かったです」
「気付かないわけないわ。面影残ってるもの、ほら...」

背が伸びて体が大きくなった、それだけで見える景色が違う。
シャクヤクさんが指さす写真に残っているのは...今より遥かに小さな私だ。あの頃に私は、此処でこの席に座っていた。

「それにしても一人でどうしたのよ」
「......女ヶ島を出ました。"彼女"に会いに行こうと思って」
「"彼女"って...」
「シャボンディ諸島の方向に"風花"が向きました。それで来たんです」

今より遥かに小さな自分、その横で同じくらいの女の子が一緒に写っている。
お互いに笑っていない、だけど強く手を繋いで「これからを生きる」と約束した、もう一人の私。双子じゃないし姉妹でもないから似ても似つかない子だけど...誰よりも大事な子、誰よりも会いたい子。

「"セト"ね。残念だけど彼女と思しき人物は此処には来てないわよ」
「そうですか...」

でも、此処が手掛かりがあるはず...
そう思いながらシャクヤクさんが出してくれたコーヒーに目を落とした。



私は生まれ故郷こそもう覚えていないけど、あの事がきっかけで女ヶ島で生きてた。"彼女"と共に。

それは今から約10年前のことで、そこに映る写真の頃......私たちはただ幼かった。
色んな事が起きた、その衝撃から始めは何も手につかないほどに憔悴しきっていた。食事も大して喉を通らず、どうしようもない状態、それを助けてくれたのは女ヶ島の仲間たちと"彼女"、そして同じく共に生きた三姉妹。私たちは小さな手を取り合って生きた。

心身共に回復するまでに1年、戦術の基礎を学び終えるまでに1年。
"彼女"は深い理由を告げることなく島を出た。私は九蛇海賊団の参謀として船に乗った。その後、音沙汰はない。

私は占いから航路など全てを導き出す役割を担っていた。
花を散らし目的方向を見出す"風花"、知る者の現状を示す"水晶"、先見をするための"カード"、これらで九蛇海賊団の航海は動いていた。その側らで少しずつ戦闘を学んで来たけれども...完全に習得は出来なかった。

何不自由のない生活。悪いことは何も無かった。
だけど私は...知った、知ってしまった。



「ハンコックに此処まで送ってもらったの?」
「はい。41番で別れました。シャクヤクさんにもよろしくと言ってましたよ」
「そう...寄ってくれればって言いたいところだけどそうもいかないわよね」
「......そうですね」

コーヒーを一口飲んでテーブルに戻す。苦笑しか出来ない私にシャクヤクさんもまた同じような顔をして私の向かいに座って煙草を吸い始めた。そんな姿もまた昔と変わらないと安心するのは変だろうか。例え変かもしれなくても、安心する。

「それで、しばらく此処に滞在するの?」
「......まだ、決めてません。けど、」
「此処には...居たくないわよね」

私には、いや、私にも一生消えないものがある。
ある人は隙を見せぬことでソレを隠し、ある人はその強さでソレを隠した。ある人は...感情を晒さぬことでソレを隠しているんだろう。でも、私はそれがうまく出来ずにただ膝を抱えた。今も昔も夜が怖く、一人が怖い。与えられた恐怖が未だに闇と共に現れそうで...

「......シャクヤクさん」
「んー...ちょっと待ってくれる?足音、近づいてるから」

お客さんかな?とは言っても決して品のある人ばかりが此処に来るわけじゃない。
私はすぐにフードを被り、カウンターに置かれたコーヒーを見て出来るだけ身を縮めた。そして、足音は一気に店へとやって来た。

「レイリーさん!」

明るく元気な男性の声...というか、随分とけたたましい声が店内に響く。

「あら......あなただったのね」
「ん?あァ、タチの悪い客だと期待させちまったか?」
「まあそんなとこ。残念ね、レイさんならちょっと前に出掛けたから...」
「じゃあ数日は会えねェなァ」
「ふふ、そうね。そのうち帰っては来るでしょうけど」

コーヒーから目を彼女に移せば彼女は穏やかに笑った。どうやら大丈夫みたい。
一つの足音が近くのテーブルへと移動したようで、元気な笑い声が片耳から聞こえる。注文という注文はなく、彼女もまた何も言うことなく近場の酒ビンをポーン投げた。

「適当に飲んでちょうだい。カウンターにもお客さんいるから静かにね」
「おー...って、珍しいなァ。普段はそんなこと言わねェのに」
「こっちのお客さんはカタギなの。あなたたちを見たら怯えちゃうわ」
「ふーん」

海賊、か。
私もある意味、海賊だと思ってはいるけどいつも他の戦士の後ろに隠れてた存在だ。強くもないしソレらしくもない。
だけどカタギだと言われたら...少しだけ笑っちゃう。これから...やろうとしてることは決して普通の人のすることじゃない。

「で、これからどうするの?」
「.........船を奪います。それで海へ」
「あらあら"奪う"だなんて貴女らしくないわね」
「だって買う余裕はありませんし...それにある程度ならば可能です」
「うーん...その時は手を貸すけど、その後は?」

此処に彼女が居ればこんなことするつもりはなかった。でも居ないことは分かってた。
私たちは此処が大嫌いだ。自由を手に入れられた場所だけど、自由を失った場所でもあったから。それに、気持ち悪い。言い表せない感情が渦巻いて、これは何年経とうとも同じでもう二度と変わることはない。私たちは、此処が大嫌いだ。
だけど此処以外に頼れる場所はなくて、だから彼女も此処に来た可能性が高かったけど...どうやらハズれたらしい。

「ログポースもありますし何とか渡れるはず」
「.........海はそんなに甘いもんじゃねェよお嬢さん」



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