ONE PIECE [LC] | ナノ

#01



好きだ、ただただ好きだ。愛してる。
冗談なんかじゃない、本気でそう言ったところで静かに交わされる日々が続く。怒るわけでも笑うわけでも呆れるわけでもなく...
前にユノが言った通りで真面目に向かい合えば相手してもらえるってのは分かった。けど、おれが望む答えは返って来ない。同じか同じじゃないか、いいのか悪いのか、迷惑なのかそうでないのか...それもなくただ切ない表情を浮かべるだけ。

「そりゃお前じゃ若すぎるからじゃねェの?」

.........なくもない、かもしれないけどそうじゃない。

「フツーに"兄弟"なんだろ?今更、なァ」

そんなの、きっと関係ない。

イイも悪いも言えるんだ。人一倍強烈に言えるんだアイツは。だから...きっと言わない理由があるんだ。
おれが傷付くから?だったら今の状態の方がしんどい。興味ないから?だったらそう言えばいいし、アイツなら言ってくれると思ってる。じゃあ、それをしない理由は?そんなの...アイツにしか分からないことだ。けど教えちゃくれねェ。

.........だから、堂々巡りなんだ。ずっと、もうずっと。


セトは、この船の空気を変えた風だ。皆が認める"家族"だ。
もう何の遠慮もいらねェしオヤジの名に恥じなければ何だってしていい。甘えたっていい。けどセトはそういう面だけは律儀で相変わらずだ。
自分がどういう立ち位置にいるのかを一番に把握し、余程でなければ隊長たちに賛否を問う。時にはオヤジに問い掛け、自由にしていいと言われてもその"自由"に戸惑い、暴走することはない。おれらなんか「好きにしていい」って言われりゃ何だってするのにな。

それが......"奴隷"だ

ある日切ない顔で呟かれた時、おれはどうすることも出来なかった。
怒ることも悲しむことも抱き締めてやることも出来ずにただ見つめれば、セトはニッと笑っておれの肩を叩いて背を向けた。ただ苦しくなった。ただ痛くてどうかなるとこだった。けどそれはおれじゃない、本当はセトが...そんな感情を今も持っているように感じた。

今も"人が怖いんだ"と言ってるように思えたんだ。




「何呆けてんだよエース」
「え?」
「お前、柄もなく一時間はそこで呆けてるぞ」

あまり人の行き来が少ない物置、別名ゴミ部屋。よくセトがナースから逃げて隠れる部屋。
元々はおれの隠れ家で主にマルコからの説教から逃げるための部屋だった。あと埃臭ェけど昼寝もよくする。セトと会うようになったのは...あいつが本当のことを話した後からだ。

「呆けてねェよ。ただ考え事してただけだ」
「そうか。なら明日は雨だな。何も考えない無鉄砲なのがエースだろ」
「たまにはセンチメートルに駆られることもある」
「センチメンタルだ馬鹿。無理してカッコつけてもそれじゃ意味ねえぞ」

笑う。お前、マジで馬鹿なんだなと笑う。
セトは本当によく笑うようになった。最初は冷めた目で見て鼻で笑うようなヤツだったけど、今はようやく信頼を得られたのかそういうこともなくなった。表情が出るようになったんだ。無ではない、感情ある表情が。それがおれらにとってどれだけ嬉しいことか、きっとセトは知らねェだろうがな。

片手にモップ、掃除をしに来たらしいセトだが、そのモップを適当な場所に立て掛けてストンとおれの横に座った。

「で、センチメートルに駆られたエースは何を考えてたんだ?」

そして、優しい表情を浮かべておれに訊く。
元々面倒見のいいセト。茶化した訊き方だったけど多分、相談に乗ろうとしてくれようとしているのだろう。けど、その内容が自分のことなんだってことに気付いちゃない。マルコが言う鈍感ってヤツだ。おれはいつだってセトのことでしか悩んでないことを、知らないんだ。

「.........色々だ」
「大雑把な回答だな。でもまあ無駄に悩むこともあるさ」
「.........無駄、かァ」

そのことに少しムッとして返事をしたけどセトは表情を変えることなく小さく頷いた。

「どうせ答えのないものを考えてるんだろ。それは無駄だ。けど...大事だ」
「どっちだよ」
「時間が経てば分かることだ」

.........どっかのオッサンみたいなことを言う。
時間が経てば分かる、もっと大人になれば分かる...それじゃ遅い、おれはもっと早く答えが欲しいんだ。もっと、明確な答えが欲しいんだ。
「俺も無駄に考えて...その時は無駄だった。けどそれは今になれば...大事な無駄だったように思える」

.........あァ、昔の自分を思い出してるのか。
苦しみしかなかった時代、苦痛の中で生きていた時の自分のことを言ってるんだって馬鹿なおれでも分かった。今があるから...その時の自分を振り返った時にそう思えるって言いたいのか。また、あの時みたいな顔で呟いて...それを見る度におれが抱き締めたくなるのをセトは知らない。

「けど思い詰めてイイことはない。どうせ答えがないんなら少し悩めばいい。じゃないと禿げるぞ」

答えは、いつだって近くにあることも、セトは知らない。

「.........お前のこと、考えてた」
「俺?」
「どうしたらお前がおれの気持ち受け止めてくれるか、考えてた」

真っ直ぐ、真っ直ぐ向き合えばセトは応えてくれると思ってたのに。
この話題になる度にセトは表情を変えてスッと顔を背けるようになった。今もそう、視線をスッとおれから逸らした。

「.........まだ、そんなことを」
「そんなことじゃねェよ。大事なことだ。それに...答えだって本当はあるはずだ」

ただ、答えてもらえないだけで。

「.........確かに、そんなこと、なんて言い方は悪かった。すまない」
「んなこと聞きたいわけじゃない!」

相変わらず目は逸らされたまま、意味のない謝罪をもらってブチ切れる。
そこじゃない、そんな答えが欲しいわけじゃねェ。白か黒か、グレーなんざ望んでないってことはお前が一番よく分かってるはずだ。おれは、そういうのが嫌いだから。それなのに未だ答えようとしないセトは...嫌いだ、だけど、好きだ。だから困る、だからイライラする。

「.........此処の掃除をしたいから退いてくれ」
「はぐらかすなよ!」
「.........悪い、エース」

セトはスッと立ち上がり目を伏せておれを見ない。
いつもコレだ。おれが真面目に問えば問うほど何も見えない、何も聞こえない、何も知らないと言わんばかりの行動を取っては逃げていく。

「悪いなエース...」

その言葉に何の意味があるってんだ。おれはいつだって胸倉掴んで叫びたい衝動に駆られるんだ。


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