ONE PIECE [LC] | ナノ

#02



「お前さァ、いっつも同じような服だな」
「コレが好きなんだ」
「おれの着流し貸してやろうか?」
「.........結構だ」

「船に留まる必要はねェ。たまには降りて羽根伸ばせよい」
「.........いや、いい」
「子供たちはサッチが面倒見るから心配ないんだがねい」
「おれ!?」
「だったら二人を遊ばせてくれると助かる。俺は...部屋にいるよ」

「オイオイ今日は宴だぞ。お前も飲めよォ」
「ガキ共は寝てんだろ?羽目外せよ」
「.........アンタら羽目外しすぎだ。服を着ろ」
「お?照れてんのかァ?」
「.........興味ないね。逆に吐きそうだ」

「グララララ!おめェ、もっと自由にしていいんだぞ」
「十分自由にさせてもらってる」
「好きなことして好きに生きる。制限はねェぞ」
「.........好きなこと、ねえ」
「おれはなァ酒を飲むのが好きだ。おめェは何が好きだ?」
「俺は......家族だな」
「そりゃ当たり前だアホンダラ!グラララララ!」



おれは食うのが好きだ。寝るも好きだ。暴れるのも好きだ。
好きな服着て一番に町に降りて色んなもん食って...海軍に襲われようが海賊に襲われようが知ったこっちゃねェ。蹴散らして暴れてスッキリしたら船に戻って寝る。そしてまた次の日にはオヤジがいて仲間たちと食って飲んで暴れて寝る。こんな幸せなことはねェ。


「ねェセトちゃんの幸せってどんなカンジ?」
「は?何を藪から棒に...」
「だってディナったら女としての幸せがどうとか言うんだもん」
「.........無視すれば?」
「ええーセトちゃんってば冷たいー」
「俺は今が一番幸せだから、もういい」



おれは欲張りだ。もっともっと欲しいもんが沢山あるしやりたいことだって沢山ある。
もう必要ないとかそんな言葉は脳内にねェし、言えって言われたら止めどなく言える。出来ること出来ないこと全部足したら人生の全てを賭けても全然足りねェくらいの時間が必要だろうな。それくらいおれは貪欲だ。

けどセトは違う。今あるもので全て満たされて、今あるものを大事に想う。
それ以上は望まず、それ以上を見出すこともなく、突き付けられたものなんかに興味はない。だから、欲なんかない。
欲しいものを欲しいと言えない子供...シンとエアのことらしいが、セトだって同じに見える。
小さなものだっていい。お前が最近密かに勉強してる航海術の本だっていい。目を伏せずに一言、言ってくれたならおれらはきっと喜んで与えるだろう。
物じゃなくていい。食べ物だって、お前が一言好物でも教えてくれりゃシェフに通達することだって出来る。

.........おれは、未だに何も知らねェんだ。
好きなもの、好きな色、好きな食べ物、好きなこと。嫌いなもの、嫌いな色、嫌いな食べ物、嫌いなこと。



「セト!」
「お、おお......ビックリした」

晴天、洗濯当番だったセトが外で仕事をしてると聞いておれは気付いたら走ってた。
ベッドの中で悶々と考えても仕方ねェし、おれがどんなに考えても答えは返って来ねェ。必ずある答えなのに。

「今度はどうした」
「好きな色!」
「はあ?」
「お前の好きな色!食べ物!もの!」

教えろと言えば不思議そうな顔をして、それから眉間にシワを寄せた。

「.........好きな、」

仕事の片手間に考えてくれているらしい。
手を休めることなく、だけど考えてくれているらしい彼女の表情はどんどん険しくなっているような気がする。

「そんなに考えることだったか?」
「いや...そういうのを考えたことなかったから...というより突拍子もなく聞くからピンと来てないだけだ」
「じゃ考えろ」

そう言えば、彼女は不思議そうにおれを見て...少し呆れたような溜め息を吐いた。
時間はいくらでもある。もうこの船から降りたりしないと腹を据えたセトには、この船で過ごす膨大な時間がある。考えたことのないことだって考える時間がある。片手間でも...時間はあるんだから、考えて欲しいと思うのはおれの我儘だろうか。もっと色んなことに貪欲であって欲しいと思うのは我儘だろうか。

「そうだな......"此処"は好きだな」
「此処って...モビー号のことか?」
「ああ。俺を......取り巻く環境とか人は好きだ」
「他には?」
「.........さあな。これ以上は浮かばねえ」

好きな色、好きな食べ物、好きだと思うもの。セトは浮かばないと言った。それは、何処か物悲しい気持ちにさせられた。
苦手な色があるとは言ってねェ。嫌いな食べ物はないと言ったわけじゃねェ。まるで考えることを止めたような、欲張ることを止めたような...今あるもので十分だと...そんな風に考えてるって言ってるように聞こえた。

もう、誰も制限しない。もう何をしても許される。何を求めても許される。全てが自由なのに......

「エースは好きなものだらけだな」
「.........へ?」
「食うのも遊ぶのも寝るのも好きだろ?」
「あァ...」
「たまにはエリス見習って戦略考えてみろよ。マルコ驚くぜ」

.........何か、うまく交わされたような気がした。
洗濯物を干していくセトの背中は近くにあって何処か遠い。目の前にあるのに触れれないような気がする。
今までより縮んだはずの距離がまだまだ遠いなんて、そんなこと...考えたくもなければ思いたくもない。

「.........いつになれば、」

この距離は縮むんだろう。おれの求めるセトが見れるのだろう。
大きなわがたまりのようなもの、その淵に佇んでいるような...そんなセトをおれは見ていたくないのに...どうしてそちら側ばかりにいるんだろう。
お前の居場所はいつだって"此処"だって知ってるはずなのに。気付いて分かってるはずなのに。

「どうした?」
「.........いいや」
「じゃ、俺次の掃除があるから、またなエース」

照り付ける太陽の下、干された綺麗な洗濯物。おれはただモヤモヤした気持ちで眺めた。
汚れみたいに綺麗さっぱり落ちる、なんてほど想いは簡単じゃない単純じゃないって分かっていて...それでもおれは考える。それはいつだってセトのことなのに、アイツは自分のことを考えないんだ。


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